MBT
MBT
年初より、NATO諸国からウクライナへの装備供与についての報道が相次いでいます。
中でも焦点となっているのがドイツ製戦車レオパルト2の供与についての可否。
イギリスは既にチャレンジャー2供与を決めており、レオパルト2の外にアメリカのエイブラムス、フランスのルクレール供与についても取り沙汰されています。
これらは何れもMBT(=主力戦車)と呼ばれるものです。
第一次世界大戦において登場した戦車は、第二次世界大戦で用途毎の細分化が進んだ結果、汎用性を失い、様々な不都合が生じました。
その反省から生まれたのがMBTであり、高威力・大出力・重装甲、そして多機能化が図られています。
MBTは榴弾砲と並び、陸戦の二本柱とも言える装備で、ゼレンスキーは開戦当初から必要性を訴えていましたが、これまでNATO諸国は自国のMBTを供与していません。
それがここに来てチャレンジャーを始め各国の主力級MBT供与の話が矢継ぎ早に出てきた理由は何でしょうか。
元々、MBTを供与していない理由は、概ね、戦争のエスカレーションを懸念してのこととされていました。
まぁ、嘘ではありませんが、ぶっちゃけ建前に過ぎず、各国には各国それぞれの理由があり、さらには、それぞれの国の内部においても色々な思惑(ドイツの親露政治家とか日本やアメリカの比じゃないし)が有っての判断であり、一概に言える事ではありません。
それでも本音の部分を推察(邪推とも言う)するなら、「様子見」が一番近いでしょう。
昨年前半の時点では、NATO諸国もウクライナがロシアに勝つと確信を持っては言えなかった。
アメリカの本気を信じられなかったというより、ウクライナの覚悟を信じきれなかったのかも知れません。
MBTは陸戦、即ち、国防最後のステージを担う国家の威信がかかった装備でもあり、その象徴性は空軍の戦闘機にも引けを取りません。
そのMBTをウクライナに渡して良いのか?
東側の戦車しか使ったことの無いウクライナ軍戦車兵は強力なMBTを乗りこなし、西側仕様のヴェトロニクスを扱いきれるのか?
当然の懸念でしょう。
数で上回るロシア機甲部隊とぶつかるのであれば、ウクライナに供与した自国の主力MBTが無残に擱座する未来を連想しても責められはしない。
そして何より、入れ込んだウクライナが負けるとまでは行かずとも、適当なところでロシアと手を打ち、新たな秩序の下で未来図を描く事態になれば、NATO諸国は非常に気不味い想いをする羽目に陥ります。
しかし、ロシアを放置してウクライナがいいように蹂躙されても困る。その葛藤の結果として送られたのがジャベリンでしたが、ウクライナは想定以上の戦果を挙げて見せました。
そしてNATO諸国の意識を変えたのがウクライナ軍機甲部隊によるイジューム奪還ではないかと考えています。
イジューム奪還作戦において、ウクライナ軍はロシア軍に劣後した存在ではないことを、それまで以上に鮮烈にアピールしました。
そしてロシア軍は軍隊ではなく山賊であることが幾度となく示されています。
即ち、排除する難易度は想定より低いが、排除する必要性は高い。
NATO諸国がMBT供与に舵を切るには充分でしょう。
下世話な言い方をするなら、各国としても勝ち馬に乗り遅れたくはない。そして自国のMBTをアピールする数少ない絶好の機会と判断しても当然と言えます(ロシア寄りのアメリカ共和党でさえ、一部議員からはエイブラムス供与を求める声が挙がったりしています)。
さて、この局面において何故MBTが必要なのか?
MBTの最も重要な任務は概ね二つ。敵MBTの撃破と敵防御陣地の突破です。
実のところ、ロシア軍MBT(その多くはT72)の脅威評価は開戦以降低下し続けており、損失も大きいことから、MBT同士の大規模な戦車戦は想定されていません。
そしてT72の撃破はジャベリンでも可能です。それなら、MBTはMBTにしか出来ない事をするだけ。
泥濘期の終わり、その頃にはウクライナ兵も供与されたMBTに慣れて、、、ちょい厳しいか、、、
まぁ、エイブラムスは微妙ですが、ドイツはレオパルト供与を黙認するんじゃないかなぁ、と思っています。
足場の固まったウクライナの大地をMBTが疾駆し、機甲突破戦を再び見る事が出来るでしょう。




