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ロシア自由軍

ロシア自由軍


ゼレンスキーはウクライナ軍による大反攻を決意した、としています。

ロシア軍の占領地域や南部ロシアで大掛かりな破壊活動が起きているのは、その前哨戦、地均しです。

一方で、モスクワへのドローン攻撃やロシア領ベルゴロド州への攻撃も認められています。これらの攻撃はどういった性質の活動なのでしょうか。


モスクワへの攻撃もベルゴロドへの攻撃も、ウクライナは関与を否定しています(快哉を上げてはいますが)。

モスクワへの攻撃は、その主体が何なのかはハッキリとしていません。ロシアの反体制派かもしれませんし、ウクライナ側のパルチザンかもしれません。しかし、何にしてもウクライナが丸っ切り関与していないとは考え難いです。

その目的はロシア国内の動揺を誘っているのだと思います。これは、「何だか分からないものに脅かされている」ところがミソ。

ロシア政府は「ウクライナのテロ」だと主張しています(まぁ、クレムリンへのドローン攻撃に関しては胡散臭い主張ですが、その後の攻撃に関しては、ウクライナが関与している可能性は高いと思います)が、ロシア国民は政府の言ってることを鵜呑みにしたりはしません。

ウクライナは関与を否定しているし、ロシアが内外で反発を買っていることなど皆が理解しています。ウクライナの仕業なのかも知れないけど、チェチェンの分離独立派かもしれないし、外の少数民族かもしれない。得体の知れない攻撃は半ば他人事であるハズの「ロシアが戦争当事者」であることを再認識させ、ロシアがこれまでの行為で買ってきた様々な恨み、即ち、復讐される側であると思い起こさせるでしょう。

こうした政情不安は前線にも伝わります。なにより、前線の兵士達は「侵略」し、占領地域でやりたい放題してきた当事者です。

恨まれる心当たりに事欠きませんし、いざ復讐される状況、即ちウクライナの大反攻に対して不安は増すばかりでしょう。


詰まるところ、この攻撃自体に目標を撃破する意味はほとんど有りません。

攻撃の目標はモスクワではなくロシア国民の心理状態であり、ロシア軍前線兵士への心理攻撃です。


対して、ベルゴロドへの攻撃は、その意図するところが更に明確と言えます。

即ち、ロシア軍リソースの分散。


ウクライナ軍は大反攻に備え、順次、装備と兵員を増強しており、対抗するロシア軍の兵站等に打撃を加えていますが、双方の陣容は概ね固まってきており、後は軍事リソースをどう配分するか、という段階です。

このリソース配分に関し、ウクライナ軍はこの戦争の構造上、一方的な不利を被っています。

即ち、ウクライナ軍はロシア領に侵攻することが出来ないという不条理。


ウクライナ南東部の前線は1千kmに及びます。しかし、この長大な前線もウクライナが防衛しなければならない防衛ラインの一部に過ぎない。

実際には、その外にもロシア領ベルゴロドやクルスクと接しており、更には、ベラルーシとの国境も1千kmに及ぶ。現実問題としてベラルーシ経由の航空攻撃や地上侵攻を丸っ切り無視する事は出来ないし、ベルゴロドなども同様です。

事実上、ウクライナから見た前線は2500km程度と考えるべきで、ロシアが1千kmに集中できる状況からすれば圧倒的な不利と言えます。


この不利にウクライナが対抗できているのは、不可視の戦域における優位があり、事前にロシア軍の動向を把握して柔軟に対応できるからです。


それでも、リソース配分においてロシアが有利であることに変わりはありません。

流石にウクライナ防衛ラインの負荷が単純に2.5倍となっている訳ではありませんが、無視できる差異でもない。

ベルゴロドにもロシア軍の防御陣地は存在しますが、ウクライナ南東部のそれとは比較にならないお粗末なもので、配されている兵員も交戦国との国境警備を担うリソースでは無い。


既に地上戦力においては優位にあるウクライナ軍ですが、決定的な差異ではありません。

負けられない大反攻にあたり不利な要素は可能な限り排除していく必要があります。

ウクライナ軍もロシア軍も限られたリソースを最大限有効に活用すべく思考を張り巡らしているところです。

そこで相手側のリソース配分を誤らせる手段が必要となり、ディバージョン、即ち陽動と呼ばれるものがそれに当たります。


その意味において、バフムートの攻防は極めて有効に機能しました。

軍事的には重要性の高くないバフムートの地に、ウクライナ軍に数倍する軍事リソースを消耗させ、釘付けにしている。

これは、もう陽動というより詐術の類いでミスディレクションと評した方がしっくりきます。いや、まぁ、ロシア軍の場合は軍事的判断ではなく政治的判断なんだろうけどさぁ、、、


ロシア自由軍によるベルゴロド攻撃も同様の効果を狙ったものです。

ロシア自由軍は「ロシア人による」反プーチン派軍事組織、とされています。彼らによればベルゴロド攻撃は「プーチンによる専制支配からロシアを解放する」戦い、だと言うのです。

うん、まぁ、どっかで聞いたような話で、そう来るしか無いわな、って感じ。

お気付きかとは思いますが、この手口はロシアがジョージアやクリミアなどでやってきた事です。

言ってみれば、やったことをやり返されているだけ。

「ロシア領を攻撃したら戦争がエスカレーションするのでは?」との意見もありますが、この戦争は既に煮詰まった状態です。この規模、そして「ロシア人による」攻撃で、この戦争の態様が変わる可能性は限りなく低い。


そしてロシア軍はロシア自由軍を放置できません。

現実的にはロシア自由軍の攻撃に陽動以上のものはない。しかし、軍事的には脅威評価の低い活動であっても「反プーチンを掲げるロシア人」がロシア領内を攻撃・占拠している状況はロシア首脳部が許さないでしょう。

限られたリソースの中では選択と集中が必要ですが、冷厳に取捨選択すべき軍事的判断に政治の横槍が入ると碌なことにならない。

そういう軍事的合理性と政治的判断のギャップをバフムートの攻防やロシア自由軍は突いている。


誤解しないでいただきたいのですが、政治的判断より軍事的判断が優先されるべき、という話ではありません。

そもそも、戦争を始めるのも終わらせるのも政治の仕事です。軍事的合理性を理解した上で、政治家の責任において政治的決断を下すのは正しい在り方と言えます。

しかし、ロシア、というか専制国家の場合、往々にして責任を取るのは上ではなく下になり、そういう責任を取らない連中ほど余計な口を出すものです。


ベルゴロドでは、ロシア自由軍への対応にスペツナズが動いているという話もありますが、ロシア自由軍の目的はリソース配分を誤らせ、乱すことにあります。

攻撃や占拠は手段であり、スペツナズとの交戦なども必要はない。足留め・釘付けできれば充分なのです。

大規模な戦闘は避け、攻撃と撤退を繰り返す、それだけで一定の効果があるでしょう。

流石に戦況を左右するほどの直接性はありませんが、この戦争に必要かつ重要な活動です。

タイミング的に見てもロシア軍にちょっとした混乱をもたらしているでしょう。

ロシア軍は今、この「ちょっとした混乱」が積み重なっている状態です。


やはり、大反攻の機甲突破戦は間近なのだと思います。

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