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ロシアは兵站から崩れる

ロシアは兵站から崩れる


戦争において政治のなすべき事は、先ずは目標を定め、次に人員・装備・補給物資を用意する事です。

それ以外も色々大変ですが、本稿では置いておきましょう。

人員・装備・補給物資を戦場で展開させるために必要な諸活動が兵站です。軍だけで行うものではなく、国家として対応する必要があります。


ウクライナは、20万人規模の常備軍を有していましたが、今回の戦争にあたり総動員令を発し、百万人単位で兵士を動員可能な体制としています。

当然ながら、先ずは予備役から招集され、一般市民が戦場に出るには一定の訓練と装備が必要であり、いきなり兵員数が現在の数倍に増加することはありませんが、ゼレンスキーはそういった戦時体制を整えているのです。

なお、ウクライナの総動員令は時限式で、先日も三ヶ月延長されたことから今年の11月21日までの間、効力を発します。

この様に、現時点においてウクライナに不足しているリソースは兵士ではありません。装備と弾薬です。

開戦当初より、ロシアの優位性は装備の質とそれ以上に量によって担保されていました。特に、南東部の戦域は平野部のため、ファイヤパワーがものを言います。南東部におけるウクライナとロシアでは、投射能力にざっと10倍の差があるとされており、これは兵力差ではなく、榴弾砲の数と弾薬量の差です。


このファイヤパワー差により南東部はロシアが支配域を拡大してきたのですが、ここに来て状況が変化しました。

ハイマースによる補給物資の破壊、補給線のボトルネックである橋梁部等への攻撃、そしてクリミア半島攻撃に伴い南部全体のロシア側補給線にリスクが増大しているのです。


単純に補給物資破壊はロシア側のファイヤパワーを低下させることができます。回復させようにも補給線が各所で分断されて補給もままなりません。そこへ来てクリミアの爆発です。

クリミアで破壊活動が行われるという事は、ロシアは南部補給線の大動脈が攻撃されるリスクを考慮しなければならないという事です。


これまでのウクライナの戦闘は主に前線での衝突に留まっていましたが、今後は後方、即ち兵站への攻撃が強化されます。パルチザンへの対応も含め、ロシア側には対策が求められますが、容易な事ではありません。

安全地帯だと高を括っていた後方が戦場になるのです。クリミアだけに留まるなどという保障は誰もしてくれません。何てったってパルチザンですから、ウクライナ軍じゃありませんから(棒読み)。

後方で扼するパルチザンがどれだけ厄介かは、赤軍パルチザンを使ってナチスドイツと戦ったソ連、じゃなかったロシアに理解できないハズがありません。


ロシアは兵站から見直しが必要になります。大幅な兵士の増員、数万人単位の増加があってやっと現在の前線戦力を維持できるかどうかでしょう。

しかし、ロシアの人員・装備・補給物資の供給は現状では限界に近い。

それならばウクライナと同じ様にロシアも戦時体制に移行したら良いのでは?何故、プーチンは戦争宣言して総動員令をかけないのか?


2000年8月、プーチンが大統領に就任して3ヶ月のことです。バレンツ海でロシアの原子力潜水艦クルスクが沈没する事故が発生しました。

沈没直後には生存者がいましたが、救出は叶わず乗組員118名全員が死亡しています。

この時、生存者救出の助力を申し出た他国を拒否したことや、プーチンが当時休暇中で事故後も休暇を終えるまで保養地を離れなかったこと、乗組員遺族に対するプーチンの対応が冷笑的であったことから、プーチンはメディアなどから袋叩きに遭います。

この経験とグラスノスチの苦い記憶が引き金となり、プーチンはメディア支配に乗り出したのだと考えられます。

プーチンが最初に大統領に就任したときもメディアの後ろ盾がありました。当時のメディア王グシンスキーは、プーチンがメディア自由化に理解があると思い(込まされて?)プーチンを支持しましたが、現実は真逆。

メディアを支配したプーチンは、マッチョな支配者、栄光のロシアを演出し、汚いものは見せず、虚構で飾り立ててロシア国民を喜ばせ続けることによってプーチン朝を築き上げたのです。

もちろん、ロシア国民も馬鹿ではありません。そんな都合の良い話があるわけないと薄々は理解しているでしょう。

しかし、その虚構で犠牲になるのが自身でなければ、プーチンを嘘吐きだと糾弾したところで自身には何の得も無く、それどころか下手をすれば投獄、最悪家族に至るまで非業の死を遂げることになるのであれば、大多数のロシア国民は気付かないフリをするのです。


この戦争でも全く同じ。


ウクライナ侵攻はナチのロシア人虐殺を阻止するためで、善良なウクライナ人には犠牲者が出てないし、特別軍事作戦は順調、黒海艦隊旗艦のモスクワが沈んだのは火災のせいで、クリミア半島で起きてる爆発はタバコの火の不始末だけどそろそろ仕事を探さないといけないからクリミアを離れなきゃ、、、、、、と言うのがロシア国民の処世術です。

しかし、戦時体制となり、自身がウクライナに送られるとなったら、同じ事が言えるロシア国民がどれだけいるか。


結局のところ、プーチンの皇帝位は虚構の上に構築した玉座に過ぎない。

虚構が崩れ去った後、皇帝位にいられるのか、生命があるのか分からない。

プーチンはそれが怖いのでしょう。


ハイマースとパルチザンの登場によりロシアの兵站は急速に悪化しているものと考えられます。

このままであれば、南部のロシア軍は兵站から崩れます。

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