不可視の戦域
不可視の戦域
現代戦では、砲弾やミサイルが飛び交う戦場とは異なる通常は目にすることの無い、言わば不可視の領域での攻防が戦争を左右するようになってきました。
この不可視の戦域は、主に情報に関わるものであり、概ね「諜報」「サイバー」「電子」「宇宙(人工衛星)」の四つに分類できますが、それぞれが密接な繋がりを持っています。
「諜報」の概念は紀元前から存在しており、他の「サイバー」「電子」「宇宙」領域における技術が日進月歩で進化しているのとは裏腹に、やってることは基本的に昔から変わりません。
そして、その重要性も未だ低下してはいません。
一説には、プーチンはFSB(ロシア連邦保安庁)の「ロシアが侵攻すればウクライナ国民から花束で歓迎される」という報告を受けて侵攻を決断したとされています。
側近が報告する薔薇色の未来図にうっかり乗ってしまった面も否めないとは思っていましたが、流石にこれほどお花畑な未来図だったとは思いたく無いし、仮にこれが事実であるなら、もはやFSBは諜報機関ではなくプーチンの太鼓持ちにすぎない。
この様な事態を憂慮し、グラスノスチという破壊的荒療治に踏み切ったゴルバチョフも浮かばれないでしょう。
8月30日、ソビエト連邦最後の指導者ゴルバチョフ氏が亡くなられました。
1980年代後半、共産主義という世界最大のカルトの総本山が断末摩の叫びすらあげる事もできず無惨に崩れ落ちる混迷の最中、民主主義へと舵を切った苦悩は想像を絶するものがあります。
その後も、若き解明的指導者になると期待したプーチンが、蓋を開けて見ればアンドロポフのコピーに過ぎず、ロシアをソ連時代に逆行させ、ウクライナに侵攻する様を目の当たりにするなどままならぬ思いの強い晩年であったと思います。
謹んでご冥福をお祈りします。
話を戻します。
FSBによる報告のお花畑度が、実際のところどれほど酷かったのかは分かりませんが、その結果がウクライナ侵攻であり、ウクライナの惨状、自業自得とは言えロシアの窮状、世界経済の逼迫と不安定化に繋がったのです。
諜報の失敗(諜報機関を太鼓持ちにしてしまったプーチンの責任ですけどね)が亡国(下手をすれば世界大戦)への道となりかねない最悪の事例と言っていいでしょう。
しかし、まぁ、これに関してはアメリカすらウクライナの抵抗が予想外であった事に鑑みれば一概に責められないケースかも知れません。
そのアメリカは、ウクライナ侵攻をほぼ完璧に近い精度で予測しました。
こちらは、諜報やその他様々な情報を分析して得られたインテリジェンスに属するものと思われます。
戦争には予兆があり、部隊の集結、物資の集積、通信量の増加、他国との調整などなど、用意された物資の中身を見れば実戦(戦争)なのか訓練なのかが分かりますし、装備や兵種が確認できれば作戦の意図も推測できます。
アメリカはロシア内外の膨大な情報を集積・分析した結果としてウクライナ侵攻を予測したのですが、そのウクライナからほぼ無視された形になりました。これは明らかにゼレンスキーの失策で、侵攻に対する初期対応が後手に回っていました。
その他にもゼレンスキーの警護にあたり、ロシア内部の情報が反映されており、暗殺を防いでいるとの報道もあります。
これらの諜報がもたらした情報はいずれもクリティカルな意思決定に関わるものであり、情報の真偽・精度そして採否により戦争そのものが変わっていた可能性を有しています。
私たちが僅かなりとも垣間見る諜報戦は、その一端に過ぎません。




