プリゴジンやかまし過ぎ問題
プリゴジンやかまし過ぎ問題
ウクライナの大反攻が開始されている、との見方が広がっています。
これまで沈黙していた前線に動きが認められており、幾つかの集落を解放したとも公表されています。
しかし、ウクライナ軍・ロシア軍双方共に主力を出している状態ではありません。
現時点でのウクライナ軍の攻撃は、何ヶ所かの攻撃ポイントに攻勢圧力を掛けることで、ロシア軍を前線に張り付かせ、反撃能力を測る、謂わば陽動と威力偵察を兼ねた活動です。
おそらく、ウクライナ軍は南部ヘルソン方面からも攻勢圧力を掛け、ロシア軍を分散させたかったのだと思いますが、カホフカ水力発電所の決壊で事実上不可能となりました。
ただし、決壊前のカホフカの水位を見てウクライナ軍も警戒していたハズなので、決壊が起きていなかった場合にどれほどの戦力を投入していたかは微妙なところです。それでも、カホフカの決壊が大反攻に少なからぬ悪影響を与えていることは間違いない。
また、陽動という意味では、ウクライナ軍は集落解放を誇示して見せることで、自軍の士気を高めると共にロシア「首脳部」を挑発し、注目を集めようとしています。
現実的には解放されている集落に軍事的価値はほとんど有りません。ロシア「軍」としては軍事的価値を考慮した上で「取らせている」とも考えられます。
しかし、ウクライナ軍による大反攻が開始された事実は、それ自体がロシア軍兵士やロシア国民に少なからぬ動揺を与えるでしょう。
それ故に、ロシア首脳部はウクライナ軍の損害を過大に、ロシア軍の損害は過小に見せ、世界最強のロシア軍はウクライナ軍を撥ね返している、と大本営発表を繰り返しています。
ちなみに、大反攻の最初にロシアが発表したウクライナ軍戦車撃退の報は映像付きなのですが、これがどう見ても戦車とは思えないシルエットで「こいつら何と戦ってんだろうな」と溜め息を吐いていたところ、その正体は農業用コンバインだと言う情報が、、、
いやしくも軍事大国を標榜するロシアが、農業機械を相手にイキって見せてるのかと思うと、もはや笑いすら出てこない、、、
この、なんちゃって戦車の正体が農業機械だと言って怒り狂ってるのがワグネルのプリゴジン。
プリゴジンのスタンドプレイやハスキー犬ムーブは今に始まったことではありませんが、このところ発言内容が軍事の枠をはみ出し、政治の領域に踏み込んでいる。
弾薬を寄越せと騒ぎ、ショイグやゲラシモフをクソ味噌に罵倒するのは、まぁ、なんてこともない。
ウクライナ軍相手ではなく、国軍相手にドンぱちやってるというのも、日本人の感覚では理解出来ないでしょうが、ロシアでは珍しくもない内輪揉めに過ぎません。いやマジで。
しかし、際どい言葉でロシア首脳部を罵り、総動員令を要求し、エンクロージャーによるロシアの北朝鮮化にまで言及するのは、明らかに分限を越えている。
というか、これはプリゴジンの言葉なのだろうか?
ワグネルは、ロシアの軍事面におけるイリーガルファンクションとして活動しており、設立の経緯などからロシア軍情報総局(GRU)の端末ではないかと思っていました。
GRUは参謀本部の隷下にあり、つまりゲラシモフのラインです。何度か言ってきているように、ロシア軍は、縦にも横にも「何でお前らそんなに仲が悪いんだ」ってくらい内部でいがみあってる事も多いので、GRU傘下の組織やGRUそのものがゲラシモフやショイグに対し喧嘩腰でも不思議ではない。
しかし、総動員令や北朝鮮化などの発言はGRUのスタンスとは異なるように思いますし、プリゴジン個人の言葉としては拭い難い違和感がある。これは誰かの言葉を代弁しているのではないか、そう感じています。
この戦争に最も前のめりなのは軍ではありません。
或いはプーチンより戦争に強硬とも言われているのがパトルシェフ。
パトルシェフは、旧KGBの流れを汲むFSB系の人物でプーチンの最側近になりますが、総動員令をプーチンに進言して退けられています。
そして、北朝鮮化。北朝鮮化とは即ちエンクロージャーに外ならず、鉄のカーテンとも言われたソ連への回帰と見ることもできます。
パトルシェフには北朝鮮化に類する正式な発言は見当たりませんが、KGBが全盛期であったソ連時代を志向していても不思議ではない、、、というかエンクロージャーを望むのは、プーチンやパトルシェフの様な、ソ連崩壊を「20世紀最大の地政学的悲劇」と見做すFSB系の人物達が主であると思われます。
プリゴジンの発言はパトルシェフやFSBを代弁しているのでしょうか?そんなまだるっこしい事をしなくてもパトルシェフなりが自分で発言したら良いんじゃないか、と思うかも知れませんが、自らの思惑を誰か丁度いい人物に代弁させるのは情報戦などの常套手段です。
そう考えると、バフムートを落として株を上げ、ロシア軍の不甲斐ない現状に不満を持っているプリゴジンはロシアのウォーモンガーなどからも共感を得られやすい適任とも言えます。
一歩間違えれば粛正されかねない発言も、パトルシェフやFSBの後ろ盾があるなら納得がいきます。
では、仮に、プリゴジンの発言をFSB接近のサインであるとするなら、これが何を意味するのか。
ここからは、仮定に仮定を重ねた妄想以前の話になりますが、プリゴジンの発言は明らかに軍だけを対象としたものではなく、現状の政治・官僚機構への不満です。
換言するなら、現ロシア皇帝プーチンへの不満とも言えます。
これがプリゴジン個人の不満ではなく、FSBに内在するものである場合、プーチンが最重要権力基盤を掌握しきれていない、という事になります。
可能性としては高くありませんが、茶番じみたクーデターや暗殺という目も考えられます。
個人的には、散々やりたい放題してきたチンピラ皇帝がクーデターで吊るされてもインガオホーとしか思いませんが、ロシアのこの苦境にあっても総動員だ北朝鮮だと騒げるウォーモンガーが権力を握るとしたら、プーチンの退場も素直に喜べません。
単にプリゴジンがやかまし過ぎるだけの、盛大な取り越し苦労であれば良いのですが。