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ギャンブル

ギャンブル


菊池寛曰く「ギャンブルは、絶対使っちゃいけない金に手を付けてからが本当の勝負だ」


この言は、ギャンブラーに限らず、人というものの度し難い一面を端的に表していると思います。

なんでいきなり菊池寛を引き合いに出したかと言うと、今まさにプーチンが手を付けてはいけないところに手を付けているからです。


これは別に、戦争してはいけないといった道義的な話や核兵器を使うという話ではありません。

国防という国家の維持に関わる話です。


私は、既にロシアの補給物資は継戦可能なレッドラインを超えている。との見方を示していますが、幾つかの要素を見直しても結論は変わりません。

ロシアはウクライナとの戦争に使える物資・装備(以下「物資等」とします)を使い果たし、本来なら使ってはならない物資等に手を付けている。


使ってはならない物資等とは、ロシアが国防に必要な物資等を指します。

ロシアは日本の45倍を超える世界最大の国土を持ち、その途方も無く長い国境線で十数ヵ国と隣接しています。

当然ながら、多くの国境問題・領土問題を抱え、更には、旧ソ連構成国によるCISにおいては盟主として安全保障の問題を担わなければならない。

軍事力無しに、この巨大なロシア、そして旧ソ連構成国を安定させる事は不可能なのです。


ロシアの軍事費は、GDP比で見れば、概ね3〜5%の間で推移していました。

これは比較的高い水準ではありますが、国土や諸問題を考慮するなら絶対的な金額が全く足りていない。

事実として、旧ソ連はGDP比30〜40%を軍事費に充てていたと推計されています。

冷戦というイカれた時代的背景が有っての暴挙とも言えますが、ロシア(ソ連)という巨大な国家を維持するには、それだけ膨大な軍事費に裏打ちされた軍事力が必要という事です。


ソ連崩壊後の経済危機をロシアが乗り越えた原動力は、石油・ガスの輸出で得た外貨です。

加えて、身の丈に合った軍事費に抑える事で余剰となった物資等を輸出に回せるようになり、支出抑制と外貨獲得の一挙両得が図られたのも大きい。

言い換えるなら、ロシアが曲がりなりにも発展してこれたのは「善きエネルギー資源供給者」というソ連時代からの信頼の積み重ねと安全保障を国際社会と共有しているからです。


プーチンは、ウクライナとの戦争を「NATOによるロシア侵略との戦い」と自己正当化していますが、ちゃんちゃら可笑しい。

NATOやアメリカにそんな阿呆な考えが有るなら、ソ連崩壊時にロシアを更に4分割はした上で核兵器の武装解除をしていたでしょう。

当時の旧ソ連にそれを防げるだけの力も意思もありませんでした。

あり得ない話ですが、これが逆にアメリカやNATOの崩壊であったなら、ソ連はウハウハ言いながら占領していたでしょう。


つまり、ロシアは他国が攻めて来ない事を前提として軍事費を抑え、他国が攻めて来ない事を前提としてウクライナとの戦争に使用可能なほぼ全ての戦力を注いでいます。

これは、笑ってしまう話ですがプーチンが国際社会を信用しているからこそ出来ることです。


しかし、ロシアの元々から脆弱な国境警備隊や他国駐留部隊から人員や物資等を引き上げることで低下したプレゼンスは、巨大国家の維持を困難にし、旧ソ連構成国を不安定化させます。

これは、近い将来の話ではなく、既に顕在化しています。


プーチンは、この戦争で旧ソ連から築き上げてきた物資等の軍事的資産、そして「善きエネルギー資源供給者」という信頼をあっという間に使い果たしました。

更には、国家維持に必要な物資等に加え、おそらく輸出向け物資等もバイバックしているでしょう。これら手を付けてはいけないとこに手を付け、どの様なギャンブルを打とうとしているのか?


前置きが長くなりましたが、負け戦になった時、プーチンが打つ最後のギャンブルの舞台はキーウ。種目はベラルーシを起点としたゼレンスキー政権幹部斬首作戦。と見込んでおり、現状に概ね合致しています。


正直に言えば、ロシアは、(プーチンは、ではありません)もう少し前に撤退という選択肢を選ぶのではないかと淡い期待を持っていましたが、残念ながら誰もプーチンに鈴を付ける事ができず、結局、プーチンがやれるところまでやる。という虚しい結末を見ることになりそうです。


斬首作戦におけるプーチンのカードはベラルーシにて伏せられていますが、アメリカのインテリジェンスはほぼほぼ見透かしてウクライナと共有しているでしょう。


その戦力を報道等では、訓練を終えた動員兵20万人としています。加えて、ベラルーシの参戦も噂されています。

このカードをどう評価すべきか?

20万という兵力は一見強力に思えますが、中身が伴っていません。手札としてはブタといったところでしょう。

ベラルーシの参戦も可能性は低く、仮に参戦してもブタはブタのままです。


もう少しブレイクダウンしましょう。

ロシアの動員兵は予備役を再訓練したものです。更に言えば、予備役は徴兵された経験があるだけの素人に毛が生えた程度の人員が大半です。

即ち、この20万のほとんどは軍事的経験の浅い兵卒に過ぎず、下士官が完全に不足しています。


この様に下士官が足りない時、旧ソ連やロシアではどうするか。

兵卒の中から将校とのコネや気分などで適当に下士官を選出するのです。経験や能力、適性などは全く考慮しません。そもそも将校自体がコネでなるものなのです。


アレキサンダー大王の「羊に率いられた獅子の群れを恐れず、獅子に率いられた羊の群れを恐れる」は、けだし名言でしょう。

そして、羊を率いて獅子に勝利するのは、こと、陸戦においては将校の役目ではありません。優れた下士官の仕事です。

実質的に下士官の存在しない部隊は、羊に率いられた羊の群れに過ぎません。

待ち構える近代化されたウクライナ軍の前に20万の羊の群れを追い立てればどうなるかは想像に難くない。


ベラルーシは、物資等を供与する事で参戦の代わりとするでしょう。これはロシア軍にとっても充分以上のメリットになります。

仮に参戦するとしても、地理に明るい点からパスファインダー的に協力する程度かと思います。これも充分なメリットです。

しかし、これ以上の協力は出来ないし、しないでしょう。


そもそも、この時期に数で押す意味は無い。20万の兵力は意味合いとしては囮に過ぎない。ブタの手札をブラフとして使う。それだけのために、羊の群れはウクライナ軍の榴弾に曝されるのです。


プーチンの本命、斬首作戦のエースインザホールは特殊部隊です。規模的にはそれなりに大きな部隊構成だったのですが、御多分に漏れずこの戦争の初期段階から大打撃を受け、現時点でどれだけの作戦遂行能力を有しているかは判然としません。


いずれにせよ、この程度のことアメリカもウクライナも把握しています。

ブラフも切札も万全に対処するでしょう。


このギャンブルにプーチンが勝つ要素は見当たりません。

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