19 お魚乱舞
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「──魚」
「え?」
「魚が、たべたーーーーい!」
前触れもなくダオに詰め寄れば、「そ、そうか……」と引かれた。
だって食べたいんだもん。
干物はこの前ので最後だったし、近々集落に買いにでないといけない。
あーあ。海産物とまではいかないから、せめて淡水魚でもいいから……。
水魔法が、上手につかえたらなぁ。
魚をちゃちゃっと捕まえれるのに……。
「……待てよ?」
居るじゃない。
「ってことで、行くわよ! ……川に!」
「……!?」
なんだこいつは、な目で見ないでくれる?
◇
正直地の魔女なので、魚情報については乏しい。
前世でも同様。
だからいつも買うばかり。
でも、今は水魔法のエキスパートがいる。
これだけ鮮やかな藍、……相当な使い手だと思われる。
(その水魔法のエキスパートが、治癒魔法知らないんだもんなぁ)
やっぱり、シークイン様以外にもう使い手はいないのかな。
「結界の外は、ひさしぶりか?」
「そうねぇ、前回はいつだったかな」
今日は結界内の敷地をでて、外出だ。
水場はたまにあるけど、魚がいるような渓流はちょっと歩かないといけない。
「おやつにクッキーも持ったし」
レモンバーベナの出涸らしを入れたシンプルなクッキー。
素朴だけど、ふんわりハーブの香りがして気分がおだやかになる。
「もし魔物がでたら、下がってくれ」
「え? なんで?」
「? 敷地内じゃないぞ?」
「あぁ、そういうこと」
のんびり魔女のイメージが付きすぎて、どうやら忘れられているらしい。
わたしは、地属性に全振りだ。
「──よっ」
地面に手を置いて、魔力を込める。
そうすれば、ダオの行く手を阻む土壁が一瞬で隆起した。
「そんで」
ダオを魔物に見立てて。
こうして機動力を奪った相手に──。
「ちょ! 分かった、分かったから!」
「魔物の討伐も魔女の務めってね」
岩でできた槍が五本。
ダオに照準を合わせている。
「殺す気か……!」
「おほほ」
仮にも大魔女候補。
なめたら、いけませんことよ。
「──お、川だ~」
三十分ほど歩いて、森にも流れる水源を辿り、地形がところどころ急流をもたらすところに来た。
穏やかなところに居る魚でもいいけど、こういうところのが身が引き締まってそうよね。
道がある場所から一段下がって、より川に近付いてみる。
ふだん草木や森に囲まれて生活しているからか、今いる場所が不思議な感じに思える。
「う~ん、やっぱりわたしじゃ無理」
魔法を使ってみる。
川の水に手をつけ、思ったように操れるか試してみる。
ぽちゃっ。
手に付けた周辺。……波紋が広がる範囲は操れそう。
でも、水のなかでとんでもないスピードで泳ぐ魚には太刀打ちできない。
ダメだ……、てんでダメだ。
「本当に地属性に寄ってるんだな」
「まぁ、これでも十分なんだけどねぇ。……無い物ねだりってやつ?」
「いいじゃないか、俺がいる」
「えっ!? あ、……そ、そうだねっ!」
びっっっくりした。
たまに美形力を存分に発揮するから、ドキドキする。
俺がいる、なんて言われたら……緊張するじゃないか!
頼りにはなるけども!
「川の砂とか操ってもいいけど、疲れそうだし」
「──任せろ」
こうなったら、植物に魔力を通して操れる釣り糸! ってしたらどうか?
とか、釣り人に怒られそうなことを考えていたら、勇ましい掛け声。
「おおっ」
さすが、と言わざるを得ない。
今度はダオが水面に触れると、周辺の水は一気にダオに従い始めた。
恐らく、生物の反応がある部分の水だけを操作するんだと思う。
わたしが土でやってることの、水版だ。
「ここか?」
普段そんな使い方はしないだろうし、手探りでダオが試しにやってみると……、魚が跳ねてこっちに飛んできた!
たぶん、自分で跳ねたんじゃなくて、水に押し出されたって感じ?
アユ……ウグイ? 体も大きくなく、眼も小さ目な川魚が飛んできた。
こっちの世界では特に呼び名がない、よく見かける『川魚』だ。
「おー! すごい」
「まだ居るな」
やはりというか、要領のいいダオは次々に水揚げしてくれる。
とりあえず、干す用ふくめて十匹くらいでいいかしら。
焼き魚用、……あ。揚げ焼きにしたのを甘酢……南蛮漬け風に食べてもいいな。
ハーブとホイル焼き……ホイルはないから、分厚い葉っぱとかで包み焼き? でもいいし。
あーあー、干した身をほぐしておかゆとかに入れてもよさそう。
広がる……夢が広がるよ!
「大事に食べるからね」
植物同様、わたしたちの血となり肉となってくれる彼らに、きちんと向き合う。
これも生きるために必要なんだ……。
「こんなものでいいか?」
「もう、バッチリ! さすがダオ」
「水の魔物と戦う時の参考になったな」
さ、さすが元近衛騎士。
目の付け所が違います。