28 ゆる薬膳コース、とんでもない模様②
「ハニティ……一大事だぞ」
「わ、分かってるわよ……」
天使キィルには、わたしが薬師に薬草を卸している者であることを伝え、一旦お土産の魚のサンドイッチと杏仁豆腐を食べて様子を見て欲しいと伝えた。
症状的に風邪が悪化したものだと思うとも。
換気や睡眠にも気を付けて、食事も……満足にはいかないかもだけど、しっかり食べて。
それでもダメなら、雇い主にお願いして医者に行くよう伝えた。
サンドイッチには味を付けていないトマトと水菜、バジルペーストを塗った魚を挟んだ。
ティー用にドライカモミールと、器ごと杏仁豆腐も持たせて、天使をダオに街まで送ってもらった。
街道を辿れば街に行けるし、帰りは結界の魔力を辿れるし。
……で、その見送りの時に傷を見せてもらったんだけど……。
「効果でるの早すぎでは?」
「むしろ、魔力のない人間にも効果があるんだな?」
「ダオの印も若干薄い気がするし……なんなの」
そう。
なんか知らんけど、キィルの傷はほぼキレイに治っていて。
ダオの呪いの印は、元々赤黒い! 禍々しい! って感じだったんだけど。
色素が薄まってる気がする。
「や、やっぱり……わたし?」
「他に理由なんかあるか?」
地属性チートってやつでしょうか。
元の傷が深くないってのもあったんだろうけど……。
「で、でも! わたしの育てたモノって、薬にもなってるし、物々交換で食べてる魔法使いもいるし……」
「手料理を他人に振る舞ったことは?」
「…………ないねぇ?」
「決まりだな」
そんな……バカな!
料理は愛情! ……いや、間違ってないけど。
今はそれで説明つかない!
「仮に、仮にだよ!? そうなんだとしても、おかしいよ。大魔女の魔力ならともかく。……わたし、修行中の魔女だよ!?」
地属性に全振りとはいえ、保有する魔力量が全魔女で一番です! とは言い難い。
それならとっくに継承の儀をしてもらっててもいいはず。
「……なぁ」
「なに!?」
「最近、変わったことって……ないか?」
「変わったこと?」
「そう」
変わったこと……。
いやー、特には。ふつうに庭の手入れをして、薬草を卸して。
食べれるものは収穫して自分の食糧にして……。
また大地に魔力を注いで。
あ、ダオを拾ったこと?
いや、まぁそれがきっかけで料理に栄養を! って目覚めたけど……。
──待てよ?
バランスがいいとか、大体どんな時に必要かとかアバウトな知識はもちろんあった。
でも……、『薬膳』って言葉。
どうして使うようになったんだった?
「マジか」
「……心当たりがあるのか?」
転生、いや……記憶が甦ったから?
(シークイン様は、あの時なんて言ったんだった?)
確か……。
『花影の煌めき、豊穣の種。芽生えし天華、恵土の施肥』
預言者みたいな言動はあの方の特徴。
普段は単語単語でお話されて、ご自身の力で見えたナニかを伝える時……不思議なことをおっしゃる。
ナニが見えているかは本人にしか分からないけど、直接的な言い回しはほとんどしない。
まるで、自分で考えて答えに辿り着け、とでも言うようだ。
当初はまっっったく訳も分からず、でもグランローズ様もなにかに気付いた様子で次期大魔女の心構えは持っておくようにと言われた。
でも、転生した記憶が甦った今。少しだけ分かる。
花影……、月明かりに照らされた花の影。
それが煌めくってどういうこと? て話だけど。
隠された何かがあるって考えたら、それはきっとわたしの前世のこと。
それが豊穣の種だとして、それが芽生えると天上に咲く花……つまり至高の花。
でも、咲いたその花自体が、肥料をあげることになるという。
ふつうは、花を咲かせるために肥料あげようって順番だけど……。
逆なのには意味が……?
「……あるにはあるけど、なるほど分からんって感じ」
「そうか……。俺には魔女のことは……正直分からないからな」
「うーん」
お二人の様子を見る限り、大魔女同士にしか分からないことがあるみたいだった。
仮にわたしが記憶を取り戻してパワーアップしたとして、そろそろ継承の儀をさせてもらえてもいいのでは?
「……パワーアップ? 成長……?」
「ん?」
「いや、気のせい……か?」
いくら恵土の魔女が慈愛と成長を司る魔女だからって、土にも植物にも関係ない『一気にあり得んほど知識だの考え方だの記憶だのが増えた』っていう成長。
それが、関係あるはずない……よね?