表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
90/180

機甲突破戦

機甲突破戦


ウクライナに動きが出てきました。

大反攻がいつ始まるか注目されていますが、本稿では大反攻がどの様なものになるか解説します。


まず、ロシアの大攻勢は大方の予想どおり、ほとんど成果を挙げることが出来ませんでした。ロシア軍は、先月の段階でほぼ一斉に前線の活動を停止し、僅かながら前線の位置を下げている。これを大攻勢と呼ぶのは若干の違和感もありますが、この時点で事実上終結しています。

バフムートでは、未だにワグネルらが盛んに攻勢をかけていますが、政治的アピール以上のものではありません。

そのバフムートでのウクライナの抵抗は、改めてウクライナ軍の精強さを再認識させました。

戦闘というものは、勝ってるときは勢いに乗っているので、軍隊に地力が無くても何とかなるものです。

しかし、劣勢の中、後退・撤退する動きには軍隊の地力が如実に現れます。

バフムートでウクライナ軍は半ば以上包囲されながら、生命線である補給線は頑強に維持し、正面からの攻勢には痛撃を加え、後退しながらもブービートラップなどでロシア軍に打撃を与えている。

後退時に敵(ロシア軍)に出血を強いる。のはウクライナ軍ザルジニー総司令の戦闘教義と聞いていますが、ふつーはそんなんやれと言われて出来るものじゃない、ただの理想。それをバフムートでは堅持している。

負け戦に強いのが本当に精強な軍隊です。

その意味において、アフガン撤退時の米軍の醜態は色々と衝撃であったし、プーチンなどは米軍凋落の兆とほくそ笑んでいたでしょう。まぁ、現実にはロシア軍の凋落が一番ヤバかったという落ちが待ってたんですけどね。


ロシア軍の攻勢をほぼ凌ぎきったウクライナ軍による反攻は、機甲戦或いは機甲突破と言われるものになります。

平たく言うと戦車で敵防御陣地を突き破って敵の要所・中枢を制圧する。という事。

戦車が主役の様に思えるかも知れませんが、諸兵科連合の総力戦になります。


特殊部隊が先行して破壊工作と後方撹乱を行い、パルチザンも協働するでしょう。

砲兵が榴弾砲やハイマースで火力支援や敵の集結を防ぐ「地均し」をする。

工兵は地雷原を啓開し、塹壕を渡る橋を造る。

戦車が敵防御陣地を突破して敵戦車などを撃破しつつ侵攻。

機械化歩兵、即ち、装甲車などに乗った歩兵が戦車に随伴し、比較的小規模な障害を排除。最終的に目標を制圧する。

航空機や対空装備がロシア側航空機に睨みを効かせ、陸戦戦力を支援。


もの凄く大雑把で恐縮ですが、こんな感じで機甲突破をやる(まぁ、アレです。現代版ブリッツクリーク)。

尤も、これは一般論で、大反攻では目的に合わせてアジャストしてくるハズです。

目的とは、即ちロシア軍を東部と南部で切り離すことにあります(←憶測)。

言わずもがなではありますが、ロシア軍との交戦は手段であって目的ではない。

ロシア軍の戦力を撃破するに越したことはありませんが、大反攻に求められるのは敵戦力の駆逐。謂わば戦車によるロシア側勢力圏の啓開です。


対するロシア側防御陣地の構成は地雷原、竜の歯、塹壕といったオーソドックスなものです。

地雷原は読んで字の如く、対戦車地雷をそこら中に埋めてる訳です。当然ながら最新式戦車であっても地雷を踏めばただでは済みませんが、地雷原は戦車を直接的に撃破するためではなく、戦車を足止めする事が目的です。

竜の歯はコンクリ製のピラミッドをずらっと並べたもので、日本では馴染みがありませんが、欧州などでは第二次世界大戦期のものが今でも残っています。

塹壕は、、、まぁ、ロシア軍の兵站次第で評価が大きく変わります。兵站が機能していなければ唯の溝。


地雷原も竜の歯も戦車単独では突破できません(ドーザの付いた戦車なら竜の歯を排除出来なくもないとは思いますが)。

そこで工兵が地雷原を啓開し、竜の歯を排除するのですが、時間的に侵攻可能になるルートは限られます。

この時、ルートが狭まり散開できずに固まっていると防御側の砲撃などで容易に叩かれる。

これは渡河作戦が困難であるのと基本的な構造は同じで、攻撃側は防御側の3倍の戦力と充分な練度が必要とされる主な理由になります。


攻撃側の分が悪いのは、ロシア軍もウクライナ軍も当然同じ。

ウクライナ軍は陸戦戦力において優位に立ちつつあり、ロシア軍の大攻勢が失敗に終わったのは、本気で「当たり前だ馬鹿野郎」と言いたいくらいロシア軍上層部が阿呆なだけですが、ウクライナ軍とて真正面から戦力がぶつかり合ったら勝てない、、、訳ではありませんが、機甲部隊は衝力を失い作戦の目的は完遂出来ないでしょう。その時点で大反攻は失敗と言えます。


である以上、作戦成功に求められるものは端的に表せます。即ち、(戦車は可能な限り)戦わない事。


そのために、不可視の戦域においてロシア軍配置の疎密を洗い出し、抵抗力の比較的低いルートを選定するのは勿論のこと。

抵抗力を事前に削ぐために燃料・弾薬などの集積地で特殊部隊やパルチザンは破壊活動を行います。クリミアやロシア南部で相次ぎ爆発が起きているのはそういう事。

即ち、戦車が出張ってきていないだけで、大反攻は事実上始まっています。


おそらく、諸兵科連合を運用できるだけの訓練は終わっているでしょう。

後は、ロシア軍の抵抗力を充分削いだと評価され、ウクライナの大地が機甲部隊の疾駆を受け止められる状態になれば、いよいよ戦車が出てくると思います。


それが何時かは正直分かりません。

ウクライナがアゾフ海への打通を目論んでいる事などロシアも当然認識しています。作戦の成否は裏のかきあいに掛かっているとも言えるため、大反攻の時期は虚実入り混じった情報で隠蔽されている。ややもすると公開される気象観測データすら偽装する可能性まであります。


ここでも重要性を増す不可視の戦域。

イジューム解放戦で感じたのが、ウクライナはロシア軍が把握している情報、していない情報を事前に確信レベルで掴んでいる。でなければ、あれ程大胆な機甲突破を立案・遂行は出来ない。

空恐ろしいほどのインテリジェンス、諜報能力です。大反攻においても大きな力となるのは間違いありません。


ウクライナで諜報を担っているのはウクライナ保安庁(SBU)です。元々がKGBの端末であるため、ロシア工作員の巣窟と言っても過言でないどころか過小評価なくらいで、ウクライナのアカン組織代表格だったのですが、幾度も暗闘とパージを重ね「ウクライナの」諜報機関として機能するようになりました、、、まぁ、未だにロシア工作員がちょろちょろ炙り出されたりしてますが、、、、、、

ぶっちゃけ、イジューム解放戦に垣間見るインテリジェンスがSBUの働きとは思えないので、その辺はCIAやMI6がフォロー(?)した結果でしょう。


機甲突破の実行フェーズでは、ロシア軍兵士の戦意も大きな要素になります。ウクライナ軍がバフムートで見せた様な懸命の抵抗をされては堪らない。

まぁ、ロシア軍の戦意が高いハズもありませんが、追い打ちをかけるようにウクライナ側も脱走や投降を呼び掛けたり、ロシア兵の動揺を誘う情報を流しています。戦意が低く不安が高まれば、ウクライナ軍の機甲突破で戦線は崩れ、一気に潰走する理想的な展開になります。


電子戦も不可視の戦域のため、直接戦果を眼にする事はありませんが、大反攻では従来からの通信・監視への妨害などに加え、対ドローンなど新しい闘いが始まっており、重要性が増しています。


大反攻とされる作戦には、現時点で不明な点も多いが、投入可能な戦力から不可視の戦域まで総動員した乾坤一擲の総力戦となるのは間違いない。

全ては機甲突破の衝力を維持できるかに掛かっています。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ