ナンバー2不要論
ナンバー2不要論
クリミア大橋の爆発で「こういう説があるらしい」と教えてもらったのが、
「ラムザン・カディロフの娘が被告となる裁判の判事がクリミア大橋の爆発で死亡している」→カディロフ犯人説
というもの。
本当かよと思い調べてみると確かに件の判事は亡くなられています。
カディロフ犯人説に対する反応
プーチン:カディロフか・・・
メドベージェフ:カディロフか・・・
ゼレンスキー:カディロフか・・・
カディロフ:カディロフか・・・
冗談はさておき、カディロフが爆発の首謀者であるというのは、色々説明がついてしまいます。
カディロフには独断で実行するインセンティブが有るからです。
ロシアの敗色は濃厚で、プーチンすら何とか上手く停戦に持ち込みたがっているのは明白。
しかし、カディロフらマッチョ至上主義のウォーモンガーには我慢ならない事態で、ロシアは世界第二位の軍事大国にして中国どころかアメリカにも怖れられる存在でなければならない!
ウクライナなど粉々に粉砕して思う存分蹂躙してこそのロシア!ウラー!!
必要なら100万でも1000万でも徴兵してウクライナ毎すり潰せば良い、核兵器を持っているのは何のためだ?今こそ使ってキーウでも何でも灰にしてしまえ!
って連中なのです。
そういった思考であれば、補給などに致命的被害を与えない規模で爆発させ、ロシアの面子を潰して報復を煽り、南部方面のロシア兵に退路など無いと思い知らせ、或いは、いけ好かない青びょうたんのメドベージェフを破滅の日(笑)とからかっているかもしれません(妄想)。
爆発した車両がロシア側から来た理由もつきます。
さすがにプーチンに黙ってクリミア大橋ボカーンはねえだろう、とウォーモンガー独断説の可能性を低く見積もっていたのですが、カディロフはロシアのインナーサークルでもプーチンとの距離感は政権幹部やオリガルヒらとは違い、ベラルーシのルカシェンコに近い。
事が露見したときのリスクはクリティカルですが、カディロフか・・・
問題は実現可能性です。どれほどインセンティブが有っても遂行能力が無ければ陰謀論以前の空論。
カディロフ犯人説に依れば、判事は車両爆発に巻き込まれたのではなく判事の乗用車が爆発という事になっています。
うん?うん、、、幾つかの映像を見直しましたが、トラックと並走する乗用車どちらが爆発したのかは分かりません(車両の爆発でない可能性も充分あります)。
しかし、この爆発の規模は軍事活動としては中途半端ですが、車両が爆発したとするとかなり多量の爆発物が使用されています。乗用車ではトランクどころか座席に爆発物を積んでも難しいでしょう。その状況は、もう暗殺ではなく自殺です。当然、検問も通過できない。
トラックが判事の乗用車を巻き込んで爆発したとするのも、トラックの運転者に暗殺、即ち、自爆する意思が無ければ確実性に欠けます。
最もありそうなのは、判事はクリミア大橋の爆発ではなく、別の場所で暗殺され、爆発で亡くなられたように処理された、かなぁ。
正直、カディロフ犯人説は判事の件を考慮してもしっくりきません。
単一の意図の下に起きた事象というより幾つかの要因が重なった結果の様にも思えます。
妄想の域を超えないのでこの辺にしておきましょう。
ボカーンにカディロフが関与しているかは分かりませんが、可能性を否定できないのはカディロフがある意味で外様だからです。
プーチンが手詰まりになった時、側近らが解決策を提示するのは困難でしょう。プーチンに戦争の責任取って辞めてくれ、などと言おうものなら殺されます。
また、仮に偽旗作戦として効果的であったとしても、クリミア大橋で爆発起こそうとプーチンに進言すれば不興を買うのが分かりきっているので、誰も口にできません。
自浄作用の無い組織の典型例と言って良い。
かのオーベルシュタイン先生はナンバー2不要論を提唱しました。
要約すると、組織にナンバー2が存在すると必ず組織を駄目にする。というものです。
それ自体どうこう言う筋のものではありません。
しかし、偶に居るのです。真に受ける方が、、、というか正統な読者は普通に受け入れているのかもしれません。
ナンバー2不要論は組織論としても専制君主論としても明らかに間違っています。
オーベルシュタイン先生の言が尤もらしく聞こえるのは、ラインハルト君が不死身で超人というフィクション故の前提に基づくものだからです。現実は違います。
ナンバー2不要論が間違っている事は作中でも示されています。
ラインハルト君は銀河帝国皇帝が死に際し後継者、即ちナンバー2を定めなかった事を利用して皇帝になりました。ゴールデンバウム朝は後継者争いの混乱の中で滅びたのです。
戦国の三英傑、信長は本能寺の時点で既に家督を信忠に譲っており、織田家当主は信忠でしたが、信忠も同時期に自刃したため、家督争いとなり、三法師を立てた秀吉が台頭します。これにより事実上、織田家は表舞台から去る事となります。
この辺り、幼帝を擁して台頭したラインハルト君と三法師を立てて台頭した秀吉の構図は同じです。
その秀吉も後継者であった秀次を殺害したが故に自らの死後を五大老に託さざるを得なくなり、結局、家康が天下を奪ります。
その他大勢のナンバー3ズを抑えるべきナンバー2(秀次)を殺した事で、何の力もない新たなナンバー2(秀頼)がナンバー3筆頭(家康)に滅ぼされたのです。
家康が優れていたのは戦上手というところではありません。将軍職の継承順位を明確にし、後継者争いという組織を揺るがす要素を極力排した事により、徳川四百年の礎を造ったのです。
君主や経営者といった組織のトップが成すべき重要案件が後継者の選定と育成です。
ここまで講釈垂れておきながら申し訳ないのですが、私は銀英伝を通しで読んでいないため、オーベルシュタイン先生がナンバー2不要論をラインハルト君に提言した意図はわかりません。
単に物語上ジーク君を失ったラインハルト君を描くための(強引な)演出の様にも思えますが、大事を成すには後継者を用意してる暇は無いとか先の事より目の前の事に集中しろとか独裁者の方が何かとやり易いって意図なのかも知れません。
いずれにしても組織として問題しかありません。ラインハルト君を狙った凶弾に斃れたのはジーク君でしたが、逆であれば組織は目的と指導者を失うのです。オーベルシュタイン先生のゴールデンバウム朝を倒す野望も完遂できていなかったかも知れません。
万歩譲って、奥に引っ込んでいる政治家ならまだしも、戦場に出る軍人に次席を置くなと進言するなどフィクションだからこそ許される話です。
銀英伝はドイツ帝国風の耽美な世界観(同盟側はちょっと違いますが)の中に三国志演義的な物語を描いたものです。
フィクションに対し「これはフィクション」と説明するなど野暮の極み、罰ゲームでもやってる気分になりますが、ロシアとウクライナの戦争が、この後継者を定めているか否かで大きく変わる局面になってきています。
ナンバー2不要論はレーニンやスターリンに始まるソ連型組織が採ってきた手法です。
もっとも、ソ連は、なにも最初から独裁体制を指向していた訳ではありません。
寡頭ではあっても権力を分散させる仕組みが採られていたのですが、スターリンが書記長職に権力を集中させ、全て有名無実化しました。
やりたい放題のスターリンを見て、さすがにマズいと考えたソ連上層部はスターリン死後、色々手を打ち、一定の効果も上がりましたが、独裁者を生み出す土壌は無くなりませんでした。
明確な後継者を定めないことで、部下には常に自分の方を向かせ、多くのナンバー3ズが自分を喜ばせるために働く。
この喜びを知ってしまえば、自分に取って代わるナンバー2など要りません。
死ぬまで権力を握っていたいし、握っていられるのです。実際、ソ連トップは死ぬまで権力の座に座り続けたパターンが多い(ウォッカばっか呑んでる所為で早死にも多いですが)。
現ロシア連邦においてプーチン大統領の次席は、制度上、首相が相当します。
プーチンが不在となれば首相が大統領代行としてトップに立つ、、、事はないでしょう。現在のロシア首相の名前を日本人がどれだけ知っているでしょうか?(メドベージェフではありません)下手をすればロシア人でも知らない人が多いかも知れません(凄い失礼)。
つまるところロシア首相はナンバー2ではなく、トップを脅かす虞のない、プーチンにとって無害な人物がお飾りに置かれているだけです。
ウクライナでは、仮にゼレンスキーら政権幹部のトップ3くらいまでが暗殺されたとしても、指導力の低下や細かい方針の変更、一定程度の混乱は有るでしょうが、ウクライナからロシアを叩き出すという方針の元、戦争を続ける事は間違いありません。
トップであるゼレンスキーの意思がナンバー2、3、そして次席へと組織として継承されるからです。
対して、ロシアでは、プーチンが何らかの理由により退場した場合、継戦する確率は2割以下でしょう。
プーチン退場時点で継戦不能になっている可能性が高いというのも有りますが、そもそもこの戦争がロシアの為のものではなく、プーチン個人の野望によって起きたものだからです。
プーチンの退場が再起を前提とした何ちゃって亡命(シリアもきな臭いし確率は低い)で無い限り、ウォーモンガー達が政権を握る可能性は低い。
何故なら、以前にロシアの継戦能力を予測した想定内容より経済状態が格段に悪化しているからです。
外部から見ても凡そ見当が付く状況は、インナーサークルには、より深刻な、戦争どころではない事態が明らかであるハズ。
ロシアは私達の想像よりも揺れ動いているでしょう。
問題はナンバー3ばっかで誰もプーチンに鈴を付けられない事にあります。




