40 ボア肉よ、スープにコクをもたらしたまへ
──さっそく、問題発生!
「ミンチって、どうすんねん」
スープ用に鳥の骨で出汁をとりながら、作業用に土魔法でつくった大きめテーブルで一人うなる。
試験で一人だけのんびりする訳にもいかないので、時間短縮のために餃子の皮は家で小麦粉をもとに作ってきた。
ので、わたしは今からタネを作る訳なんだけども……。
うん、そうだね。ボアの肉、ふつうにスライスしたまんまだね!
これはボアバラとロース……的な部分かな?
いやー、現代社会の商品って本当に便利というか、使い勝手が良いんだなぁ。
あはは。はは……。
「ダオは……、相変わらず魔女の視線を集めてるっと」
ちらりと見学席を盗み見れば、ダオはこちらをワクワクと見つめ。
その周りではダオに視線を送る魔女たち。
異様な光景。
いや、試験だからね? もちろんダオのミキサーには頼りませんよ。
しかしわたしは風魔法をダオみたいに上手には使えない。
「まぁ、大昔はそもそもミンチなんて……なかった、か?」
料理に正解はないとはいえ、自分の頭の中にあるのは確実に、アレ。
うーん。
ちょっと重労働だろうけど、頑張ってみよう。
まずは豚肉よりももうちょっと赤味があるお肉を、こまかーくカット。
バラの方はそれこそミンチっぽくなるように、包丁で叩きながら。
あれだ、なめろうを作るかのように!
粘り気がでてきて、意外とそれっぽくなった。
ロースの方はちょっと叩いてみたけど、肉質の関係かそこまでねっとりはしない。
ので、細かく切るにとどめる。できるだけ、細かく。
「なんか、存在感すごそう……」
気滞タイプには、脂っこいものや、甘いものは控えた方がいいらしい。
……けど、それってタイプに関係なく、何事も摂りすぎは良くないと思う。
だから、焼き餃子ではなく、あくまでスープの具として餃子自体を少なめに提供って訳だ。
割合も、肉少なめ、具材多めで混ぜる予定。
「こんなもんかな?」
ボア肉のミンチっぽいもの、完成!
タネに入れる野菜は、きゃべつ、玉ねぎ、にらをチョイス。
今回は薄味のスープに入れる用の餃子。
玉ねぎとにらを強調したいから、きゃべつは普通に入れるより気持ち少な目で。
これらも粗みじん切りに。
おっと……にんにくも忘れずに。こちらもバランス重視で気持ち少な目。
「先に肉と調味料入れて~」
器に肉投入、からの味付け。
お酒に、しょうゆ、塩こしょう。
……あ、しょうが無いけど……。まぁ、いいか。
我ながら、ザ・テキトウ。
「あーら、ハニティ。のろまねぇ?」
(げ)
一生懸命に調理しているところに、嵐が乱入。
頼むから終わるまで放っておいて……!
「り、リチアナはもう終わったんだ?」
「当たり前でしょう? 花を模した完璧な土魔法。美を促す魔力を込めたローズウォーター。……完璧ですわ」
「へぇ?」
ローズウォーターか、なるほど。
美しさを追求するリチアナらしい。
効果のほどは分からないけど、たしかにリチアナやグランローズ様を見てるとめちゃめちゃ効果がありそうに思える。
きっと『美しく在る』ことは、魔女の務めと思っている人にとって、地の魔女の魔力は十分手助けしてくれるんだろうな。
「そう考えると魔女のイメージ戦略はネガティブ要素強いけど、大魔女の象徴って、勇気と希望とか、慈愛と成長とか……ポジティブ要素強めだよなぁ」
「なんです?」
「いや、リチアナって暇なんだなぁって」
「なんですってぇ!?」
「あ、間違えた」
実際、地の魔女は特にやさしいというか。ふんわりした人が多い。
『慈愛』を司るからなのか、緑に触れる機会が多くて大らかだからか分からないけど。
けど、リチアナは『成長』って意味ではぴったりだけど、どうも他人に対する言動を見る限り、地の大魔女としてどう在りたいのか見えてこない。
「な、生意気な……!」
「リチアナはさぁ」
「!?」
「わたしと競いたいってのは分かるけどさ。試験って、別に勝ち負けじゃないと思うんだよね」
「──なっ」
「ライバルはもちろん大事だよ? 成長、って意味では特に。……でもさ、大魔女になってどう在りたいか……。リチアナは、ちゃんと考えてるの?」
もちろんそれは、地の大魔女として。
他を慈しみ、そして成長を手助けする存在。
「あ、当たり前で──」
「だったら、わたしがどうであっても。……自分に自信を持ちなよ。今のリチアナはまるで──」
「っ!」
「──あ」
図星、だったのだろうか。
(まるで……、自分に自信がないから。わたしを攻撃する。そんな風に、みえるよ)
……うーん。
負の感情を持たれるのは、どうも慣れないな。
ふと周りをみると、リチアナに当たられるゼノって人。それを見守る見学魔女。
心配そうにこちらを見るダオ。
それと、まだ薬を調合中のエボニーの姿が目に入った。
(みんな、それぞれが切磋琢磨する。……それじゃ、ダメなのかなぁ)
そこに、他人を蹴落とす。って選択は必要ないんじゃないかな。
どうしても地の魔女になりたいってなら話は分かるけど、リチアナを見るに『大魔女』そのものに固執している気がするし……。
なんでだ?
「……気を取り直して」
いかんいかん、ペースを乱されてはいかん。
味の付いたボア肉を粘り気がさらに出るまで混ぜる。
ひととおり混ぜ終えたら、今度は具材を全部投入。
こねてこねて……、タネ! ……改め、あんの完成!
あとは皮の中央にあんを乗せて~、水でふちを濡らしてひだを作りながら閉じる。
……うん、餃子です!
分量的には二十個くらいかな? こりゃ参加者全員に振る舞えそうだ。
スープは餃子を割って食べる前提なので、シンプルに。
とっておいた鳥がらスープに、塩こしょう、醤油で味付け。
……シンプル過ぎたか?
申し訳程度に小ねぎも用意しておこう。
「餃子から色んな味でるし、いいでしょ」
あとは煮込んで餃子に火が通るのを待つだけ。
──さぁ、ボア肉よ。その脂をもって、スープにコクを与えたまえ!