逮捕状
逮捕状
ロシアのチンピラ皇帝、もといロシア大統領であるプーチンに国際刑事裁判所(ICC)から逮捕状が発出されました。
嫌疑は「子供の連れ去り」の様です。
戦時国際法では、相手国の民間人を自国に連れ去る事を禁じているので、子供に限定しているのは、現時点で大人に関しては国連常任理事国の元首を逮捕できるほどの証拠が揃っていないのだと思います。
まぁ、いずれ大人に関する罪も糾弾されるでしょうし、ブチャなどの虐殺についても関与を追及されるでしょう。
子供に関しては、ロシア国内で割りとおおっぴらに同化政策(という名の民族浄化)をやってるので、ロシアが自ら公開している内容だけ見ても、充分な証拠になるし、放置できないと判断したと考えられます。
ちなみに、戦時国際法は戦線布告の有無を問わないので、ロシアが「これは特別軍事作戦だ」と言い張っても通用しません。
ここで少しICCについて解説しておきましょう。たま〜にニュースなどでハーグ裁判所と名前が出てくるのは概ね国際司法裁判所(ICJ)の方です。
ICCもハーグに所在していますが、ICCとICJは別組織です。ICJは国連に属する機関ですが、ICCはローマ規程に基づき設置された、国連とは独立した比較的新しい機関です。
いずれも国際法に係る司法機関ですが、イメージ的にはICCが刑事事件、ICJが民事事件を扱う裁判所くらいに思っておけば良いでしょう。
ICJは領土問題など多国間の事件を国際法に照らし判断を下す裁判所ですが、当事国の同意無しに審理を行うことはありません。つまり、例えばウクライナが「クリミアはウクライナの領土だから返してくれ」とICJに裁判を求めても、ロシアが応じなければ裁判は行われません。
対して、ICCには国際刑事裁判所検察庁(ICC-OTP、以下OTP)が存在し、重大な戦争犯罪や虐殺に対し独自の判断で捜査を行うことが出来ます。
一般的な刑事裁判と同じく、OTPが訴追し、ICCが判断を下すので、当然ではありますが、こちらはロシアの意向は関係ありません。
今回の逮捕状についても、OTPが捜査・報告した事実関係に基づきICCが発行したものと考えられます。
問題は逮捕状の効力、と言うより実効性でしょう。
ロシアはローマ規程を批准していませんし、仮に批准していた場合でも強制力はありません。
もっと言えばウクライナすら批准していないのです。
お察しかもしれませんが、アメリカも当然の如くしてません。戦争ばっかやってるアメリカだと自国の兵士がいつ被告席に立たされる事になるか分からんので危な過ぎて批准とか無理。
まぁ、そんな訳で少なくとも現時点において逮捕状そのものの実効性は無きに等しい。
では、逮捕状を出しても意味が無いかと言われれば、そうでもありません。
まず、ロシアが半ば公然とやってる同化政策と言う名の民族浄化を、明確に戦争犯罪であると指摘した事は重要であり、必要な措置です。
併せて、その戦争犯罪の責任はプーチンにあると名指ししたのは大きい。
その意義は、ロシアの激烈な反応を見れば分かる。
プーチンは小心です。
サイコパスとソシオパスは、その違いがリスクテイク時に顕在化する事が多い。
極端な話になりますが、例えば、押せば99%の確率で莫大なメリットが生じるスイッチがあるとしましょう。しかし、1%の確率で自分が死ぬ可能性がある時、メリットとデメリットを天秤にかけ、勝算が充分にあるなら躊躇なくスイッチを押すのがサイコパスです。
その器質は時として桁外れの成功、偉業に結びつく場合もある。
ソシオパスはリスクテイクにおいて常人と変わりは無い。充分な勝算が有るとしても、先程のスイッチを押すのは躊躇うでしょうし、押せずに終わるかも知れない。
プーチンには典型的なソシオパスの特徴が見られます。国民を死地に追いやることに毛ほどの躊躇いも見えないが、自身のリスクに繋がる場合は有効な手段であっても決断を渋る。
逮捕状の存在はプーチンを萎縮させるでしょう。
ロシア国内で皇帝位に在る限りプーチンは安泰です。逮捕状など無視していればいい。
しかし、一度国外に出れば逮捕に怯えなければならない。
ローマ規程を批准している日本などの国には来れないし、批准していない国でも訪問には疑心暗鬼になるでしょう。大統領という看板が無くなる亡命は、選択肢として非常に取り辛くなった。
また、中国やインドはローマ規程を批准していませんが、逮捕状の存在を完全に無視するのは難しい。プーチンが訪中・訪印したからといってICCに突き出すマネこそしないでしょうが、扱いは変えざるを得ない。特に中国にとってプーチンは著しく価値を落とした。
プーチン、延いてはロシアは幾つかの選択肢を失い。孤立を深めることとなった。




