その機甲部隊どっから出て来た?!
その機甲部隊どっから出て来た?!
前稿まで述べてきたように、ロシア軍は不可視の戦域において劣勢に立たされており、情報収集がままならない状態になっています。
例えば、マクサー社の人工衛星であれば画像の最大解像度は30cm、これは車両の判別が可能なレベルです。低軌道の人工衛星は約90分で地球を一周し、マクサー社はこれを4基構成で運用していることから、リアルタイムとはいかないものの部隊集結などの初動を察知するには充分です。
流石に米軍の偵察衛星レベルには及びませんが、マクサー社レベルの監視能力があればハルキウ州での反攻作戦は事前に予兆を察知できたハズです。
ロシアは広大な国土と周辺地域にも監視の目を置かないわけにもいかず、ウクライナ方面に監視リソースの全振りは出来ません。しかし、戦時において前線突破を目論む機甲部隊を看過している事実は、ロシア軍の偵察衛星を含む情報・監視網が質的にもリソース量的にも不十分であることを示しています。
本来なら、偵察衛星がカバーできなければドローンや偵察部隊を派遣して監視しなければならない。派遣したドローンや偵察部隊が撃退されたのであれば、撃退されたという事実を以って監視警戒レベルを上げなければならない。
そういった基本的監視警戒行動が取れていない。即ち、兵站活動の崩壊により最低限の人的・物的リソースすら不足している状態にあるという事。
ウクライナの反攻は、そのロシア側の兵站崩壊を的確に察知した上で実行していると思われます。
ハルキウ州での反攻には、事前の渡河行動、機甲部隊の結集といったリスキーな活動が必要である上に、ウクライナ側の戦力も充分と言える内容ではないからです。
反攻は電撃的と言えば聞こえは良いのですが、虎の子の機甲部隊を速度優先で運用し、イジュームを解放しています。1日にして前線を50kmも抜き去るのは抵抗らしい抵抗が無かったという事ですが、事前に配置等の詳細な情報が無ければとても実行できる作戦内容ではない。
ロシア側の内部情報に通じ、精密かつ大胆に実行できたが故の衝撃的な勝利としか評しようがありません。
ロシア軍前線部隊にしてみれば、下手をすると突破された情報すら碌に共有できておらず、イジュームに駐留する部隊に至っては、正に「その機甲部隊どっから出て来た?!」と驚くしかなかったでしょう。
今回の反攻はピンポイントなもので、東部の前線を押し返す形にはなっていません。
しかし、この前線から50km後方に機甲部隊が現れた事実は、クリミア半島サキ航空基地の爆発を上回る衝撃をロシア軍に与えたことでしょう。
後方の基地にロケット弾が飛んで来るのは、まだ理解可能な事態です。ロシア軍ですらウクライナ後方の都市にミサイルを嫌がらせのようにぶっ放しているのですから。
が、機甲部隊の後方出現は明らかな異常事態であり、ロシア軍の監視網が機能しておらず、前線は何の抵抗もできないという事実を否応無しに突きつけました。
ロシア兵の心胆は早くも厳冬期となっている事でしょう。
さて、この電撃反攻の衝撃は、その機甲部隊どっから出て来た?!という驚きだけに留まりません。
作戦目標がハルキウ州イジュームであった事も相まって、少なくとも前線のロシア兵には二重の衝撃をもたらしたようです。
それは、ゼレンスキーがヘルソン州(及びクリミア半島)奪還を掲げており、ロシア軍も対抗するために戦力をヘルソンに移動させているからです。
しかし、私個人的にはヘルソン以外の要衝をウクライナが奪還に動くことは意外でも何でもありませんし、もっと言えばロシア軍上層部でも可能性は充分有ると認識していなければおかしい。
これまで繰り返し述べてきたように非対称戦は勝てるところで勝つのが鉄則、そしてOODAループは敵側(ロシア軍)の状況判断を阻害することに真価があるのです。奪還宣言でヘルソンに戦力を集めておいて、戦力の空白地帯を放置する方があり得ない。
それでも、ロシア軍上層部はヘルソン・クリミアを奪還すると言われればヘルソンに戦力を集めないわけにはいかない。ハルキウや東部が奪還されても最悪開戦前に戻るだけですが、クリミアを奪い返されたら更迭どころでは済まない。
もっとも、ホラッチョのプーチンじゃあるまいし、ゼレンスキーの奪還宣言はハッタリではないでしょう。仮にヘルソンを奪還できず「作戦目標はイジュームでヘルソンの部隊は囮」などと言った日には白い目で見られるのは確実です。
とは言え、ウクライナ側広報にも当然虚報の類いはあるでしょう。OODAループを活用する上で広報は有力なツールだからです。
例えば、先日、ウクライナ軍はサキ航空基地を攻撃したのはミサイルによるものとして自軍の関与を認めました。
しかし、私は現時点においてもパルチザンによる爆破との考えを改めていません(べ、べつに負け惜しみとかじゃないんだからね!)。
グリーンベレーに関する投稿の際にも少し述べましたが、爆発の被害を受けた航空機は各個に撃破されており、極めて精度の高い目標補足能力が必要です。
射程数百kmのミサイルという条件で最も有力な候補がエイタクムス(ATACMS)になりますが、アメリカは供与を否定しています。しかし、これが欺瞞でありウクライナが使用したとしましょう。
エイタクムスはハイマースから発射しますが、ハイマースのロケット弾が12連装であるのに対し、エイタクムスはキャニスターに1発しか装填できません。サキ航空基地の爆発は十数回確認されており、キャニスター交換を行わなければ十数台のハイマースが必要になります。
爆発の間隔から見て複数回のキャニスター交換は考えづらいでしょう。航空機を撃破するためにわざわざ喉から手が出るほど望んだエイタクムスを使って、更に多数のハイマースを用意する?
う〜〜〜ん。まぁ、そうだとしてエイタクムスで二百km以上離れた施設と航空機を狙い、発射するとしましょう。
エイタクムスは弾道ミサイルに分類され、カテゴリー内の目標補足能力は間違いなくトップですが、その精度はハイマースのロケット弾に及びません。エイタクムスがサキ航空基地の爆発原因であるとしたら、その精度を3倍程高めないと実現困難だと思います。
けど、まぁ、ウクライナ軍がミサイルだと言ってるならミサイルなのでしょう。知らんけど。




