表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
88/197

中国と台湾

中国と台湾


中国が台湾を諦める可能性は無いのか。

よく話題になります。


この話題提起の根底には、なんとなく「中国は台湾が欲しい」から侵攻する、というイメージがある様に見受けられます。


実際のところ、中国は台湾という土地や産業が欲しいのではなく、中国共産党にとって台湾政府は「有ってはならない存在」だから侵攻し、統一しようとするのです。


もちろん、海洋の覇権を得るために台湾は重要ですし、TSMCの半導体産業も手に入るなら欲しいのは言うまでもありません。

しかし、だからといって「中国が攻めて来たらTSMCを破壊する」と宣言しても、中国は「惜しい」とは思うでしょうが、手控えることなどありません。


中国が台湾を統一するのは支配の正統性に係るものだからです。


国共内戦に中国共産党が勝利するまで、中国を支配し、代表していたのは蒋介石率いる中国国民党でした(まぁ、中国全土を掌握していた訳ではありませんが)。

日中戦争で日本軍と対峙し、矢面に立ったのも中国国民党です。


中国共産党は、日本軍との戦いで疲弊し切った中国国民党を、温存していた戦力と日本軍から接収した兵器で打ち破ったのです。


戦後、毛沢東は「日本の侵略が無ければ今の中国は無かった。侵略に感謝しろと言われれば感謝してもいい」などと発言しています。

その真意は計りかねますが、厳然たる事実として日中戦争が無ければ、中国共産党が中国国民党に勝つのはほぼ不可能に近い戦力差がありました。


その中国国民党に国共内戦で勝利し、中国共産党は国際的にも中国を代表する政体と認められますが、良く言っても易姓革命、実質的にはクーデターなわけで、中国共産党は支配の正統性を示さなければならない。その正統性を支持する基盤となったのは人民の大多数を占める貧農です。


富める者を吊し上げて貧農らに富の再分配(ばら撒き、とも言う)を行なったわけで、当たり前の話ですが、そんなものが長続きするハズがありません。再配分した後の生産こそが重要、、、なんてのは中国共産党員とって何の価値も無い寝言。

と言うか、中国共産党員は馬賊と貧農、そしてその親玉に過ぎず、収奪した富を貪ることが目的でした。

共産カルトがどれほど美辞麗句を並べ立て、有りもしない理想社会の幻想を喧伝しても、事実が全てを否定しています。


富める者を吊し上げ、と軽く聞こえるかも知れませんが、社会主義化は世界中どこの事例も凄惨なものになります。

政権交代で重税が課されれば、それだけで暴動や叛乱の種になりますが、社会主義化は「富は全て国家のものだ。全て差し出せ」と言ってのけるのです。社会の混乱は尋常なものではない。

しかも、富める者は全て罪人というのが共産カルトの教義。これは誇張でも何でもない、控え目な表現です。

ポルポトはクメールルージュの下、100万人単位で国民を死に追いやりましたが、中国の国民性や国家規模に鑑みれば、毛沢東による社会主義化の犠牲者や残虐性がポルポトを下回るとは思えません。

これは、大躍進政策や文化大革命の話ではありません。その前段階の話です。


富める者から収奪した富で、なんちゃって理想社会は束の間実現されます。

しかし、その後、自らの手で富を生み出さなければならなくなった時、共産カルトは当然の事実に直面します。


貧者は、富者が有していた富を生むためのノウハウを持っていない。


ノウハウだけではありません。これを言うと面倒くせぇ連中が面倒くせぇので嫌なのですが、貧者は往々にして浪費傾向が強く、富者は吝嗇の傾向が強い。実のところ極当たり前のこの事実が面倒くせぇ連中には酷く不愉快らしい。

至極当然の結果として生産<消費の状態になりますが、これを回避できるのは石油などの天然資源を有する特殊な国家、即ちソ連くらいのものでした。


社会主義経済は国富を国家が独占する代わりに配給を行う、しかし、生産<配給の状態が持続する訳もなく、一時期、燎原の火の如く世界中に広がった共産カルトによる社会主義経済はソ連崩壊により後ろ盾を失って行き詰まります。


そして中国は、世界に先駆けて行き詰まります。

さすが中国!最先端の社会主義経済の更に先を突っ走ってますね(ゆるい皮肉)。

共産カルトのダメな所が結晶化したかのような毛沢東の大躍進政策は千万人単位の餓死者を出す未曾有の人災となります。


その後の文革でも毛沢東は千万人単位の人民を死に追いやり、人類史上、これほどやらかした個人は存在しませんが、同時に無数のマオイズム=共産カルト(毛沢東派)の落とし子を生み出しました。その1人が習近平です。


毛沢東のやらかしにより中国社会は混迷を極めます。

スターリンの時もそうですが、周りの人間が独裁やべぇ!と(ちょっとだけ)正気に戻ると権力の独占を防ぐ手を考え、やっぱ社会主義経済とか無理だわ、と市場経済を一部に取り入れたりする動きが起こります。


それが中国の場合は鄧小平です。

社会主義国家でありながら富者を容認する先富論は、富者を無条件の悪と看做す、共産カルトにおけるエポックメイキングとも言える一大転換でした。


先富論に基づく改革開放路線は中国人の商魂に火を付け、中国経済躍進の起爆剤となります。

現在の、アメリカにも迫ろうという中国の隆盛は、習近平に功績などありません(むしろ習近平は毛沢東の時代に戻そうとしています)。鄧小平の改革開放路線によるものです。


しかし、こうなってくると別の問題も出てきます。

「あれ?これ、共産党の意味無くね?」

先富論とは、とりあえず儲けられる奴が上手く儲けて、儲けるのが下手な奴を助けて行こうぜ、という形でエクスキューズしていますが、建前でしかありません。

ジャックマーの様に立志伝中の人物が現れる一方で、貧富の差は拡大するばかり、農村戸籍と都市戸籍の格差などなど、全ての富を収奪する代わりに中国共産党が約束したものは、与えられるどころか奪われるだけ。


社会主義の約束とは、端的に言えば、働けば必要な物は全て与えられる。というものです。


なお、共産カルトの滑稽な欺瞞に勘違いさせられている方は多いのですが、共産カルトの教義において、働かない者や働けない者は、与えられる対象ではありません。

働かない者、即ち、ニートや引き篭もり、浮浪者といった労働意欲が無いとカテゴライズされる者(実際に労働意欲が有るか無いかは関係ありません)は、ルンペンプロレタリアートと呼ばれ、強制労働と教化(教化の意味とか説明の必要あります?)の対象です。

そして、働けない者は「理想社会には存在しない」のです。ソ連がパラリンピックの委員会で「我が国に身体障害者などいない」と言い放った意味は、現代の日本人には中々理解が及ばないでしょう。存在しないと言われた者は人として扱われる事はありません。人として遇されるためには、働けなくとも働かなければならないし、身体障害者であっても、健常者と同じ労働をしなければならない。


話を元に戻しますが、社会主義国家は国民に対し衣食住を与えなければなりませんし、教育や医療もです。文化的な生活に必要な諸々も用意しなければなりません。

そしてそれを継続的に与える事ができた社会主義国家は存在しません。結局のところ何れの社会主義国家も社会主義経済を完全に放棄するか何らかの妥協をしなければならなかった訳です。


言うなれば、中国共産党は世界に先駆けて社会主義経済をギブアップしたのですが、土地の所有権など社会主義国家の肝となる部分は手放しませんでした。


じゃあ、一体、何のための共産党だよ。

文革、大躍進政策、そして余りクローズアップされる事はありませんが社会主義化、これらの暴虐で失われた生命、浪費された富、破壊された文化は何だったのか。

理想社会詐欺で騙し取った国富はちゃっかり自分のものにする史上最大のやらずぶったくり。

これを中国共産党は正当化する必要がある。


かと言って、今更、改革開放路線を完全に方針転換など出来ないし(習近平はしたいのでしょうがね)、社会主義経済などファンタジーに過ぎないことは全ての実例により証明されている。まぁ、サウジアラビアくらい異次元の産油国なら可能かも知れませんが、それすら石油社会がいつまで継続するかに掛かっています。


中国共産党は、現状を「特色ある社会主義」と滑稽な言い訳で誤魔化していますが、結局は社会主義の約束を果たしていない、という事。

数千万人の自国民を死に追いやっただけの馬賊の親玉が、大きな顔をして権力の座に居座る理由を何に求めるか。と言っても、クーデターに勝っただけの中国共産党には何の正統性もない。

そのクーデターすら、中国国民党を日本との戦いの矢面に立たせ、弱り切ったところで日本軍の武器などを使って勝ったのです。ソ連や当時の赤いアメリカの援護も大きかったでしょう。


中国共産党は自らの正統性を過去・現在・未来のフェーズにおいて示そうとしています。

その力点はコロコロ変わるので一概に言えませんが、最重視されるのは、当然ながら現在です。

結局のところ、今が豊かであれば人民は政治に関心を持たない。

それ故に、経済に限らず軍事やスポーツなどで実績を誇示することにより、中国共産党の指導により豊かで強く優れた今の中国があるのだとアピールしている。

そういう意味では戦狼外交もその政策の一つでしょう。もはや中国人民は世界中どこに行っても卑屈になる必要は無い。一流国家中国の国民であり、中国政府が付いている。と人民の自尊心を煽っているのです。


未来に係るフェーズでは、現在のビジョンは「中国の夢」になります。

習近平が打ち出した「中国の夢」は、かつて世界をリードした中国を再び世界の中心(中華)とし、中国人民(漢民族)の栄光を取り戻す。という中々壮大なビジョン。

つまるところ、共産党に従えばアメリカを追い越して覇権国家になれると言ってる訳です。

まぁ、世界中どこの共産党もファンタジーの中に生きているので、大言壮語は体質的なものと言って過言ではない。

ちなみに、大躍進政策の時も15年でアメリカ追い越す、とか今と同じ様なこと言って盛大にやらかしたんですけどね。


そして過去に係るフェーズ。

歴史というものには、国家や体制に不都合なものが地雷の様に埋まっています。シンプルに歴史的事実の場合も有りますし、歴史に基づく思想や文化が邪魔になる場合も有ります。

そういう意味で文革は、毛沢東による復権をかけたクーデターであると同時に、マオイズムに不都合な思想・文化・歴史を丸ごと葬る焚書坑儒でもあった訳です。

まぁ、本家焚書坑儒は秦の始皇帝によるものなので、中国の権力者による歴史の抹消・改変は二千年以上の実績があるわけです。

しょうもない例を挙げれば、毛沢東は魏の曹操を熱烈賞賛したため、それ以前の中国では悪役扱いだった曹操が英雄視される様になります。ぶっちゃけ、毛沢東は三国志演義と史実の区別も付かないアレな人なのでアレです(?)が。


そして、支配の正当化に歴史の改変が使われるわけです。

即ち、

暴虐の侵略者である日本軍と戦い、勝利したのは(中国国民党ではなく)中国共産党である。

というナラティブ。


存亡の危機にあった中国共産党にしてみれば、日中戦争は実に都合が良かった訳で、日本軍と戦うどころか中国国民党の戦力を削ぐような真似までしていたという話もあります。

言うまでもなく、日中戦争の勝者中国とは、中華民国であり、中国国民党です。戦艦ミズーリの艦上で調印した徐将軍も中華民国の代表として参加していますが、中国国民党との内戦に勝っただけの共産党が、いつの間にか日中戦争に勝って日本軍から中国を護ったことになっています。


中国共産党にしてみれば、自らの暴虐を棚上げし正当化する上で、日本軍の存在は非常に便利なものです。

一例として、抗日映画は、日中戦争前の中華民国時代には既に存在していましたが、規制の多い中国映画(暴力表現などは抗日映画でしか認められなかった時期もあります)にあって、抗日映画だけは当局の許可が降りたので、一時期、抗日アクション映画・抗日恋愛映画・抗日スパイ映画・抗日ドキュメンタリー映画・抗日ファンタジー映画みたいな感じでオールジャンル抗日みたいになってました。

中国共産党政権下の抗日映画では、日本軍と対峙しているのは中国共産党です(主人公は民間人の超人武術家だったりますが)。中国の軍が八路軍(人民解放軍の前身)ならマシな方で、どうみてもハー(は〜)だったりします。

こういうのは中々馬鹿にならないものです。


日本軍が何にでも使える万能薬みたいな存在である一方で、裏返しの様に中国共産党にとって猛毒となるのが中国国民党の存在。

国共内戦に敗れ、台湾に落ち延びた中国国民党ですが、中国国民党こそが唯一正統な中国の政体だとしています。

まぁ、中国国民党にしてみれば、日中戦争など適当に切り上げて中国共産党を潰したかったのが本音だったでしょうが、カイロ会談で真っ赤っかなルーズベルトに上手く嵌められ、大事な所で梯子を外された訳で、アメリカ主導の国際社会が中国共産党政権を承認したのは納得行かないのも当然かと思います。

互いに唯一正統な政体であると主張している以上、両者は相容れぬ存在です。これが取るに足らない泡沫ならまだしも、ソ連や当時の赤いアメリカの力を借りて撃ち破り、戦勝の功まで掠め取った仇敵が未だ健在。

これがどれほど心胆寒からしめる存在であるか想像に難くない。

もちろん、台湾が中国に攻め込むなんて事は有り得ません。中国共産党が怖れているのはそういう話ではない。


北朝鮮の金正恩は異母兄の金正男を暗殺したとされます。

白頭山の血統とはいえ既に権力移譲が完了している金正恩を金正男が脅かすことは無い、、、と放置することは出来なかったのでしょう。アメリカが存在するからです。


アメリカは敵対国家を潰すとき、受け皿となる民主的な政権を用意します。白頭山の血統を持ち、民主主義に理解のある金正男は打って付けでした。

中国に対する台湾も同じ。


どの国であっても、アメリカとの関係が悪化するリスクは除外できません。

アメリカに挑戦している中国、挑発している北朝鮮には、正に、すぐ側にある危機です。


いざアメリカと事を構えなければならなくなったとき、台湾政府がクリティカルなタイミングでやって来て、我々こそが「正統な」政権だと主張し、中国共産党の非を論い、アメリカと仲良くした方が儲かるぜ(←こいつが一番効く)、なんてやられては目も当てられない。


中国にとって台湾は仇敵という以上にリアルなリスク。存在を赦してはおけないのです。


と、まぁ、取り留めの無い話をダラダラとしてしまいました。中国の話の本論まで行かず申し訳ありませんが、続きは次稿以降で。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ