26 味のハーモニーを奏でる黒
さぁ、最後。
メインのお魚に取りかかろう。
「黒……、に入れていいよね?」
ナスと魚の南蛮漬け。
いや~これは絶対に美味しいやつ。
……これってメインなの? ええい、細かいことは気にしない。
正直、海の魚で食べたかったけど。
お酢で多少生臭さも消えるでしょう!
「げ」
そういえば忘れていた。
魚をそんなに捌いたことが無いことを。
切り身とか、捌いても大きめの魚とかだったけど。
小さくて身がボロッとなりそうな、川魚。
生息場所的に、渓流魚って言えばいいかな?
骨はゆっくり揚げればたぶん食べれると思うし、きっとまだマシだ。
やるしか……ない!
「……ふう」
なんとか捌いて、一口大に切り終わる。
あ、そういえば片栗粉はないな……?
仕方ない、小麦粉で揚げ焼きにしよう。
骨まで揚がるように、気持ち油おおめで。
前世の時代でこそ片栗粉って、じゃがいものデンプンで作られてるだけどさ。
元はカタクリって植物の根から作ってたよね?
……うーん、グランローズ様に相談すればいけるか?
というか、じゃがいもで自家製片栗粉作れるか。
まぁ……いつか、チャレンジしてみるか。
いつもの如く庭で採れたナスはヘタを切り落として、所々皮をむいて、一口大に切る。
あ、人参とか玉ねぎも入れればよかったかなぁ……、今回は良いでしょう。
「先に南蛮ダレ作っておきましょ」
揚げ焼きが終わったらからめるだけだし、先に用意しておかないと。
出汁は山芋の落とし汁を作った時に、過剰な分をストックとして冷蔵室に入れておいた。
ちょうど一回分で早く使わないとだったから、良かった。
変なにおいもしないし大丈夫……大丈夫よね?
出汁用の乾物もそろえておかないとかなぁ。
小鍋にだし汁、みりん、砂糖、酢、しょうゆ……。
唐辛子も? 少しでいいかな。ストックあって良かった。
ひと煮たちさせて、冷ましておく。
「うわー、なんか……一人じゃ考えられない量よなぁ」
野菜を切ったり、ものを置いたり作業をする用の大きな作業台をみると、圧巻。
一人の時じゃ有り得ない。
メニューの数も、量も。
「なんていうか、……家庭の食卓って、こういう感じか?」
「か、家庭!?」
冷蔵室から戻ったダオ。
恐らく彼の言葉に深い意味はない。
わたしが過剰に反応しているだけでしょう、ええ。
美形男子との会話に慣れてなくてすいませんねぇ。
「?」
「あ、いや、なんでも……」
そうですよね、ダオさんは祖国で大変な思いを……。
──あれ、ダオの家族って?
き、聞けない……。聞きづらい……。
呪いにかけられた時以上のヘビーな話になりそうで聞けない……。
「油あっためよう」
前世だったら悲鳴をあげそうな、贅沢。
オリーブ油で揚げ焼きにします。ええ。
これも自給自足が成せる技。
「ナスは素揚げでいい、よね?」
ナスの天ぷら美味しいんだよな~。
とか考えていると、どっちだっけってなる。
いや、別にどっちでも良いんだけど。
自分の想像する、この頭のイメージのやつは、どっちなんだ!?
ナスの吸収力は半端ないから、素揚げでいいでしょう。
「油もうちょい……、ダオ、そこの魚に小麦粉をまぶしてくれる?」
「まぶす……?」
「あ、えーっと。表面に衣をつけたいから、覆う様にかけるというか。それで余分な粉は払うというか」
「なるほど」
自炊をする機会は本当になかったんだろうなぁ。
お城で生活なら料理人もいただろうしねぇ。
ん……?
なんか、ヒドイ扱いをする割に、そういうところは良い思いをさせるんだ?
もっと残酷な王様を想像してたけど、反抗を恐れての小心者なのか、それとも飴と鞭を使い分けるタイプなのか……。
やっぱりダオ、まだまだ謎が多いぞ。
「できたぞ」
「お! いい感じ、ありがと~」
「どういたしまして」
小さめの魚の骨にはかかるけど、全部は浸からないくらいの油をつかって揚げ焼きに。
衣ってよりは薄皮が、香ばしいかおりと共に徐々に出来上がってくる。
良いきつね色~。
頃合いのものは前世のよりはちょっと雑な造りのバットに移す。
「次はナスね」
一通り魚のターンが終わって、最後はナス!
「よーし、あとはこれを……」
三人分の量と、妹ちゃん用に少し大きめに切った魚も含めすべてが揚げ終わり、あとはタレとからめるだけ!
黒のナスと魚の南蛮漬け、完成!
あー、お腹すいた!




