NATOについて
NATOについて
ウクライナがNATOに加盟できないことは、当然ロシアも理解しています。
実のところウクライナ(とジョージア)は2008年にNATOに加盟することを承認されましたが「将来的に」という但し書き付きでした。そして同年、一方のジョージアはロシアとの戦争で国土の一部を事実上失っています。
この戦争を仕掛けたのがジョージアであったことから、国際社会もロシアを強く批難できなかったのですが、開戦の原因はロシアがジョージアの一部地域を実効支配しており、これを排除するためのものでした。
こちらでもパスポーティゼイションが行われており、ロシアの実効支配地域では住人の大半がロシアのパスポートを持っていました。構造的には今回のウクライナと同じで、ロシアが周辺国家の一部を不安定化させ、軍事介入の口実を作ると共にNATO入りを阻害しているのです。
このため、ウクライナとジョージアは加盟確約から10年余り経過してなおNATO入りを果たせていません。
ロシアや追従するプロパガンダは、ウクライナがNATOと合同演習を行ったり、武器の供与を受けたりすることがロシアに対する挑発行為であり、ロシアはNATOの脅威を排除しなければならなかった。的な論を持ちだすことも多いですが、NATOの脅威とは何でしょう?
第二次世界大戦のように戦車や歩兵がウクライナを超えてモスクワを目指す?ミサイルを配備して核兵器をぶっ放す?何のために?ロシアの石油やガス?
多少なりとも資本主義経済を理解しているならそんな事は考えませんし、NATOの存在理由をまるっきり理解できていません。
そしてプーチンはどちらも理解しています。
それはプーチンがドイツ東西の壁が崩れる様を目撃し、ソビエトが瓦解する過程を体験しているからです。この世界を二分した一方の雄、共産主義が倒れるとき、NATOの核兵器はおろか一発の弾丸も使われていません。
共産党解党で大混乱の東側に対し、西側はNATOによる占領政策を採りませんでした。
日本は、戦争を禁じられているとは言え北方四島を奪還するどころかロシアに物資を送って支援しました。
それは何故か。
簡単です。占領に利益が無いのです。
言葉を選ばずに言えば、石油・ガスなどの資源開発も穀倉地帯での食料生産も、貧乏なロシア人にやらせたら安く済む、ロシアを占領してロシア人を自国民にしようものなら金が幾らあっても足りないのです。
端的な事例がドイツです。東西ドイツは元々同一国家であったため統合せざるを得ませんでしたが、東西経済格差からくる様々な悪影響は長くドイツを苦しめました。
何を好き好んでだだっ広いロシアを制圧する必要があるのか。これが資本主義経済的な考え方です。
NATOもこの考えに従って動いています。
なにより、NATOはプーチンのような独裁者が「やれ」と言えば戦争に突き進む組織ではありません。アメリカが主導する軍事機構ではあっても加盟各国はそれぞれの事情を抱え、大国もいれば小国もいます。何のメリットも無いのに何故ロシアに戦争を吹っかけて兵や国力を損なわなければならないのでしょう。
NATO加盟国が攻撃を受ければ集団的自衛権により反撃しますし、安全保障が脅かされるとなれば先制攻撃も行いますが、少なくとも冷戦終結以降、戦争をするためにNATOに加盟した国家は存在しないと断言できます。
実際、加盟国は冷戦時の13ヶ国から30ヶ国に増えましたが、総兵力は冷戦時より減少しており、東方拡大=軍事力拡大ではないのです。
では、NATO加盟国の目的は何かと言えば、当然ですが最大のものは安全保障でしょう。それも極論すればロシアの脅威から護られることです。ロシアが東方拡大を止めろと言うのは裏を返せばロシアが侵攻するのに邪魔だと言っているに等しいからです。
NATOに加盟すれば小国であってもロシアの軍事介入を思い止まらせることができます。
そしてもう一つ大きな目的が経済的負担の軽減です。
NATOは加盟各国にGDP比2%程度の軍事費とするよう提唱しています。これは冷戦後の世界各国における平均値から算定された水準と考えられ、決して低い目標値ではありませんが、他国との関係に問題が生じれば2%ではすみません。ロシアとの関係が悪化したジョージアではGDP比6%に及ぶ軍事費が投入されていました(それでもロシアに負けましたが)。
冷戦下、ソビエトに対抗する極東地域のアメリカ最前線とされ、ソビエト、中国、北朝鮮に近い日本が軍事費をGDP比1%に抑え、驚異的経済成長を遂げたことはNATO傘下入りする各国を大きく後押ししたことに間違いありません。
以上のように、ウクライナのNATO入りに関してはロシアの工作により事実上不可能な状態にあり(今回の戦争でどうなるか分からなくなりましたが)、ウクライナ侵攻の口実としては筋悪かつマッチポンプが酷過ぎる上、例えウクライナのNATO入りが実現しようとも、それはウクライナの主権に基づくもので、ロシアが軍事介入して良い理由にはなりません。