38 いざ、定期試験②
「おお、かわいらしい……」
知り合い、という程でもないエボニーとリチアナ以外の魔女二人も、かわいらしい女の子だ。
話したことはないので、会釈程度にごあいさつ。
定期試験の会場は、街の外側。
結界と中心街の中間地点で、耕した土地や溜め池があるような場所。
街からそう距離はないけどね。
テーブルやイスは、さすが地の魔女ってだけあって、土魔法で手作り。
見学にきた地の魔女も会場の設営を手伝ってくれる。
日よけに植物をイスの上に覆うよう成長させ、ハーブティーを振る舞ってくれている。
地属性以外の魔女は、なにやら感心した様子で座って見学中。
わたしはといえば、自分用にあとでかまどを作り出す予定だ。
「あーら、ハニティ。今日も地味ね」
「地味バンザーイ。リチアナは今日も元気だね」
「体こそ資本ですから」
「それには同意」
珍しく意見があったのは偶然でしょう。
「……ん?」
試験開始まで各自思い思いに過ごす会場で。
ダオ以外の男性の姿が、リチアナの後ろに見えた。
赤い短髪が特徴的な青年。
「──ゼノも来たんだ」
「エボニー」
わたしの後ろから声を掛けてきたエボニーが、教えてくれた。
「ハニティ、気を付けてね。……ゼノは前々から魔女の騎士になりたいって言ってたから」
「? そうなんだ」
「……意味、分かってる?」
「いや……?」
「──もうっ! ハニティったら。ダオ、しっかり守ってあげて!」
「ああ、そのつもりだ」
「なんなの二人して……」
リチアナと一緒にいるってことは、リチアナの騎士になりたいってことでしょ?
さすがに、絆がものを言う騎士の契約で「相手が誰でもいいから魔女の騎士になりたーい」って人、居ないんじゃない?
……居ない、よね?
とかなんとか考えていると、会場がざわつき始めた。
「あ」
以前はよく見た光景。
ラヴァース様の魔力が、まるで花びらのように舞い、主の来訪を告げる。
会場は瞬く間に花びらの海に包まれた。
「──グランローズ様よ!」
エボニーの言う様に、花びらの中から現れたのは師匠こと地の大魔女。
恵土の魔女の名をもつ、グランローズ様だ。
五十八歳とは思えない若々しさと艶をお持ちで、四十代前半にしか見えない。
きっちりとまとめた御髪は、染めていないのに綺麗な茶色だ。
「皆さん、日々の修行ご苦労様です」
審査員のグランローズ様に用意されたイスへと腰掛け、労いの言葉を述べる。
我が師匠ながら上品なマダム、って感じで素敵。
……ラヴァース様は姿は現さないのかな?
見学魔女含め、皆が席を立ち大魔女へ敬意を表す。
参加者であるわたし達は、よりグランローズ様の方へと近付いた。
「……今回の定期試験、参加は五名と聞いているわ。エボニー、リチアナ、ユッカ、リネア、……ハニティね」
ほうほう、彼女らはユッカちゃんとリネアちゃんと言うのか。
名前もかわいい。
「初めての子はいないようだから、皆さんご存知とは思うけれど。……地の魔女は、慈愛と成長を司る魔女。そして、大地と共に生きる魔法使い。……それぞれの解釈で構いません。魔力をもって、地の魔女としてなにを示すのか。今回も楽しみにしております」
大魔女から開会の宣誓がされると、見学者たちから拍手。
やばい、ちょっと緊張が増してきおった……。
「ハニティ、がんばろうね!」
「お、おう」
「ふん、せいぜい地の魔女として恥のないよう願うわ」
「……」
癒し枠のエボニーを拝まずにはいられない。




