これがロシアの大攻勢?
これがロシアの大攻勢?
春の前に想定されていた、ロシアによる大攻勢は既に始まっている。
という見方が強まっています。
事実として、バフムートを中心に東部から南部の戦闘が活発化しており、死傷者も急増している。
ロシア側兵力も東部に集結して大攻勢の様相を呈しているのは確かです。
です、、、が、これが大攻勢?
キーウへの再侵攻ではなく、東部ドネツク州を優先している事自体は意外では無く、軍事的にはむしろ真っ当な選択と言っていい。
しかし、再侵攻や大攻勢に際してはロシア航空宇宙軍(以下「空軍」)と陸軍による統合作戦になると想定していました。
この戦争におけるロシア苦戦の一因として空軍と陸軍の連携不足が挙げられます。
ロシアは伝統的に陸軍のマッチョが幅を利かせている国なので、空軍のエリートパイロットといえども添え物扱いされがちで反りが合わない。
まぁ、それを言い出すとロシアという国はどこを見ても横にも縦にも仲の悪い組織ばっかなんですけどね。
現代戦は、先ず、航空戦力により目標を徹底的に叩いた後に陸戦部隊を投入する手順を踏みます。これはロシアにおいても同様で、開戦当初に防空施設をミサイル等で攻撃しており、この攻撃がおざなりに過ぎたのが、現在に至るまで後を引く失態と言えますし、ロシアの主張どおり防空施設を完全に叩く事が出来ていれば、その時点でウクライナ軍が組織的抵抗力を喪失していた可能性すら有ります。
現時点でロシアの陸戦戦力は国家レベルで半壊し、人的資源も残っているのは素人に毛の生えたような兵卒と頭の古い将校が大半を占めています。
対して、航空戦力はミサイルなどの精密誘導兵器を除けば、大半が無傷の状態で温存されている。
ロシアが防衛側なら、引き続き貴重な航空戦力を温存する、という選択肢もあり得ます。
しかし、これが乾坤一擲の大攻勢であるなら、投入を躊躇ってなどいられないし、ロシア軍なら航空優勢の得られぬまま大損害を覚悟で大量投入もあり得る。
そう考えていました。
現在行われているロシア軍の攻撃は完全に陸戦戦力頼みの平押しです。例えるなら、毒蛇や猛獣の潜む暗闇を手探りで進もうとしているに等しい。
手足を噛み裂かれながら、何処かに突破口が無いか探っているのです。これは百年前の戦法にほかならない。
ウクライナ軍が不可視の戦域で優位に立ち、ロシア側の配置を見透かしてイジューム解放に至る機甲突破戦をやってのけたのとは真逆です。
ウクライナ軍が不可視の戦域、即ちインテリジェンスを駆使して見つけた突破口を、ロシア軍は手探り、即ち前線兵士の生命を代償に見つけようとしている。
ちょっと信じられないくらい愚かしいやり方。
兵士の生命を代償にすることが愚かだという道義的な話ではありません。ロシアのやり方では突破は覚束ないという話。
片やOODAループの採用などにより権限移譲を進め、IT機器を駆使して柔軟に前線対応が可能なウクライナ軍と旧態然とした指揮命令系統で練度も低く、硬直した運用しかできないロシア軍では、状況判断と意思決定の速度に極めて重大な差異が有るのは明白です。これは机上の想定ではなく、戦場の現実として如実に現れている。
加えて、不可視の戦域で優位に立つウクライナ軍は、ロシア軍の動きを的確に把握しており、その意図を見極めた上で対応できる。
即ち、図体ばかりでかく指揮命令系統の一元化もままならないロシア軍は、例え攻めるべき突破口を見つけたとしても、その情報を司令部が受け取り、判断し、攻撃命令を発し、部隊が攻撃体勢を整えるまで相当な時間がかかってしまう。
対して、ウクライナ軍はロシア軍がもたもたしている間に自陣に穴があるなら塞げば良いし、場合によっては、あえて穴を作ってロシア軍の不利な戦場に誘導することすら出来るでしょう。
こういった後出しジャンケンにも等しいウクライナ軍の護りを陸戦戦力で抜くのは非現実的としか言いようがない。
ドネツク州を陥すには航空戦力と陸戦戦力の集中運用が絶対条件です(まぁ、それでもバフムートを陥すくらいが関の山でしょうが)。
何故、大規模な航空戦力が投入されないのか。
精密誘導兵器の絶対数が足りていないのは想定の範囲内ですが、それなら尚更、何故、貴重なミサイルをダラダラダラダラと消耗しながら、憎悪を積み上げる効果しかない民間人への攻撃を続けているのか。
ゲラシモフドクトリンは直接交戦する戦力より戦争のお膳立てに力を入れた戦闘教義です。
一面的には、後方の民間人をターゲットにする事で敵国の厭戦気分を高める、という思想が無いわけではないが、ウクライナのこの一年間を見ていれば、火に油を注ぐ行為に他ならないと誰しもが思うだろう。
ゲラシモフは陸戦が専門ですが航空支援の必要性を理解しています。不可視の戦域で遅れをとり、搦手の民間人攻撃も逆効果であるなら、ロシアがこの戦争において唯一優位にある航空戦力の投入以外、有効な手立ては存在しない。
嫌われ者の参謀総長をウクライナ戦争の総司令にしている以上、一定程度のサボタージュも想定はされますが、統合作戦どころか空軍と陸軍が別の方向を向いている現状は明らかに異常です。
これについて、やはり本命はキーウ再侵攻で航空戦力は温存されているのではないか。とする意見もあり、色々と検討してみましたが余りにも非合理的に過ぎます。
現時点では、これが大攻勢であるなら、ほとんど成果を挙げることは出来ない。と評価するしかありません。




