22 ゆる薬膳コース、ふるまいましょう②
キィルの両親はすでに他界していて、妹と二人。
住み込みで働いているらしい。この歳で……えらすぎる。
ブラックで待遇が良くないらしく、ごはんも少なめ。
妹の状態を聞いた感じだと、体が弱くて病気ってよりは栄養が足りてなくて風邪をこじらせたって感じだ。
……あんまり刺激的なものは良くないかしらねぇ。
なにを作ってあげよう。
「あの、ダオ……すみません」
「ん? 気にするな」
「……ありがたい」
「「?」」
美形が美少年をおんぶしている。
はい、神々しい。
誰にとも言わずお礼を言いたくなるのは仕方ない。
「ハニティは、……変わった魔女?」
「そうだな、変な魔女だ」
「そこの二人、聞こえてるぞ」
だーれが変人だ。
「ちがうよ。人が思ってるよりも魔女は、引きこもりってだけだよ」
あれ? 魔女のこれフォローになってる?
わたしの手にある桶のなかで、魚にバカにされている気がしてきた。
くっ……、他に言い方思いつかなかったんだ。
「──あ、あれだよ~」
結界に入ったところで、魔力のないキィルは違和感がなかったらしい。
特に変わった様子もなくダオの背中で周りを見ていると、我が家を見付けて声をあげた。
「こ、こんなところに家が……それに、広い、畑……?」
「花壇に薬草園、なんでも兼ねてる庭って感じ」
「不思議な場所だよな」
「あ、キィルは食べれないもの、ない?」
「だいじょうぶですっ……」
「よかった」
いちおう大きく区画は分けてるけど、正式名称は何ていうんだろうね。
植物園?
「ダオ、先に家で休ませてあげて。料理に使うもの採ってくるから」
「分かった」
「あ、ハーブティーも入れてあげて」
「ん」
さあて、なにを作ろうかなぁ。
◇
妹ちゃんには、ハーブやハーブペースト、サラダと魚を使ったフィッシュサンド的なものを作ろうと思う。
たんぱく質も大事ですからねっ。
気分転換のハーブティーも持たせてあげよう。
……それにしても、うちの庭なんでもあるな。
まぁ最初は師匠ことグランローズ様に助けていただいたんだけども。
「薬膳コース……うーん」
薬膳の基本的な考え方のひとつに、一日の食事で五色を食べる。というものがある。
緑、赤、黄、白、黒のことで、五行思想に基づいた考え方らしい。
栄養面も補え、心と体の健康につながるってことだ。
「なんか、魔女みたいねぇ」
白と黒って属性でいうとなにかは分かんないけど。
万物を色で例えるって、なんだか魔法使いに似てる。
……青どこいった。
あれ、でも自然界の五行説って木火土金水じゃなかった?
なるほど分からん。
もう少しちゃんと勉強しておけば……くっ。
「緑は葉物、赤は……トマトとか人参? 黄色はそうだなぁ、カボチャいってみるか」
ふだんあまり使わないカボチャ、いってみよう。
決して前世と違って、切ってあるのが買えないから切るのが面倒……ってことではないのです。
ええ、ちがいますとも。
「白はちょっと違うかもだけど玄米……あ、デザートに杏仁で杏仁豆腐にしてもいいか。……黒? 黒……」
ゴボウは黒に入ると思っていいんだろうか。
しいたけとかナスの皮も入れちゃっていいか?
まぁ大体この辺使えばバランスいいでしょう!
「我ながらアバウトだな……」
と言いつつも、誰かのために作る料理。
楽しいと感じるのは内緒だ。
「ちゃんと手、洗った?」
「ああ」
さっきの要領で、タイムの精油を混ぜた水魔法……タイムウォーターとでも言えばいいか。
それで手を洗うように指示していた。
こういうのもね、風邪の原因にもなりますからね。
ええ。
こっちの世界にも石鹸はあるし、石鹸職人なんて方もいらっしゃるみたいだけど、前世でよく見た白とか透明じゃなくて、土とか獣油とか、現代では使ってないような材料で作られたものだからなぁ。
香りや泡立ち、殺菌よりも、汚れ落としを重視してるって感じ?
臭いが気になる人向けにハーブを使ったものもあるけど、うちはこれで十分でしょう。
「キィルは?」
「寝てる」
「……あら」
どうやら度重なる疲れと、背中で揺られて眠気に誘われたらしい。
美少年の寝顔、ありがとう。
「ふふ、かわいい」
「ハニティも可愛いさ」
「……はぁ!?」
「しっ、静かに」
「あ、はい……」
今日はいつも以上に悪ノリがひどい。
あれか? 俺のご飯は渡さねぇ、ってキィルをライバル視してんのか。
ショタコンじゃないから。
「じゃぁ作ってくるね」
「俺も手伝おう」
「お、じゃぁお願いしようかな」
材料を運ぶのは精霊に手伝ってもらったとはいえ、カボチャを切るのは一苦労ですからね。
助かります。