停戦交渉
停戦交渉
現在、トルコで停戦交渉が続いています。
双方妥協点を探っているようですが、困難な内容であるのは誰の目にも明らかです。
ここまで取り留めもなく書いてきた個人的結論。
即ち
プーチンは、ロシアが中国に先んじて戦争を開始することにより、世界を驚かせ、ウクライナを解体し、その悲惨な爪痕を世界が垣間見ることで、ロシアは侮られることなき軍事的脅威であると知らしめる。
そこに政治的合理性は無く、プーチンの「軍事大国であることが虚構に過ぎなくとも、軍事的脅威でありたい」という願望によるもの。
との判断。
これを前提に、停戦交渉の現状を見返してみたいと思います。
まず、ウクライナ解体のキーとなる作戦目標、
キーウ(政府見解に倣い以後ウクライナ読みとします)とゼレンスキー政権幹部の確保は達成困難な状況にあります。
これはウクライナ上空、特に北部域の制空権を取れていない事が最大の要因で、ウクライナ側は、開戦以降、ロシア側航空戦力100機以上を撃墜したと報道しています。
これが、戦意高揚のための過大な戦果発表であるおそれもありますが、現実にロシア側がキーウから後退し、北部の軍事活動も低調であることが裏付けとなっています。
これはウクライナ空軍機懸命の抵抗もさることながら、対空施設、対空兵装が一定程度健在であるからです。
開戦当初、対空施設を全て破壊したとするロシア側の報道と真逆の現実となっており、制空権確保はおろか航空優勢も取れないまま、いたずらに航空戦力を消耗する、およそ現代戦と思えないロシア軍の拙劣さを露呈しています。
ロシアは、今回の戦争に300から500機の航空戦力を用意していると伝えられています。
この航空戦力の内訳が分からないので確かなことは言えませんが、100機の損失とは当初戦力の2割から1/3を失っているわけで、さらに軽微な損傷で出撃不可能な機体も相当数存在する可能性を考えれば、作戦継続は困難であると推測されます。
例え、ウクライナ空軍も同様に被害甚大であったとしても、です。
航空機はそれ自体高価な兵器ですが、搭乗するパイロットは希少性において航空機以上。航空優勢の得られていないウクライナでは、機体が破壊された場合、例え脱出してもロシア側の救出はほぼ不可能でしょう。
ロシアでは兵隊が畑から生えてくる。と揶揄されるほど伝統的に軽んじられる命ですが、航空機パイロットが居なければ戦争にならないのです。
航空戦力の有用性は第一次世界大戦で認められ、第二次大戦では既に制空権の重要性が認識されていました。
戦闘機の開発を国家単位で莫大な費用をかけて行い、バカ高い精密誘導ミサイルを大量に配備するのも全て制空権のため。
現代戦では、陸上戦であろうと海上戦であろうと航空支援抜きでは戦えないのです。
ロシア本国には未だウクライナ空軍に数倍する無傷の航空戦力があるはずですが、航空優勢を得られないまま投入することは(常識的には)できませんし、航空優勢を得るために必要な大量の地対地、空対地精密誘導ミサイルがここに至るまで投入されないということは、絶対数が不足しているとしか考えられません。
これまでの戦闘の経過を見る限り、A(核)B(生物)C(化学)兵器を使用せず、通常戦力のみでロシアが状況を覆すことは困難です。
問題は南東部です。
東部は元々親露派武装勢力の実効支配地域から侵攻した部隊で、南部もクリミア半島経由で侵攻してきた部隊が幾つかの要衝を実効支配下に置くなどしており、現在も激しい戦闘が続いています。
ロシアは「キーウからロシア軍が撃退されたという米国の主張は誤り、作戦目標は東部でキーウの部隊は囮」と報道し、絵に描いたような負け惜しみが失笑を買いました。
しかし、実のところ笑っていられる事態ではなく、東部・南部においてもロシアを撃退できるかは難しいところなのです。
元々、私は今回の戦争が始まる前は北部・南部のロシア軍は囮(ロシア側の負け惜しみに乗るみたいでやだな)、本命は東部侵攻と考えていました。
東部であれば実効支配地域という地の利を一定活かせる上に、ウクライナ側も虎の子の地対空兵装をキーウ防空にも割かざるを得ず、非常に苦しい(キーウ攻防戦が苦闘であったことを否定するつもりはありません)展開となったであろうほか、結果論ですが
「戦地で踏み留まり、市民や軍を鼓舞する大統領」というゼレンスキー大統領の評価も
「安全な(実際には安全ではありませんが)キーウから苦しい戦場に兵を追いやる大統領」となっていたかもしれません。
そして、今後、戦闘が長期化し、厭戦気運が高まるとその様な評価に変化する可能性もあります(少なくともロシア側は遅まきながらそう煽るでしょう。宮殿に引き篭もるプーチンを棚に上げて)。
現状、ロシア軍がキーウ制圧を断念したと判断するのは早計に過ぎます。
ウクライナ側も地対空兵装の再配置はできないでしょう。
ロシアがキーウを牽制しつつ(南)東部に集中するのは純軍事的には正しいのです。
では、ウクライナはどう対抗すべきか。
ロシア軍がどれだけ拙劣であっても軍事的に正面から対抗していては保ちません。
ロシア側の有利な場所で戦わないこと。遅滞戦闘で航空優勢を得られる地域まで後退すること。
西側諸国からの支援、軍事的には制空権確保に必要な装備。人道的にはロシア側に連行された非戦闘員の返還要求。を中心に強く求めること。
現状、非戦闘員をロシア側が攻撃しないなどとは考えず、可及的速やかに西側へ人道回廊を設定すること。
この辺は言わずもがなの事項ですが、要となるのは停戦交渉において親露派武装勢力の独立は絶対に認めず、棚上げともしないこと。
ロシアは親露派武装勢力の取り扱いについては、無理を承知で独立の承認を求め、拒めば停戦交渉では棚上げ扱いにしようと提案するでしょう。
しかし、棚上げとは、事実上の黙認です。
表面上「ロシアが停戦」しようが自称なんちゃら共和国の親露派武装勢力(+ロシア)が何時でも戦争を仕掛けられるのです。
ある程度の時間は稼げるでしょうが戦争は終わることなく、批難の矛先をロシアからなんちゃら共和国に変えられてしまうのです。
こうなっては世界の関心は激減し、何時しか日常になってしまうでしょう。事実、親露派武装勢力とは2014年以降内戦状態が継続し、1万数千人が死亡していますが、そのことを知っていた日本人がどれだけ居たでしょうか。
大半の日本人は、比較的小規模とはいえ内戦状態にあったことも知らないでしょうし、ニュースが流れても気に留めることはほとんどなかったと思います。
これはウクライナ解体というロシアの戦争目的が半分は達成された状態です。
ウクライナ政府という反ロシアの司令塔が残っていますが、ジリ貧となる可能性が高い、内戦下では国土が荒廃し国民が流出している現状を立て直すことが非常に困難だからです。
繰り返しますが親露派武装勢力問題を棚上げとしないこと。
ウクライナの中立化に伴う安全保障に必ず親露派武装勢力の取り扱いを含めること。
やむを得ず棚上げする場合は、必ず期間を限定し、極々短期間に留め、その間の親露派武装勢力の活動を制限する措置を取ること。
焦点はやはりプーチンです。
結局のところプーチンが矛を収める気になるか否かになってしまう。
今回の戦争、ロシア軍の体たらくがプーチンの矜持をいたく傷付けたことは間違いありません。
キーウ周辺にロシア軍が残した、語るも悍ましい惨状はプーチンのメッセージ「見せしめ」でしょう。
近代化された軍隊は交戦規定、即ち、戦場でやって良いこと悪いことを文字通り叩き込まれます。非戦闘員への意図的な加害行為は最大の禁忌の一つです。
戦争という極限状態で疎かになる面はあるでしょうが、非戦闘員の殺傷をおそらく組織的に実行しているであろう状況を見るに、ロシア軍は第二次大戦以前と変わらぬ、軍とすら呼べない犯罪者集団であると再認識させられます。
ゼレンスキーは、この犯罪者集団のボスであるプーチンとのトップ会談を希望しています。
通常、トップ会談は事務方が細部まで詰めた上でトップは握手するだけの状態で行うのが外交プロトコルです。
トランプと金正恩の事例のように、ほとんどフリーハンドで会談するなど滅多にないことなのです。
ゼレンスキーとプーチンが会談しても握手できる状態でも関係でもありません。
そもそも自身の安全に偏執的なプーチンがトルコでの会談に応じる可能性は低いでしょう。
近日中に停戦合意がなされる可能性はほぼありません。
話は変わりますが、本稿の元となるものは、ロシア軍がキーウから後退したと伝えられた後の4月2日に用意していました。当初の表題も「この戦争の着地点」でした。
しかし、ロシアが戦域を南東部に集中し、ゼレンスキーが更に困難な舵取りを迫られるなど様々なアップデートを重ねた結果、戦争の決着を語るのは時期尚早と判断しました。
次稿以降、戦争の着地点についての考察に先立ち、日本の言論について投稿したいと考えています。