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これはホースなのか?

これはホースなのか?


ウクライナへのMBT供与が開始されています。

当然、扱ったことのない西側のMBTをいきなり前線に配備するようなマネは出来ないので、各国で訓練を施し、戦術に組み込めるレベルまで鍛え上げてから送り出すでしょう。

MBTには供与国の威信がかかっているので疎かにされることはありません。


問題は時期ですが、ウクライナでの編成まで考えると2ヶ月はかかるでしょう。

ロシアの大規模侵攻とされるものには、間に合わない。と言うか東部では既に始まっているとの説もある。

とは言え、泥濘期の終わっていない中では大規模な戦車戦にはならないし、そもそもMBTの供与は中長期計画で、春先までの作戦には戦力として計算に入れていないハズ。


MBTの戦力化も端緒についたばかりですが、早くも次の支援、それもウクライナが当初から欲して止まなかった戦闘機の供与が取り沙汰されるようになりました。

候補となっているのはF16、タイフーン、ミラージュ2000辺りかと思いますが、いずれも言わずと知れた西側の戦闘機なので、ウクライナ軍パイロットは扱ったことが無いし、整備士も同様。

整備士に関しては、当面の間は供与国が派遣するかも知れませんが、パイロットはそうもいきません。

パイロットが機種転換する場合、概ね2ヶ月弱の訓練期間を要します。しかし、これは機体搭乗資格を得る最低限のレベルに過ぎず、別途慣熟訓練が必要です。

パイロットは皆優秀なので、英語コミュニケーションに支障はありませんが、設計思想や運用思想の異なる西側の機体特性やアヴィオニクスに習熟するには3ヶ月から半年はかかるかも知れません。


そして戦闘機の供与には、戦闘機単体のコストは元より、ミサイル等の弾薬や訓練コスト、整備士派遣など調整すべき事項が戦車より格段に多いためハードルが高く、ゼレンスキーの訪英は供与を後押しするためのものでしょう。

尤も、例によって訪英などはセレモニーに過ぎず、おそらく戦闘機供与自体は既定事項であると考えられます。

ここでも問題は配備可能となる時期です。

訓練期間を考えれば、早くとも今年の9月以降、訪英が奏功してそのくらいかと思います。


戦車にしろ戦闘機にしろ短期戦を想定した供与ではありません。中長期を見越した配備計画になります。


これは、この戦争の長期化を意味しているのでしょうか?


私としては「兵站が逝ってるからロシアは春まで保たんよ」とか吹きまくった手前、春までに終わるようには見えない現状は汗顔の至りな訳で、あまり傷口を拡げる様なことは言いたくないのですが、それでもやはり長期化するとは考え難い。


色々と状況を見直してもロシアの兵站が改善されている兆候が認められないからです。

その辺のブレイクダウンは別稿に回したいと思いますが、では、何のために長期的配備を計画しているのか?


一義的には、これが国家間の戦争である以上、楽観的見通しで長期戦の準備を怠るなど論外であること。


二つ目、この戦争が事実上、我慢比べであることから、NATOの結束と覚悟を示し、長期戦に対応可能な体制を整える事は、ロシア軍とプーチンの戦意を挫く極めて重要なファクターであること。


そして三つ目、戦争というより政治の話。

ウクライナ軍のNATO化です。

実のところ、これが様々な功罪の原因となっており、非常に評価が難しい。


言うまでもなくウクライナはソ連でした。

2014年までのウクライナはロシアの縮小版。非民主的で不正も多く、マフィア国家と言えばロシアより先にウクライナの名が挙がる、そんな国でした。

そんな国と政治に市民がうんざりし、EU諸国と協力して近代化し、発展することへの気運の高まりが、2014年のユーロマイダン革命に繋がります。

このウクライナの西側諸国への接近、言い換えるなら脱ロシア化がプーチンの不興をかい、クリミア侵攻、そして今日のウクライナ戦争へと続く訳です。


クリミア侵攻で、ロシアを明確に敵と認識したウクライナは、政治や宗教など様々な分野で脱ロシア化が進みましたが、中々転換の進まない分野もありました。

軍における装備。特に戦車や重火器、戦闘機などの重工業製品です。


ウクライナは欧州屈指の農業国であると同時に製鉄業を基盤とした重工業も重要な産業でした。

ソ連時代は兵器廠としての機能も持ち、世界最大の航空機アントノフ225とか中国最初の空母ワリャーグ(遼寧)などもウクライナ製です。


しかし、ソ連崩壊後はウクライナとロシアは工業製品(兵器)の輸出において競合相手に変わります。

当然、ソ連時代から製造されている兵器はロシアもウクライナも基本設計は同じで、後は品質と価格の差でしか差別化はできず、規模において劣るウクライナ製兵器は勝負になりません。


この苦しい兵器産業をウクライナ政府は支える必要があった。


西側と東側の兵器には共通する規格が無い。

当然と言えば当然かも知れませんが、一例として、世界中至るところに輸出されパチもんを含めると一体何丁製造されたのか分からない(少なくとも1億丁)傑作自動小銃のカラシニコフことAK47は7.62mm径の銃弾を使用しています。

対して、西側は銃弾規格の共通化を図り、7.62mmNATO弾を各国の自動小銃や機関銃、狙撃銃の共用弾としており、多くの小火器が採用している。

両銃弾は同じ7.62mm径ですが、ほとんど共通するところが無く、当然、共用は出来ません。

世界中に拡散したAK47の7.62mm弾、NATO標準で採用する銃器の豊富な7.62mmNATO弾、どちらの銃弾がスタンダードオブスタンダードと言えるかは意見の分かれるところかも知れませんが、このように規格の異なる兵器群が混在すると兵站にどれほどの悪影響を及ぼすかは想像に難くない。


ウクライナは開戦当初から航空機や戦車の必要性を強く訴えてきました。

改めて言うまでもなく、航空機の即戦力なら同じ旧東側諸国の保有するミグやスホーイ、戦車ならT72(ビックリ箱とか言わないよーに)などがベストです。

実際にポーランドからT72が供与されていますが、各国としても自国防衛に必要な装備であるため、ウクライナが求める数を供与することはできなかった。


このため、アメリカなどがF16などの西側兵器をポーランドなどに供与し、ポーランドなどは旧東側兵器のスホーイなどをウクライナに供与する玉突き方式とかトコロテン方式と言われる手法も検討されたが実現はしませんでした。


しかし、玉突き方式は、装備が東側の旧式であることを除けば現実的で即応性の高い手法でした。

このウクライナ戦争の序盤で実現していれば戦局が大きく変わっていた可能性も高い。


実現しなかったのは、アメリカを始めとする西側諸国にとって、ウクライナ軍の装備をNATO標準化することは様々なメリットが有る。というところが大きいのではないか、と思う(←持って回った言い方)。


アメリカなどにしてみれば、既に戦争の先、ウクライナがNATO入りすることを前提とした中長期の配備計画なのでしょう。


軍用装備の調達から政治色を排するのは非常に困難です。私的な妄想の類いではありますが、ウクライナ国防相が汚職で辞任するという騒動も、このNATO化と無関係とは思えません。


評価が難しいのは、これが多分に政治絡みであるのは事実であっても、純軍事的に見ても装備のNATO化は中長期的にはウクライナにとって有効、と言うより必須と言っていい事です。


第二次世界大戦時、レンドリース法について議会と国民の理解を得るため、ルーズベルトは

「火事で困っている隣人に、消火のためのホースを貸すようなもの」

と説明しました。


しかし、アメリカが供与するエイブラムスやF16は果たしてホースと言えるのだろうか?


こうやってNATO化を進める事がプーチンのようなチンピラにNATOの侵略だ何だと言い掛かりを付けられる隙に繋がり、アメリカ帝国主義と揶揄される所以でもある。


アメリカの悪い癖が出なければ良いのですが。

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