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宇宙

宇宙


不可視の戦域について、本稿では宇宙を舞台とした人工衛星に関する事項を述べていきます。


人工衛星とは地球の周りをグルグル回っている人工の天体です。一見、上空に静止しているように見える静止衛星(静止衛星の高度は通常の人工衛星よりズッと高いので肉眼で見るのは難しいですが)も実際には上空を周回しており、その速度が地球の自転速度と釣り合っていることから静止して見えるのです。国際宇宙ステーションもカテゴリーとしては人工衛星に分類されます。


現在では、人工衛星を軌道上に投入するコストも随分とリーズナブルになってきており、国家レベルの事業であった宇宙開発に民間企業が進出するようになって久しい。


軍事における人工衛星の主な役割としては、偵察・通信・測位が挙げられるが、米民間企業であるマクサーテクノロジー社の地上監視能力は大国の軍事偵察衛星にも引けを取らないレベルにある。

ウクライナ侵攻においてもマクサー社の撮影した衛星画像が様々な形で活用されており、余り表に出ることの少ない国有の軍用人工衛星に代わり存在感を示しています。


そしてマスク(スペースX社)のスターリンクです。人工衛星による全地球規模のインターネットサービスですが、ウクライナ侵攻にあたり一部寸断された通信網を瞬く間に代替して見せ、世界の注目を集めました。

通信網は軍民問わずライフラインと言っても過言でない存在です。先のクリミア侵攻時もロシア軍はウクライナの通信網を破壊することで組織的な抵抗をさせませんでした。


スターリンクの提供する衛星通信網は小型の送受信器さえあれば世界中どこからでもインターネットにアクセス可能(キャパシティの関係上、現在サービス提供可能な地域は限られていますが)です。そしてその冗長性は驚異的としか言いようがない。

現時点でも三千基近い数の人工衛星群ですが、数年内に万に及ぶ人工衛星を投入し、多層・多重のネットワークを構成する予定です。

これほどの規模の人工衛星コンステレーションは他に類を見ません。

民間のインターネットサービスでありながら、もはや軍事的に無視出来ない存在となっています。


マクサーの人工衛星やスターリンクの様に民生用から軍用に転用しても充分過ぎる威力を発揮する一方で、軍用でありながら、もはや民生用途に無くてはならない人工衛星があります。GPSです。


GPSはアメリカ軍が提供する軍民共用の測位システムで、24基のナブスター衛星(+7基の予備基)による人工衛星コンステレーションで地球上の位置を測定します。

GPSの有用性については今さら語るまでもないでしょう。天空が開けていれば、地球上いかなる場所、いかなる時間帯においても6基以上のナブスター衛星が上空に存在し、その位置を教えてくれるのです。軍用はもとより私たちの生活インフラに欠かせない存在となっています。


人工衛星は地球の周りをグルグル回ってますが、なぜそんな事ができるかというと、人工衛星の落下と地球の丸みが釣り合うように調整しているからです。

ボールを水平に投げると重力によって直ぐに地面に落ちます。これが火薬の力で打ち出した砲弾なら遠くまで届きますが、結局は地面に落ちます。物体の速度を上げると飛距離は伸び、ある速度に達すると地面(地球)の湾曲に沿う様に落下するようになります。

この時の速度を「第一宇宙速度」と言い、高度によって変化しますが、概ね8km毎秒になります。

この速度を維持している限り、物体は永遠に地球に落下し続けることとなり、人工衛星と呼ばれるのです。

逆に言えば、人工衛星は第一宇宙速度を維持する必要があります


地上から100kmの範囲を大気圏と呼び、その上は「宇宙」に分類されますが、これは定義上の話であり、地上数百kmに及ぶ「熱圏」や地上一万kmに達する「外気圏」においても極めて希薄な空気の分子が存在します。

さすがに外気圏では空気抵抗はほぼ有りませんが、特に監視衛星の主戦場である低軌道域では空気抵抗がバカにならないため、そのままでは高度を維持できず、推進剤が必要になります。

ここで速度を維持と言わず高度を維持、とした事には理由があります。特定の状況下では空気の抵抗を受けると物体の速度が上がるのです。はぁ?と思われた方は「人工衛星のパラドックス」を調べてみてください。(丸投げ)


横道に逸れましたが、何が言いたいかと言うと人工衛星は「打ち上げれば終わり」ではない、という事。様々なケアをしなければ容易く軌道を逸れますし、宇宙線などによりパーツの劣化もあります。

ロシアの軍事力を張子の虎とする評価(ウクライナ侵攻により事実である事が露呈しました)があり、宇宙開発においても同様の事が言えます。

ロシアの人工衛星は、その冗長性に難があるのではないか。と度々囁かれていました。

おりしも、ウクライナ軍機甲部隊がハルキウ州に電撃反攻し、要衝イジュームを奪還しています。

この反攻作戦が完全な奇襲となった理由は明白です。ロシア軍は作戦行動の予兆を事前に察知出来なかった。

即ち、偵察衛星を始めとした監視網が機能しておらず、機甲部隊という戦車を中心とした部隊の集結を把握できない。その事実がウクライナ側にも筒抜けであったことから、あれ程大胆な電撃作戦が実行できたのです。

偵察衛星は低高度を周回すれば、詳細な画像データが得られる反面、空気抵抗も大きく噴射剤の消費も多くなります。ロシア軍は多数の偵察衛星を保有していますが、戦時対応のための低高度撮影可能な人工衛星が無い可能性が高い。

その外にもロシア版GPSであるGLONASSにもコンステレーションを構成する人工衛星の数が不足しかけている、といった指摘があります。


これらは全て、ロシアの人工衛星は冗長性に難があることの裏付けとなっており、不可視の領域である宇宙においてもウクライナ(欧米)が勝利していると言えます。


それでは、これまで不可視の領域について述べてきた事を簡単に纏めてみましょう。


「諜報」

ロシアFSBの自滅。しかし、ウクライナは戦争を防げなかった以上、勝利とは言えない。


「サイバー」

互いに攻めきれていない状態。ウクライナは防衛側であることから判定勝ち。


「電子」

表面化してはいないがウクライナ優勢。ロシアが形成逆転する要素無し。


「宇宙」

ロシアのスタミナ(冗長性)切れ。そもそもロシア人工衛星群は戦時に期待される水準に達していない可能性すらある。


この評価は一面を切り取ったものではありますが、概ね全体を表しているように思います。


さて、ウクライナでは目に見える戦況が動き出しました。次稿以降、反攻作戦を追っていきます。

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