プーチンと秀吉
プーチンと秀吉
現在、プーチンの振る舞いに異常を感じて様々な憶測が飛び交っています。
直接会談したマクロン仏大統領などは「頑固で別人のようだった」とも言っています。
パーキンソン病説、アスペルガー説、パラノイア説、ステロイドなど薬物の副作用説、認知症説、神経症説、サイコパスで元からこうだった説などなど。
身体的・精神的な病気以外にも、入れ替わった偽者説なんてのもあります。
6000発超の核兵器を握る独裁者であり、戦争の行方を左右する当事者だけに、認知症とかだと異常というより非常事態です。
しかも、伝え聞くように、プーチンが側近すらも寄せ付けない状況にあるなら、ロシア政権幹部もプーチンの健康状態は分からないでしょう。
国家元首の不調が機密扱いとなるのは理解できますが、誰も知り得ないのはうすら寒い話です。
ちなみに、スターリンは脳卒中で死亡したとされていますが、私生活に人を近づけなかったため、倒れて1日近く誰も気が付きませんでした。
さて、プーチンがパーキンソン病などの病気か単に加齢による前頭葉萎縮で怒りっぽくなっているのか、確定診断が出るはずもないので分かりません。
しかし、サイコパス或いはソシオパスであるのは既知の事実なのではないでしょうか。
サイコパスは器質性のものなので、差別を助長しかねない指摘はしづらい(西側の政界にも居るしね)と思いますが、少なくともプーチンがサイコパス或いはソシオパスの何れかであることを前提に西側は対応しているはずです。
私個人的には、器質的に恐怖心が抑えられているサイコパスとしては、プーチンは自身の身体的リスクに対する恐怖心が人並み以上に見えるため、後天的なソシオパスではないかと考えています。
現実問題として、ソシオパスに加え、パーキンソン病及びその進行に伴う認知症が併発している可能性も割と高いでしょう。
しかし、それはそれとして、プーチンの振る舞いは何らかの病気に要因が有る。という話で良いのだろうか?
何らかの病気がプーチンからブレーキを取っ払い、暴走させたとしても、衝動の元となるものは別にあるはずです。
話が戻りますが、なぜこの戦争を始めたのか。
例え、経済制裁が無かったとしても、ロシアがウクライナとの戦争で得られる経済的利益はありません。
第2部で貧乏なロシア人と(失礼なことを)言いましたが、ウクライナは輪をかけて貧乏です。
占領や併合などもってのほか。
東ドイツを統合したドイツ以上の経済的惨事となるのは確実で、ロシアの経済規模を考えれば戦争抜きでも国家破綻となる可能性が高い。
ウクライナを足掛かりにポーランドやバルト三国侵攻を夢見ている?
夢は見ているでしょう。
プーチンが「偉大な」ロシア帝国、ソビエト連邦の再興とその玉座に座る自身を夢想しているのは想像に難くない。
同時に、ロシア軍が張子の虎であることもある程度は理解しているはずです。
ポーランドやバルト三国との戦争とはNATOとの対決である以上、ロシア軍で対抗するのは夢のまた夢にすぎません。
多大な犠牲を払ってウクライナを解体したその先に、プーチンは何を見ているのか。
堂々巡りで、現状、戦争そのものが目的。としか言えない状態です。
ここまでの中で一番非合理的な理由じゃねえか!と怒られそうですが、ロシア側から戦争を仕掛けた合理的理由を提示するのは、現状、非常に困難です。だからこそ、今、世界中でプーチンの異常が取り沙汰されてるわけでして(言い訳)。
戦争そのものが目的、では病気どころか狂人と言ってるようなものなので、もう少しブレイクダウンします。
プーチンのウクライナ侵攻を豊臣秀吉の朝鮮出兵と重ねる意見があります。
個人的に割と正鵠を得た考えだと思っています。
秀吉が一代で位人臣を極めたようにプーチンも事実上皇帝の座へと昇り詰めました。
もう一つ共通する事項が、後継者の不在。です。
秀吉には殺しちゃったけど秀次がいたし、秀頼も生まれたじゃん。プーチンにも子供何人もいるだろ。との意見もあるでしょう。
確かに。
しかし、秀次は長子(異説あり)鶴松死去により継嗣となった甥であり、むしろ秀吉自身が大陸に出陣するための身代わり的な意味合いでした。
そして秀頼です。鶴松と同じく、あまり子宝に恵まれなかった秀吉が老年に差し掛かり得た男子。
その溺愛は想像に難くなく、朝鮮出兵すら、秀頼のため明を征服する野望に取り憑かれたものであったとしてもむべなるかな。とは思います。
しかし、秀吉は秀頼(当時は拾丸)が自身の跡を継ぎ、天下人となれると考えていたでしょうか。
一代の英傑、言い換えれば代々の家臣はいないという事。
ただでさえ男子の少ない豊臣氏で、秀吉は秀次の係累に至るまで皆殺しとしました。
当時の平均寿命を考えれば、秀吉は拾丸の元服まで生きていないことも想定していたでしょう。
秀吉は、自分亡き後の秀頼を五大老が起請文どおり盛り立ててくれるなどと思っていたでしょうか。
ありえません。
信長亡き後、並み居る織田家家臣団をなぎ倒し、主家たる織田家をねじ伏せて、天下人の地位を襲ったのは他ならぬ秀吉自身。
草履とりの逸話が示すとおり、小物であった秀吉を大名にまで引き立てた織田家さえ踏み台にした生きた実例なのです。
豊臣恩顧はおろかライバルでしかない五大老が秀頼を天下人に据えるなど信じる方がおかしい。
秀頼(や鶴松)が10年早く生まれていれば、秀吉の行動は異なっていたと思います。
明(朝鮮出兵)ではなく、家康を倒そうとしていたでしょう。
一方、プーチンは離婚した妻の間に娘が二人います。
こちらも溺愛が伝えられますが、政治にはほとんど関与させていません。
公的な子女は娘二人で、愛人との間にも複数の子供がいるとされていますが、何れも若年のはずです。
プーチンもKGBという虚実入り混じった世界からのし上がり、事実上のロシア皇帝となった経験から、子供が自らの政治的跡を継げる存在でないと理解しているのでしょう。
特に、ロシアという国は、いってみればマッチョ至上主義と言いますか、女性をトップに置くことへの抵抗感が強く、プーチン自身もその傾向が顕著なため、娘への愛情は政治的地位を継がせるより経済的恩恵を惜しみなく注ぐ方向に向かっているのだと思います。
プーチンにしても、妻との間に生まれたのが男子であったり、隠し子に男子が居て充分な年齢に達していれば、ウクライナとの戦争より皇位継承に注力していたでしょう。
秀吉が一代にして天下人となるも自分限りで終わらざるを得なかったように、プーチン朝ロシア帝国も一代限りの王朝です。
どれほど栄耀栄華を極めようと子供は跡を継ぐ事もなく、自らの死後は別の誰かがその地位を奪うのです。
老年に差し掛かり、その動かし難い事実が突きつけられたとき、天下人・皇帝は何を思うでしょうか。
自らが命懸けで掴み取った国を、大過無く平和裡に治世を全うしようとするものでしょうか。
それが出来るものが王者と呼ばれ、それに留まることが出来ないものが覇者となるのではないでしょうか。最後に待っているのが破滅だったとしてもです。
秀吉とプーチンは老年に至り、継がせる者のいない国家権力を思う様振るって、
やりたかった事をやれるところまでやってやる!
と、心に決めただけなのでは?
これが現時点で、私が出し得る結論です。
繰り返しますが一番非合理的な結論です。
最後に一花咲かせたいってのと同じじゃん。と言われればその通りです。
朝鮮出兵は晩年にも近い秀吉の狂気が引き起こした暴挙。と見る向きも多いですが、大陸への侵攻は信長も考えていたもので、信長が長らえていたなら実行されていた可能性は高かったでしょう。
秀吉のそれが、信長の夢を継ごうとしたのか信長超えを夢見たのかは分かりませんが、信長に仕えていた秀吉は明の巨大さを理解しており、征服が成るとまでは思っていなかったのではないでしょうか。
残された人生で、巨大な明朝を相手にやれるところまでやってみたい。
これを狂気と言うのも否定できませんし、名誉欲とする説もありますが、私には天下人が最後に見せる稚気のように思えるのです(周りは悲惨な目に遭いますが)。
プーチンも、一代で終焉を迎えるプーチン朝を見返した時、大国と言えるのは国土だけ、資源大国と言えば聞こえは良いが、西側のために石油とガスを安く掘らされているに等しい。
軍事大国と嘯いてみても、お寒い実情なのは自身が一番身に染みて理解しています。
何より赦し難いのがアメリカがロシアを敵だと思っていないこと。
今、アメリカと覇権を争っているのは中国であり、ソビエト時代、図体が大きいだけの野蛮なアジアへの落とし子(だと思っていた)中国より下の扱いをされているのです。
もっと言うなら西側全体としてロシアを敵だと思っていません。ロシアの扱いで一番近いのは北朝鮮です。資源はもってるがトップはならず者、近隣諸国を脅して大物面しているロシアンマフィア。といったところでしょう。
この扱いはプーチン自身の普段からの言動に理由がありますが、現実的な話としてロシア経済のうち、GDPに占めるロシアンマフィアの経済規模は40%に及ぶとされ、マフィアの国と言っても過言ではない。
プーチンがロシア帝国皇帝であることは間違いありません。
しかし、世界からみたロシアは、偉大なロシア帝国ではなく、世界を二分した共産主義の盟主でもなく、ロシアンマフィアに支配される傍迷惑で落ちぶれた「元」大国にすぎないのです。
プーチンはこの評価を覆せません。わざわざ会見に遅れてマウントを取っても世界、少なくとも西側は冷めた目で見るだけです。
で、あるからこそ、プーチンは戦争を「仕掛けた」のではないでしょうか。
軍事力をもって畏怖されるロシア。舐められることも無視されることも無く、資源採掘のために西側に生かされているチンピラなどではない。
そう世界に知らしめるための戦争。
ウクライナと戦争をするにしてもロシアの利益だけを考えるなら、中国の台湾侵攻のドサクサに紛れるなど他にやりようがあったハズです。
最も有効なのはウクライナ側から東部やクリミアへ侵攻させた上で、売られた喧嘩を買う戦争にすれば良いのです。
実際、ジョージアではこれで成功しており、今回のように世界中の反発をくらうこともなく、或いは今回も目標を達成できていたかもしれません。
そうしなかったのは、中国の影に隠れた火事場泥棒ではなく、ロシアが戦争を起こしたのだと(公式に認めなくても、です)、やはり恐るべき軍事大国だと世界を驚かせ、西側に逆らえないチンピラとは違うのだと、そう主張しているのだと考えます。
結論が政治的な合理性ではなく、まさしくマフィアの論理に基づくものですが、プーチンと秀吉の共通点を意識したとき、この結論しか出ないのです。