どうするゲラシモフ
どうするゲラシモフ
ウクライナとアメリカはベラルーシを経由して20万規模のキーウ再侵攻がある。と、かなりの確度を持って予測し、応戦準備をしているようです。
報道などではバフムート近郊ソレダールにおける戦闘が激化しており、耳目を集めていますが、個人的には戦略上の優先順位はそこまで高くないと思っています。
ロシアにしてみれば負けの込んでいる中で、僅かなりとも勝利を得て面目を施し、士気向上に繋げたい。
ウクライナは、ロシアがムキになってバフムート周辺に無謀な突撃を続けるなら、メリトポリやキーウ方面に振り向けるべきロシアの装備や物資を底抜けに消耗させられると考えているのかも知れません。
ウクライナ軍にも少なからず人的被害が生じているようですが、ロシアというかワグネルの被害が尋常ではない。
まぁ、当然の話です。ヤクザのカチコミ紛いの特攻ムーブで人的被害を屁とも思わずヤクザと犯罪者を使い潰しているのだから。
そんなイカれたワグネル(=プリゴジン)のやり方にウクライナが付き合う必要はない。戦後、荒れ果てた国土を復興させる兵士とヤクザや犯罪者では1:20の被害比率でも割に合わない。
バフムートの地勢的な重要度よりも政治的重要度、そしてロシア軍に底の抜けた損耗を強いる血肉の泥濘とする意図は理解できます。
ウクライナ軍にとってバフムート防衛は力加減の難しい戦場なのでしょうが、ソレダールはともかくバフムートはそう簡単に落ちるとは思えないので、個人的には余り入れ込まないで欲しいなぁ、と思ってます。
いずれにせよ、バフムートはウクライナとロシア双方において前哨戦にすぎない。
本戦は、ウクライナによる大規模反攻かキーウ攻防戦。
ゲラシモフに対してはドネツク州制圧の任も課されているのでしょうが、バフムートが落ちなければ手が回らない。
と言うか、ワグネルによるバフムートへの攻撃そのものがゲラシモフにしてみれば頭痛の種でしょう。
ロシア軍、、、と言っても一枚岩でない事は誰しもお察しのことと思います。
言うまでもなく端的な事例がワグネルです。
ワグネルはプリゴジンが起こした民間軍事会社ですが、ロシアでは民間軍事会社という時点で違法になります。
民間軍事会社や傭兵組織という言われ方をしているので、パラミリタリーの様に認識している方も多いのですが、中身は明らかにイリーガルファンクションで、本来なら大手を振って戦果を誇れる存在ではありません。
おそらく、ワグネルの活動の大部分は法的な根拠を持っていないと考えられます。
プリゴジンは刑務所に乗り込んで、恩赦をエサに囚人をスカウトしていますが、囚人を解放する根拠も恩赦を与える権限も有りはしないでしょう。
そんな馬鹿な、実際に囚人が刑務所を出て戦争に参加し、恩赦を得ているじゃないかと思うかも知れません。
事実としては、その通り。ただ単に、法的には何の権限も根拠も無く実行されているだけです。
付け加えるなら、6ヶ月間戦争に従事して恩赦を勝ち取ったなんて話は眉に唾を付けるべきです。恩赦を受けたのがプリゴジンと縁のある犯罪者で戦場に一度も出ていなくとも驚きませんが、ミートミンサーの如き戦場に6ヶ月立たされて五体満足で帰ってくるというのは、驚くと言うより、もうちょっとマシな嘘をつけよってレベル。
一般的な感覚からすると色々な面が到底理解できないでしょう。
プリゴジンが囚人をスカウトしているというニュースを見ても、漠然と「プーチンが許可したんだろうなぁ」くらいに思っているかも知れませんが、許可とは即ち責任を負うことと同義です。
少なくともプーチンは明文化された形では指示も許可もしていないでしょう。スカウトはプリゴジンが「ロシアのために」勝手にやった事、、、というのがプーチンのスタイル。
プーチンは、その時々の都合で「ロシアのために」やったと賞賛もすれば、勝手にやった責任を取らせて処刑もできるのです。
プリゴジンのワグネルは、この戦争におけるイリーガルファンクションとして活動しており、資金や装備、物資の出所は正規・非正規を問いません。
装甲車ならまだしも、戦闘爆撃機に至るまで乗り回しているのです。一体どこから引っ張りだしてきているのやら、、、
このよう出鱈目が罷り通るのはワグネルに限りません。大なり小なりどの部隊でもやっている事です。
装備や物資の横領・横流しは当たり前で、正規の手続きを踏んでいたら来るべきものなど何時まで経っても手元には届きません。
ロシア軍においては、敵はウクライナ軍だけでなく、隣りの部隊、隣りの兵士すら出し抜かなければ馬鹿を見る。
戦争において、混成部隊や連合軍と呼ばれるような軍をコントロールするのは非常に困難な事です。
今回のロシア軍は、ざっと見ただけでも国軍、国家親衛隊、国境警備隊、親露派武装勢力、ワグネル、チェチェンのカディロフツィなど、どれもこれもクセが強すぎる面々です。
国軍だけ見ても中央軍、方面軍などなど機能も指揮命令系統もバラバラな縦割り集団であり、上下関係においても反目し合っていることなど珍しくもない。
これが誇張でも大袈裟でもないのがある意味凄い。
この図体ばかり巨大な山賊の寄せ集めを率いなければならないのがゲラシモフです。
多分、真面目にやったら過労とストレスで即死する(誇張)。
これがシミュレーションゲームならクソバランスの無理ゲーでもまだマシです。少なくともコマンドは実行されるのですから。
現実はコマンド(命令)がコマンド通りに実行される保証などありません。
ゲラシモフは参謀総長、即ち、参謀本部のトップですが、古今東西の軍隊で参謀本部と憲兵本部は嫌われ者の双璧。まともに機能するハズがない。
ゲラシモフが不可視の戦域を重視しているのは、この現実を理解しているから、とも言えます。
ロシア軍は曲がり形にも軍事大国ではあったので、不可視の戦域で優位を取れれば局地的な戦場で勝利することは難しくない。
しかし、小国相手ならそれで充分だが、国家間の戦争では通用しない。
ある意味で、クリミア紛争時の圧倒的な勝利が、プーチンを過信させたとも言える。クリミア紛争勝利の立役者たるゲラシモフが、その尻拭いまでさせられるのは皮肉な展開としか言いようがない。
ゲラシモフ自身は基本的に優秀な軍人です。
しかし、ウクライナ戦争の総司令として出来る事は限られ、反発を生み、得られるものは無く、スポイルされるでしょう。
この、どうしようもねぇ山賊共を率いて西側の支援を受け近代化したウクライナ軍と戦わなければならない。
どうする?ゲラシモフ。