GDP
GDP
Gross Domestic Product。言うまでもなく国内総生産です。
「国力」を示す一つの指標として非常に注目度の高い統計になっていますが、国力と言い切ってしまうと若干の語弊があるかと思います。
GDPは国内で生み出された付加価値の量を表しており、積み上げられた財の多寡は示されません。
会計で言えばPL・BS・CFの財務三表の内、PLの要素しかない。
更に言えば、GDPは国家としての経済規模を示すもので、戦争の主体となる政府そのものの規模ではありませんし、いわんや軍の規模でもありません。
しかし、国家間の戦争となった時、GDPは能く比較の対象となります(ソースは俺)。
これは、戦争は最終的に国家全体における経済力のぶつかり合いであり、経済力を端的に表すなら、国家の現在値より国家の勢い・パワーとも言えるGDPを比較する方が簡便であり、ベターでもあるからです。
とは言え、戦争の傷口を測るにはGDPは明らかに不適切です。
2022年、ウクライナのGDPは前年比で約30%減、ロシアは約3%減と速報・推計が出ています。
これを以て(特にロシアの)戦争のダメージが思ったより小さいと考える方は多いようですが、話を聞いてみると(漠然と)GDP=国力と認識しているように思えます。
確かに、絶対値で言えば、戦争によりGDPはウクライナで前年比50%減、ロシアで10%減と予想されていました。
本来なら成長したであろうGDPを考慮しないにしても、予想より減少幅は小さく、ロシアの約3%減はコロナの影響による落ち込みより限定的と評価して概ね差し支えないでしょう。
しかし、それは「生産」の減少幅に過ぎない。
GDPには、当然ながら破壊されたインフラ自体の価値は考慮されません。
航空機や戦車が破壊され、万トン単位の弾薬を消費したとしても、それだけではGDPに影響がありません。
戦争で橋を壊し、小麦畑を蹂躙し、建物を設備もろとも焼き払っても、それらから生み出されるハズだった付加価値が前年との対比で減少するだけです。
ロシアはソ連時代から莫大な軍事費を費やし、膨大な装備や弾薬などの軍需物資を蓄積してきました。
その30年以上かけて積み上げてきた装備や弾薬などの備蓄をこの戦争で危険水域を割り込む所まで取り崩しています。
この「生産」ではないストックに相当する国力の損失は極めて深刻です。
ロシア軍では開戦前の水準まで軍備を回復させるには、現在の軍事費では20年以上かかるでしょう。もはや軍事大国の名は有名無実と言っていい。
そしてウクライナです。軍備もさることながら、インフラや住宅、民間施設などストック面の被害はGDP数年分が軽く吹き飛ぶレベルになっています。
戦争が終われば復興特需によりGDPは急速に拡大するでしょう。しかし、それは国力の回復と同期したものではない。
気の早い話をしますが、戦後、GDPが戦前の水準以上のレベルまで回復しても、ストックの損失は埋めきれず、国力が回復するまでは十年単位の時間を要します。
さて、ウクライナとロシア、そのGDPはざっと10倍の開きがありました。
腐っても軍事大国であるロシアとの差は歴然。
そのロシアにウクライナが対抗できる理由については、これまで色々と述べてきていますが、ロシア側の失策として最も重大と言えるのは、開戦当初プーチンが舐めプこいていた事にあるでしょう。
開戦当初のロシア軍兵力17万人は三正面の作戦としては、どう考えても足りていない。
兵站に至っては明らかに短期戦を想定した脆弱な代物。
これでウクライナ軍は抵抗する隙を見つけることができ、総動員令を発して国家として応戦する時間を稼ぐことができた。
この戦争の最序盤、プーチンがミスを認識し、ウクライナと同様に総動員令を発して総力戦に持ち込んでいたなら、少なくともゼレンスキー政権に勝つことはできていたでしょう。
アメリカは最初から負けを見越してゼレンスキー脱出の準備をしていたので、ロシアが序盤から本気を出していればアメリカの支援も到底間に合いません。
しかし、現実はご覧の有り様。
ウクライナの抵抗にロシアは兵員・装備・補給物資をダラダラと消耗し続け、部分的動員令という中途半端極まりない愚策で自ら傷口を広げ、手を付けてはならない装備や物資にまで手を付けた。
対するウクライナは総動員令により100万人単位の兵力が整いつつあります。
これは、養成に数年かかる航空機パイロットを除けば、この戦争で必要な兵科全てにおいてロシア軍の兵力を上回ります。
GDPで1/10のウクライナは総力を挙げて勝つ為の兵力を用意しています。
GDPで10倍を超えるアメリカが装備や弾薬を供給しています。
舐めプの一因とも言えるクリミア紛争圧勝は、この戦争での不可視の戦域におけるアドバンテージを失わせました。
軍事力世界第2位のロシアがGDP1/10のウクライナに負けることなど考えもせずに開戦し、負けることなど許されないので止められない。
これね、誰の目にも勝敗の帰趨は明らかだと思うんですよ。




