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思惑の違い

思惑の違い


ウクライナは、東部域での苦戦が続いているように見えます。

個々の戦闘では、ロシア軍を圧倒する場面もありますが、セベロドネツクが陥落するなどロシア軍の猛攻が目立ちます。


対するウクライナ軍は、少しばかり馬鹿正直な戦い方をしているようにも見受けられます。個人的な印象ですが、力押しすべきか疑問に思う局面での消耗が増えているように思えるのです。


ゼレンスキーは6月後半には反攻し、ロシア軍を叩き返す意欲に燃えていましたが、現実はその状態に至っていません。要因は幾つかあるでしょうが、報道などではドイツの武器供与が遅れているとしています。


この様な状況で軍を押し立てるのは適切とは言えません。政治トップのやるべきことは、軍事目標を定めたなら、後は、人員・装備・補給物資を用意し、民間人を戦域から退避させ、国民を鼓舞し、国際世論を自国有利に運ぶことです。

私の取り越し苦労であれば良いのですが、ゼレンスキーら政権幹部が、領土奪還を急がせている懸念があります。


一刻も早く、ロシア軍を叩き返すべし。は、その通りで、領土奪還の遅れはウクライナ国民の生命・尊厳・自由・財産を確実に奪っていきます。

ゼレンスキー疲れとも評される程、繰り返し繰り返し武器を求めるのも、ウクライナの惨状に鑑みれば悲痛な叫びであることも理解できます。


しかし、政治の不備を戦争の最前線に補わせるのは、やってはならない事です。

圧倒的に優勢な側なら取り返しはつきますが、ウクライナは違います。

前線は劣勢の中、創意工夫して非対称戦を耐えているのです。兵士はウクライナ国民のため、領土奪還のため、懸命に戦っていますが、それ故に、耐えるところは耐えなければなりません。


セベロドネツクは要衝であっても純軍事的には重要性は高くありません。

砲弾の雨が降る中で制圧する必要は無い。

軍事的に撤退が上策と判断されたのであれば、兵士が悔しさに歯噛みし、国民が落胆しようとも、政治が覆してはならない。


非対称戦の鉄則は「勝てる所で勝ち、引くべき所は引く」、これを繰り返す事です。

全面的勝利を現時点で望むのは危険に過ぎる。

これまでの繰り返しになりますが、ロシア軍とまともにやり合ってはならない。経済規模で10倍、ファイアパワーはそれ以上の差があるのです。


この戦争に勝つのはウクライナでしょう。

しかし、物的被害は賠償させられても人的被害が大きければ、ウクライナを再建するのが困難になります。

ウクライナは、前線の兵士が戦後、国家を立て直す国民に戻ることを思い返す時期に来ています。一人で三人倒せても四人目に倒されたら負けなのです。


対して、ロシアは兵士が何万人失われても何の痛痒も感じません。そもそも、ロシアで職業兵士となるのは社会の最下層であり、その中でも前線に送られるのは声を上げる力の無い少数民族やはみ出し者、そういった(プーチンにとって)生命の心配をする必要がない兵士を使っているのです。


独ソ戦において、ソ連兵士として死亡したウクライナ人は400万人とも推計されます。有り体に言えば、ウクライナ人はスターリンが言うところの反革命分子だったので、恐ろしく合理的なやり方で粛正された訳です。

戦車跨乗しかり、督戦部隊しかり、ソ連は自軍兵士を効率よく「処理」することに長けていました。


戦後、ウクライナはロシア軍による戦争犯罪を本格的に糾弾するでしょう。

しかし、その「実行犯」の大半は「戦死」済になるでしょう。

つまり、プーチンにして見れば、戦争の継続自体が「戦後処理」であり、不謹慎を承知で言わせてもらうなら、不良在庫一掃処分セールな訳です。

実に合理的で不快感しか感じませんが、プーチン、そしてソ連とは最初からそういうものです。

そんな連中とがっぷり四つに組み合っての戦争などしてはならない。


話は変わってアメリカです。

ウクライナを勝たせるのはアメリカです。勝たせる事ができるのもアメリカしかいない。

しかし、アメリカがウクライナを勝たせるのは、別にウクライナのためでも、国際秩序のためでもありません。自国の利益を保護するためです。


アメリカにしてみれば、ロシアなど敵だとも思っていない。石油・ガスといった資源はロシアに頼るまでも無い。しかし、石油などの取引やロシア国債をルーブル建てにするなどは断じて許せないのです。

アメリカは「アメリカに楯突くプーチンの様な不心得者」が二度と出てこないよう懲らしめてやるつもりなのでしょう。


そのためにウクライナに肩入れし、ロシアと戦争をさせている。


もちろん、ウクライナは自国のため、国民を守り、国土を保全するために戦っている。

しかし、アメリカとしては、プーチンがアッサリ引き下がっても面白くないのです。


戦闘に勝つ最も重要な手段は補給を絶つことです。逆に言えば補給を絶たない限り戦闘は続く。

アメリカが戦争に強いのは、直接的戦闘能力もさる事ながら、米軍が世界最大・最強のロジスティクス集団であるからです。


経済制裁は、その補給を絶つためのものです。

しかしそれは、流れ込む水を止めて湖を干上がらせようとする行為に似ています。大きな湖であれば、止めきれない水もあるし、雨によっても一定の水量が確保されます。

それでもアメリカは本気なので、止めきれない水も今後さらに少なくなりますし、雨の量も確実に減ります。


ウクライナとしては補給を絶つため、より直接的なやり方で策源地を攻撃したい。上記、湖の例で言えば、湖から引かれた補給路という名の水道の蛇口を塞ぎたいのです。


ここでアメリカとウクライナの思惑には、根源的すれ違いが起きます。


ウクライナは蛇口を塞ぐことで水を被る被害を防ぎたい。一方で、アメリカはロシアという湖を干上がらせたいのです。ウクライナの被害を防ぎたいという意志が無いとは思いません。しかし、干上がらせるには入る以上の水を出さなければならない。


アメリカは、ウクライナへロケット砲などを供与するにあたり、ロシア領を標的としないよう約束させました。

ロシア側のエスカレーションを危惧しての事だというのは理解できます。この戦争がウクライナ領に限定されている限り、プーチンが核を使用する可能性は極小に抑えられます。

しかし、ロシア側が策源地を破壊するためと称して、前線とは関係ない都市部に嫌がらせのミサイルをぶっ放しているのに、ロシア領にある策源地を攻撃する事を制限するのは酷というものではないでしょうか。


アメリカがこの戦争を自国の都合の良い方にコントロールしようとしている、、、という邪推。

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