表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
53/197

ヘルソン奪還

ヘルソン奪還


ウクライナは「ヘルソン」奪還に沸いています。

対するロシア国民の本音は戦争にウンザリしているかも知れませんが、声のデカいウォーモンガーは怒り心頭でプーチンの責任を問う声が高まっているようです。


ヘルソンからの撤退は、スロヴィキンが進言し、ショイグ国防省が承認した模様が報道されています。

軍事的に見れば、撤退は当然とも言えますが、撤退命令を報道することは明らかに有害です。

撤退は渡河と同様に極めてリスキーな軍事行動で、特に交戦中に「これから撤退しまーす」などと宣言する馬鹿は(普通は)いません。

なので、ゼレンスキーらが撤退宣言に懐疑的あったのは妥当な判断でしょう。


では、何の目的が有って三文芝居の撤退宣言したのか?


これには概ね二つの目的が有っての宣言と考えられます。

即ち、欺瞞と責任転嫁です。


軍事面では、9月末頃にはドニプロ川西岸は兵站が崩壊しており、戦線維持はほぼ不可能な状態だったと推測されます。

本来なら、この時点で撤退一択なのですが、ヘルソンはプーチンにとって4州併合の重要地域であり、部分的動員などで無理くり占領の体裁を装っていたのでしょう。


おそらくは、この時期の前後には撤退が開始されていたのではないかと考えています。

撤退と言っても一斉に、ではなく少しずつ、幹部やベテラン兵をヘルソン市民の避難に紛れ込ませて後送し、代わりに盾扱いの動員兵を送り込んで兵士の減少をある程度緩和しながらの撤退でしょう。


その根拠となるものは幾つかありますが、まず、ヘルソンを占領していたロシア軍は4万人とも言われており、予め周到に準備をしていても数日で撤退は物理的に困難です。

そもそもの話として、補給線が分断されているという事は、撤退する経路が限られているという事に他ならない。

宣言時点で少なくとも4割以上の人員が撤退していなければ無理でしょう。

宣言と同時期にヘルソン市民12万人以上がクリミア半島などに避難が完了したと報道されており、つまり、この中に紛れて撤退したのです。


で、あれば、宣言時点で残されていたロシア兵は最初から最後まで見捨てられた存在だという事です。

宣言後のヘルソン撤退戦についての詳報はありませんが、ろくに訓練も受けていない動員兵の多くがドニプロ川に浮かんだであろうことは想像に難くない。

ウクライナ軍は、隘路に追い詰める追撃戦において今やトップクラスの経験値を持っていると言っていいのだから。


スロヴィキンは総司令就任の時点でヘルソン撤退を匂わせる発言をしていました。

それ以前の段階でも、兵站崩壊や兵士の脱走などにより戦線が維持できないことは百も承知のハズ。

それから1ヶ月も間を空けてからカメラの前で国防相に進言するなど三文芝居もいいところです。

宣言から僅か2日で補給も困難な経路の分断された中を無傷で3万人撤退させた?

それ、ロシア軍がウクライナ軍を全滅させたって方が、まだ説得力のある話だよね。


つまるところ、欺瞞は欺瞞でもウクライナ軍を罠にかけようというのではなく、ロシア国民を騙すためのものです。

華々しく4州併合をぶち上げている裏で、民間人に紛れてコソコソ逃げ出してました、などと言える訳もない。

併合地域の親ロシア派も戦場の現実を知らないウォーモンガーも入れ替わりに送られてきた動員兵やその家族も「裏切られた」と軍を糾弾するでしょう。

軍事的には最適解に近くとも、政治的に死にます。


責任転嫁については言うまでもないでしょうが、撤退を承認したのはプーチン君じゃないですよーって事。

こんな三文芝居を見せられてロシア国民はどう思ってんだろね。いや、ほんと。


さて、ウクライナが奪還したのはドニプロ川西岸のヘルソン市であってヘルソン州ではありません。

実は、ヘルソン州は東岸面積の方が大きく、ヘルソン州は未だにロシア軍占領面積の方が大きいのです。


ズルズルと負けが込んでいるロシアですが、ヘルソン「市」の失陥はどのような意味を持つのでしょうか。


ヘルソン州の州都、というのも重要な意味合いでは有りますが、プーチンが夢想する「理想のロシア」に関係があります。


プーチンが古き良きロシアやソビエトに憧れを抱いているのは事実です。

ピョートル大帝や女帝エカチェリーナを再評価し、スターリンやアンドロポフを顕彰するなどの活動を長年に渡って続けています。


個人的な意見ですが、ピョートル1世はおっそろしく強権的で内外に畏れられる存在でしたが、その政策は独裁者の恣意的な独り善がりとはある種隔絶した「理」に基づいており、ロシアを蛮族国家レベルから近世国家レベルまで一気に引き上げた、世界的に見ても傑出した人物です(突然の個人的絶賛)。

対して、プーチン君は戦争一つ取っても現代的装備を持った山賊レベルまでロシア軍を貶めました(何時もの個人的酷評)。

アンドロポフのコピーレベルでしかないプーチンがピョートル大帝を規範にしているとかちゃんちゃら可笑しいわ。


すみません。話が微妙に逸れました。

ロシアはエカチェリーナ2世の時代、版図を広げ、現在のウクライナ南東部をノヴォロシア(新ロシア)と称しました。

オデーサやヘルソン、マリウポリといったウクライナの都市はこの時代に形作られたものです。


ノヴォロシアはウクライナから黒海を封鎖する形で存在し、アゾフ海を取り囲んでいます。

プーチンの夢想とは、即ち、ノヴォロシアをロシアの版図に加えることです。

当然ながら、ウクライナにとって領土的な問題だけではなく、黒海やアゾフ海から切り離される事は死活問題になります。

プーチンの当初の作戦目標がウクライナ解体であったのはこのためでもあります。


言ってみれば、マリウポリを制圧した際、アゾフ大隊を一時的に放置していたのも、本来の目的と全く関係が無かったからです。

何度も同じ話をしていますが、アゾフ大隊がネオナチだの俺に逆らう奴はナチスだのは、言ってる本人すら本気で騙す気もないラシアンファンタジーに過ぎない。


プーチンにとってヘルソンはノヴォロシアの古都であり、オデーサへの橋頭堡でもあります。

これを理解している一部のロシア国民には、ヘルソン失陥(ウクライナに言わせれば奪還)は、非常に大きな敗北と受け取られるのです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ