戦術的勝利で戦略的敗北は覆せない
戦術的勝利で戦略的敗北は覆せない
戦略と戦術では何が違うのか。
漠然と、戦略が大きな戦場で戦術が小さな戦場くらいのイメージ?
、、、うん、まぁ、言いたい事は分からんでもない。
言葉は使われるシーンによって意味合いが異なりますが、軍事的な意味合いとして簡潔に言うなら、戦略は「戦争」に勝つための作戦や方法、戦術は目の前の敵に勝つためのテクニックや方法、と思っておけば間違いではない。
戦闘行為は戦略目標を達成するために行われるのであるから、戦闘に勝ち続けていれば戦略的勝利に繋がる、、、という単純なものではない。
端的な事例がアフガンです。
アフガニスタンは19世紀以降、イギリス、ソ連、アメリカ、名だたる覇権国家と戦ってきました。
個々の戦闘にはアメリカなどが勝利を収める局面もありましたが、最終的にはいずれも撤退に追い込まれます。
9.11同時多発テロに端を発するアメリカ主導の連合軍とアフガニスタンのタリバン政権との戦争は、開戦から1ヶ月ほどでアメリカ側の勝利、、、とは言えないでしょう。
タリバンは政権を失いましたが、ゲリラ化し抵抗を続けました。10年後、9.11の首謀者とされるウサマ・ビン・ラディン殺害に成功しましたが、戦争は終わりません。
そして2021年、20年近い抵抗の果てにタリバンはアフガニスタン首都カブールを奪還・掌握しました。
アフガニスタンから撤退するアメリカの無様さがプーチンのウクライナ侵攻決断を後押ししたことは想像に難くない。
アメリカの敗因は明白です。
民心を得られなかった。
アフガン人(民族的にはアフガン人という民族は居らず、パシュトゥン人らの多民族で構成されていますが、歴史的に「アフガン人の国」を名乗っているので、ここではアフガン人とします)は根っからのゲリラ体質で、山岳戦などではアメリカ特殊部隊すら逃げ帰るほどやたら強いってのもありますが、アメリカ側が組織した暫定政権軍もタリバン側の3倍の数にも関わらず丸っ切り機能しませんでした。
当然と言えば当然の話で、アフガン人同士で戦わさせられて士気の上がりようも無く、タリバンは女性を抑圧するテロリストなどと言われても女性に対する扱いはイスラム世界ではごく普通に行われているレベル。
おまけに暫定政権の後ろに居るのは自分達を空爆し、望んでもない親米政権を押し付けた連中なわけです。
暫定政権は上から下までやる気無し、幹部はアメリカ側から渡される軍人への給与の上前をはねるし、民衆はタリバン寄りが大半で敵視されまくり、それどころか軍内部にもタリバンシンパが居て分裂気味。
そりゃ負けるよね。
完全に戦略的な失敗。
これは様々な施策の根底に「アメリカに従った方がお前らも幸せだろ?」という優越感から来る独善性が有るからです。
アメリカは戦闘には強いのに、こういう根本的な戦略ミスを度々やらかして酷い目に遭う(そして周りの国も大惨事)。
翻って今回のロシアです。
ロシアの戦争目標はウクライナ解体、その実現手段としての戦略が「反露政権打倒」であり「複数の親露派独立国家樹立」です。
前者は達成の見込みが無く、後者は形だけ整えて見せましたが実態は風前の灯。
なぜ、ここまでロシアの戦略がボロボロなのか。
それは、戦術的な敗北以前の問題として、上記戦略の前提となる基本戦略、即ち「恐怖との同化」が効果を発揮していない事も大きな理由だと考えられます。
ロシアは明らかに意図して民間の病院や学校、非軍事的インフラや民間人そのものを攻撃しています。
ロシアは民間人への被害はフェイク、事故、ウクライナ側の誤爆などと否定していますが、誰も信じていないし、逆に信じられても意味が無い。
戦争が始まる前から、ロシアはウクライナに民間活動も含めた嫌がらせを継続して行っていました。サイバーの稿で触れた2017年のマルウェア攻撃なども、その一環です。
言うまでもなく、戦時中であれ意図的な非戦闘員への加害行為は犯罪。
なぜその様な真似をするのかは、プーチンの普段のやり口を見れば明らかです。
プーチンに逆らう者は投獄されるならマシな方、家族に至るまで非業の死を遂げるなど日常茶飯事。そしてその不審死にはロシア政府の足跡が明確に残されている。これがプーチンからの「逆らう馬鹿は、、、言わなくとも分かるよな?」というメッセージ。
何度も言うようにプーチンは政治家ではなくマフィアのボスと考えるべきです。
そのやり口はアンドロポフ譲り。恐怖の実態を明確にしないことで更なる不安感を煽り、支配というより同化を促す手法はカルト宗教のソレですが、ロシアにおいては充分機能していたのです。
そしてウクライナにおいても上手くいくと考えていたでしょう。
FSBの「ロシアが侵攻すればウクライナ国民から花束で歓迎される」という報告も、何の下地も無ければ受け入れる方の知能を疑います。
しかし、プーチンにしてみれば、ロシアを支配している「恐怖との同化」の再現であり、ウクライナ国民は、ゼレンスキーなどというコメディアン上がりの若造より、強大なロシア帝国皇帝である自分を選び、喜んで迎え入れる。
そういう「答え合わせ」に過ぎず、太鼓持ちであるFSBは、それ以外に報告する術が無かったのです。
現実は真逆の反応でした。
ウクライナは初期のソ連時代から虐げられ続け、クレムリンに対し怒りと憎悪を溜め込んでいた事は想像に難くない。同化の果てに安寧など存在しないと歴史が示している。
住宅街にミサイルが飛んで来ようとも、マルウェアで全土がシステムダウンしようとも、怒りと憎悪を滾らせこそすれ、ロシアを受け入れ同化するなどあり得ない。
FSBは侵攻前の調査でその現実を認識していました。しかし、答え合わせを求める独裁者に「んなわけねーだろ現実見ろよボス」とは言い出せず、お花畑な未来図を見せてしまった。
その結果がご覧の有り様だよ。
ウクライナ国民は、戦争に負けるという事がどういうことか日本人などより理解しています。
例えロシアが戦術核兵器を使ってウクライナ軍を何千人か蒸発させたとしても降伏などしないでしょう。
プーチンは戦略の基礎となる部分から失敗している。
戦術的勝利で戦略的敗北は覆せない。