36 『悲しい別れ』『耐える愛』
「──ハニティ!」
魔女の定期試験は三日後。
もうこの際、リチアナにとやかく言われようが自分の育てた植物を使った料理。
それにしよう。
リチアナはどちらかと言うと成長! 地の魔女なら、こうよ! って感じの魔女。
……なんだけど、意外と古風なところもあって、魔女の伝統というか。
歴史というか。前例を踏襲するのが、良いことだって思ってる。
成長と革新は別物なんだろうか……。
いや、伝統を守るのも大事なんだけど……。
とか椅子に腰かけて考えていると、外で自身の洗濯をしているはずのダオから声があがる。
人見知りでひとり好き、と思っていたけれど。
なんだかんだ、居心地がいい相手とはそうじゃないのかもしれない。
「なにー?」
「ちょっと、来てくれ!」
「……?」
珍しく焦った様子のダオ。
慌てて外にでれば、桶にはいった水を指差す。
「こ、声が! 声が、聞こえるんだ!」
「声?」
……桶から?
疑問に思ってのぞきこんでみる。
ダオが魔法で出したであろう水からは、ダオ以外の魔力を感じた。
『──ヒサシイナ』
「……あ! イフェイオン様!」
水の大魔女と運命を共にする、水の精霊イフェイオン。
他の精霊とちがい、水のごとく確かな実体を持たない彼の方は、この世の魔力を含んだ水に干渉できる。
……桶の水がしゃべってるのを想像すると、ちょっとシュールだけども。
「イフェイオン……様?」
「シークイン様と共にいらっしゃる、水の精霊だよ」
「! 精霊……」
「登場の仕方は驚くよね」
そもそも大魔女とすら滅多に会えないというのに。
精霊にはもっとお目にかかれないのだ。
前にシークイン様とお会いする前に一度、伝令みたいにこうやって対面したのが最後だっけ。
『トキハ、チカイ』
「……時?」
『メザメタノダロウ?』
「──!」
やっぱり、シークイン様はわたしの前世……転生について分かっていたんだ。
『オマエノオモウママニ。ソレガ、シークインノノゾミダ』
「シークイン様の……?」
あの方の望みが、わたしの思うこと……?
どういうことだろう。
『ダガ、キヲツケロ』
「なにを、でしょう?」
今のところ、リチアナとダオの呪い以外、不安要素はないような……。
『ラヴァースノケイショウ』
「ラヴァース様の……?」
地の精霊であり、永遠の樹に宿る魔力そのものでもあるラヴァース。
今はグランローズ様と共に在り、永遠の樹を通して世界の大地に宿る魔力を見守っている。
『シークインガ、エイエンノキヲミタノハ……ニカイメダ』
「わたしと……ダオ?」
『ソウダ』
つまり水の精霊は、今回シークイン様が『視た』のがわたしと永遠の樹だったので、それを伝えにきたのだ。
「近い時期に同じものを視るのは……たしかに、意味がありそうですね」
『ソレイジョウナニモミエナカッタガ、ケイカイスルヨウニト』
「承知しました、……ありがとうございます」
『──デハナ』
そう言うと、桶の水からはダオの魔力以外なにも感じなくなった。
「永遠の樹、か」
「わたしが地の大魔女になったら、……なんかあるのかな?」
「ふむ……」
単純に、わたしが大魔女になる。って予言だけならなにも心配は要らない。
でも、そういう雰囲気になってるところにわざわざシークイン様のお力が「この地味っぽい魔女が次の継承者!」とか教えるだろうか?
「永遠の樹を目指すとは……、地の大魔女を目指せという意味だったのか。……それとも、地の精霊なのか」
「まぁ、どっちも同じだけどさ」
「それは、そうだが……。」




