ミートミンサー
ミートミンサー
3月末までにドネツク州を陥せ、というプーチンの厳命は達成されませんでした。
まぁ、当然っちゃ当然のことで、不可視の戦域で遅れを取っている上に、戦力的優位をも失いつつあるロシア軍では、幾らボスが「やれ」と発破をかけたところで、出来ないものは出来ない。
おまけに、ロシア航空宇宙軍は虎の子のミサイルを軍事目標ではなく民間施設にぶっ放す始末。
なんなのこいつら、やる気あんのか。と溜息が出ます。
ロシアが対地攻撃に使っているミサイルの多くは空中発射型の巡航ミサイルです。
おそらくは核弾頭搭載可能なミサイルを通常弾頭で運用しているのだと考えられますが、核弾頭を搭載するミサイルは目標から100m単位でズレても問題にならないため、元々精密誘導兵器である必要はありません。
そんなものを通常弾頭で運用しても軍事目標撃破は覚束ない。
ターゲットとなる基地などは司令部や弾薬庫といった重要施設をピンポイントで攻撃しなければほとんど意味が無いからです。ターゲットとしては比較的大きい航空基地の滑走路などは、仮に何発か巡航ミサイルが当たっても炸薬量的に大きな損傷は望めないし、継続的に攻撃しなければ翌日には復旧するレベルでしょう。
だからと言って、都市に向かって撃てば何処かに当たるだろう的に巡航ミサイルをぶっ放すのは、もはや軍人の発想ではない。
こんな軍事的合理性の欠片もない、作戦とも呼べない散発的なミサイル攻撃でロシア航空宇宙軍司令部は何がしたかったのだ。
素人の寄せ集めを突撃させるしか能の無いロシア陸軍司令部は、一体何をしたかったのだ。
ゲラシモフは、畑から採れる兵卒を大量に注ぎ込めば、ドネツク州が勝手に陥落して勝利が転がり込むとでも思っていたのか。
ダラダラと締まりの無い突撃しか頭に無いロシア軍トップ連中の無為無策ぶりには、嘲笑よりも呆れ、呆れを突き抜けて怒りすら湧いてきます。
古来より、戦争は攻撃側が3倍の兵力を要する。と言われます。現代においても防御陣地に護られた守備兵を攻略するのは困難であることに変わりはありません。
そして言及される機会は少ないのですが、攻撃側に必要なのは数的優位だけではない。特に陸戦においては優秀な下士官と兵卒の経験値が求められます。
防衛側は戦意さえ有れば素人であっても幾らでもやれる事があります。
しかし、攻撃側は、いきなり素人を戦場に放り出して、突撃しろと言ったところで出来る訳がない。戦場での行動には、訓練と経験に裏打ちされた勘働きが、どうしても必要なのです。
まぁ、そこら辺はロシア軍も理解しているというか、独ソ戦で散々やり尽くしている。
即ち、素人の下劣な有効活用。督戦隊で戦場に追い立て、守備兵に弾薬を消耗させるのです。
消耗戦と言うと人的損失を思い浮かべる方が多いですが、この戦争の焦点は火力、即ち弾薬量です。
ロシア軍は中途半端な部分的動員令で予備役から30万の兵力を集めましたが、ウクライナは総動員令により100万単位の動員が可能です。
しかも、動員される兵は質においても差異があります。
ロシアにおける予備役は、徴兵経験があるだけの素人です。徴兵といっても訓練らしい訓練が行われる訳ではなく、有り体に言えば契約軍人による憂さ晴らしと暇つぶしレベルです。
意味合いとしては、安価に雇われた雑用係くらいのもので、軍事大国の体面を保つための水増し要員に過ぎません。
対して、ウクライナはクリミア紛争の後、ロシアとの衝突を不可避と考え、法整備を行い、徴兵に対する軍事調練を始め、何から何まで戦争の準備を実行してきました。即ち、この戦争が始まる前から100万単位の兵で対抗する意思を固めていたという事。
人的リソースにおいては、ウクライナは最初からロシアを上回っていました。これを覆すには、少なくともロシアは総動員令を発して戦時体制に移行する必要がありましたが、部分的動員令に留まり、結果として時間の経過と共に彼我の差は開き、もはや逆転は困難でしょう。
この様な状況でロシアが人的損失を厭わないのは合理性に欠けますが、それでも無謀な突撃を続けるのは、一つにはウクライナ側防衛線の穴を探るため、そしてもう一つ、繰り返しになりますがウクライナ軍の弾薬を消耗させるためです。
このイカれた発想は、勝ったソ連の方が負けたドイツの倍以上もの死者を出した独ソ戦と全く同じもの。
犯罪者などであっても自国民をミートミンサーに延々と追い立て続け、ロシア軍は何を得たでしょう。
独ソ戦の様な輝かしい勝利?阿呆らし。
80年前と同じことをやって勝てる道理は無い。
結果は予想通り過ぎて頭痛がするほどです。まぁ、頭痛は歯痛の所為かも知らんけど。
私は、ロシアが大攻勢を仕掛けたと見られる1ヶ月余りの戦況を公開情報等を基にレヴューしてみました。
そして、ちょっと信じられないほどの無為無策ぶりに本気で呆然となりました。
ロシア軍は何の工夫も無く、ただ延々と突撃を繰り返していただけです。
このところバフムートを中心に注目が集まっていましたが、ロシアの攻勢は東部から南部のかなり広い範囲に渡って実行されています。
こんな所に踏み込むのか?と疑問に思うような場所へも突撃、撃退されても暫くすると又突撃、そして撃退されるの繰り返し。
これが生命の掛かった戦場の有り様とは信じられないほど淡々と、犯罪者や素人を戦場に送り込んでいました。
ミートミンサーとはよく言ったものです。そこには何の感傷も罪悪感も感じ取る事ができませんでした。
敵の弾薬を消耗させる、という戦略は必ずしも間違いではない。しかし、そこに何らかの成算有ってのものではない事が問題です。
確かにロシア軍は何万人とも知れぬロシア国民の生命を代償に、ウクライナ軍の弾薬を消耗させました。
そしてイギリス情報部によれば、ロシア5に対しウクライナ1の人的被害が出ているとも推計されています。
ロシア軍の生命の軽さを考えれば、実際の被害比率は更に拡大するでしょうが、ロシアの犯罪者などと引き換えにウクライナを立て直すべき国民が失われるのは、例え20:1であっても割りに合いません。
しかし、それだけです。
ウクライナ軍は未だ健在で、反撃の機会を窺い、戦車や戦闘機を集積しています。
対するロシア軍はドネツク州どころか両軍の威信が掛かったバフムートさえ陥せません。外の交戦地域においても同様です。
ロシア軍の評価は堕ちる所まで堕ちています。
取り分け、軍上層部には「阿呆」の二文字で充分。
そして未だにワグネルは、戦略的価値の薄いバフムートで猿山の猿の様に騒いでいる。
こんな阿呆な連中のために何万人もの命が失われているのかと思うと本当に、本当にやりきれない。




