表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
182/197

ガンダム?

ガンダム?


以前トリチウムの話の中で、トリチウムはほっといたら勝手にヘリウム3になると言ったので(私はそんな言い方してないと思うのだが、、、)「ヘリウム3って木星まで取りに行かんとあかんやつなん?」と聞かれ、

え?なんでそんな話になってんの?ガンダム!?ガンダムなんで!?


どうやら今やってるガンダムがヘリウム3を木星まで採りに行ってえらい目に遭うというifストーリーらしいので、ちょっとその辺のお話しをしましょう。

本稿は息抜きというか余談も余談、辛い現実から目を逸らして現実逃避しているだけなので、興味が無ければそっ閉じでお願いします。先に断っておきますがガンダムの話は出てきません。


基本的なとこから行きましょう。

以前、最も軽い元素である水素が中性子2個を取り込んで、陽子1個、中性子2個、電子1個となったものを三重水素、即ちトリチウムと呼び、トリチウムは不安定なため、いずれは中性子1個が電子1個を放出して陽子に変わり、陽子2個、中性子1個、電子2個からなるヘリウム3に変わる。

そうお話ししたと思います。

ヘリウム3は安定同位体であり、通常は放射線を発することも別の物質に変化することもありません。

なお、通常、私達が「ヘリウム」と言うときは、陽子2個、中性子2個、電子2個からなるヘリウム4を指します。


ヘリウム3が何故重視されるかと言うと「未来の」核融合燃料として有望であるためです。


現在、原子力発電で使用されている技術は、ウランやプルトニウムといった重い元素が核分裂する際に放出されるエネルギーでお湯を沸かし、タービンを回して発電する、ほぼその一択です。

この仕組みは、商用の原子力発電が稼働して70年余り経ちますが、基本的なところは変わっていません。

対して、軽い元素を核融合させてエネルギーを放出させる技術は、残念ながら兵器、即ち水爆以外に実用化されているものは存在しません。

なお、元素の重い・軽いは原子物理学では鉄を基準とする場合が多いでしょう。まぁ、その辺はまた機会があればお話しします。


多くの方々が漠然と勘違いされている事として「核分裂より核融合の方が何百倍も大きなエネルギーを出す」というのが有る様に見受けられます。

これは、ビキニ環礁で使用された実験用水爆の威力が広島型原爆の千倍ともされる「事実」などから想起されている様に思われますが、原子物理学的に見れば正確とは言えません。

原子物理学では電子ボルト(エレクトロンボルト=eV)でエネルギー量を表しますが、ウラン236が核分裂時に放出するエネルギーが200MeV(2億電子ボルト)に対し、デューテリウムとトリチウムの核融合時放出エネルギーは17MeV(17百万電子ボルト)と1/10にも満たない。

ちなみに、トリチウムが自壊するときに放出される電子が持つエネルギーは大体6eV、最大でも18eVくらい。M(=メガ)を入れ忘れたんじゃないぞ。文字通り桁が違うのだ。それも6〜7桁。

この差が何なのかと言うと、核分裂だからでも核融合だからでも、況してやβ崩壊だからでもなく、失われた質量の差に他ならない。以前も説明した様に核分裂も核融合も質量をエネルギーに変える技術に変わりなく、変換されるエネルギー量はE=mc^2で表される通り。


ん?トリチウムが自壊してヘリウム3になるとして、その質量差は一定ではないのか?なぜ、エネルギーが6eVだったり18eVだったりするのか?

良い質問だ。質量差は一定でそこは間違いない。(電子の持つ)エネルギーに幅がある理由は、電子と同時に放出されるニュートリノ(正確には反ニュートリノ)にもエネルギーが与えられ、エネルギーの和は一定だが電子とニュートリノ其々のエネルギーが一定でないことから幅が出来る。


さて、では何故、水爆は原爆の数千倍もの威力を出すことが可能なのか。

まず、ウラン236の核分裂とデューテリウム・トリチウムの核融合では1原子若しくは一対の原子あたりのエネルギー量(喪失質量)はウラン236の核分裂の方が大きいが、ウラン236は重い元素なので、軽いデューテリウム・トリチウムと比較すると重量あたりのエネルギー量で逆転します。

とは言え、その差は精々4倍程度。

水爆が原爆より高エネルギーを出力できる理由は端的に言うと技術的なものです。

これもまた、以前に説明したと思いますが、効率よく核分裂するため原爆内のウラン235の比率を100%にしても、全ての原子が核分裂することは有りません。

核分裂すればするほど別の物質である「壊れにくい原子」が増大し、中性子を取り込んで核分裂の邪魔をするようになり、また、核分裂のエネルギーによって壊れやすい原子も吹き飛ぶ。

この辺の技術的解法が存在しないため、現状、原爆の高出力化は頭打ち状態です。

対して、水爆は、デューテリウム・トリチウムが核融合しエネルギーを放出すればするほどデューテリウム・トリチウムが高温・プラズマ(今のガンダムopソングもプラズマなんだっけ)化し、核融合が加速する。

核融合自体に必要なのは超高温であり中性子を要しないため、核融合が進み生成物(デューテリウム・トリチウムの場合はヘリウムと中性子)が増大しても核分裂ほど影響を受けません。核融合し易い温度にはピークアウトも有るが非常に高いレベルにあるため原爆より高出力化し易い。


極めて高い温度を必要とするため、核融合技術は発電などの平和利用としては実用化されていないというのに、兵器としては核分裂より有利になるというのは何とも皮肉な話です。

現状、実用化されている核融合技術は水爆、水素爆弾ですが、前述のとおり水素ではなくデューテリウム(重水素)とトリチウム(三重水素)を燃料としています。

その水爆ですら燃料を高温・高圧のプラズマ化するための起爆システムとして原爆を組み込んでいます。

謂わば水爆は核分裂・核融合のハイブリッド兵器です。

この実用化の難しい核融合を何故世界中で研究・開発が進められているかと言うと、安全性が高いというのが大きい。

核分裂は燃料のウランやプルトニウムもそうですが、生成物も放射性物質として厄介です。核分裂の制御を誤ったり冷却機能が喪失すると炉心融解を起こし環境中に放射性物質が流出してしまう。

今は話題に上る事も少なくなってきましたが、福島ではこれまでも、そしてこれからも、莫大な費用をかけて放射性物質の処理を続けなければならない。

対して、核融合は燃料は核融合のそれと比べるまでもなく安全性が高い。

生成物も中性子が厄介ですが、ヘリウムは安全性の高い物質であり、超高温下に置かなければ核融合が進まない原理上、核分裂の様に暴走する危険も少ない。現在は、むしろ長時間核融合を続けるための研究がなされているくらいです。


現状、デューテリウム・トリチウムによる核融合すら平和利用の実用化には程遠いレベルですが、更にその一歩先の技術として期待されているのがヘリウム3を利用した核融合です。

デューテリウム・トリチウムの核融合時に放出される中性子が厄介なのはこれまでお話ししてきた通り。

しかし、デューテリウム・ヘリウム3を核融合して生成されるのはヘリウムと陽子(+18MeV)で、中性子を放出しないため、未来の核融合燃料として期待されています。

陽子と中性子の大きな違いは電荷の有無ですが、これが人体などへの影響に大きな違いを生みます。まぁ、中性子は厄介だが陽子は電子と同じ程度には安全、くらいに思っておいてください。


デューテリウム・ヘリウム3核融合の実用化には難点が幾つかありますが、大きなものとして二つ。

一つには、デューテリウム・トリチウムに比べ核融合に必要な温度が高くなる。

もう一つが、ヘリウム3は地球上に存在する量が極めて少ないという事です。


少なくとも地球上で実用レベルの採取は不可能。

ヘリウム3を得る手段として、半減期約12年のトリチウムが自壊するのを待つ、という迂遠な手段しか実用的なものは無い。

そこで冒頭の「処理水でヘリウム3作ったらいんじゃね?」という発想に繋がったのだろうが、、、、、、トリチウムの稿でちょっと説明不足だったか、、、

福島では処理水の状態でタンクに100万t超保管されている。

そこからトリチウムだけを抽出したとして、その量は20gに満たないだろう。言ってる意味が分かるだろか?希釈化もされていない「高濃度」の状態で100万t中トリチウムは20gも存在しない。

そこから12年かけて10g弱のヘリウム3を生成する、、、えーと、、、ざっとコスト計算するのも馬鹿らしいなコレ。

トリチウムは高価な物質でg単価300〜400万円ほどだが、採算が取れるハズもない。


ヘリウム3は稀少かつ貴重だがトリチウムも非常に需要が大きいので生産量は少ない。核融合燃料として実用化出来る量の確保は非常に難しい。

では、どうするか?地球になければ有る天体に求めることとなる。

その候補がガンダムでは木星となっているのでしょう。

木星は「太陽になり損ねた星」とも呼ばれるほど、その組成は太陽に近く、主に水素とヘリウムから成っています。

僅かにヘリウム3も含まれているので、木星の大気を大量に採取してヘリウム3を得よう、というのが木星に向かう目的と思われます。


しかし、現実には、二つの要因から人類がヘリウム3を求めて木星に行く事はないと言って良いでしょう。←ロマンが無い

一つ目、

先程、木星の組成は太陽に近いと言った様に、太陽系でヘリウム3を最も多く有しているのは、その名の通り太陽です。ヘリウムの元素名は太陽を表すヘリオスから来ています。

とは言え、太陽はあっっっついので採取はちょっと難しいね。

しかし、太陽は、その構成物質を常にプラズマの状態で大量に吹き出しており、太陽風と呼ばれる。

太陽風にはプラズマ化したヘリウム3も含まれており、長年太陽風に曝された月には大量のヘリウム3が堆積物として存在すると考えられています。

中国の嫦娥シリーズはレゴリスと呼ばれる月の砂・堆積物を採取していますが、それはヘリウム3を含めた月資源の調査に資するためです。

現時点では、レゴリスからヘリウム3を得る目処は立っていませんが、木星に言って採取するよりは実現可能性として高いと言えるでしょう。

なお、太陽風は地球にも届いているハズなのに、何故地球にはヘリウム3が殆ど存在しないかと言うと、地球の場合、大気と地磁気が太陽風を遮っているため地表にヘリウム3が到達する事なく、精々オーロラとなって可視化されるか通信障害を引き起こすなどに留まっています。


二つ目、

デューテリウム・ヘリウム3の核融合は中性子を放出しませんが、燃料の片方、デューテリウムはデューテリウム同士でも僅かな確率で核融合し、その際中性子を放出します。

このため、デューテリウム・ヘリウム3の核融合も完全にクリーンとは言えない。

しかし、近年、(理論上は)完全に中性子を放出しない核融合燃料として水素・ホウ素11の組合せが注目されている。

この核融合燃料も技術的ハードルは高く、研究もまだまだこれからではあるが、

水素+ホウ素11=ヘリウムが3個+8MeVと生成物はヘリウムのみで、水素もホウ素11も地球上に豊富に存在し枯渇の心配はほぼ無い。

中性子も陽子も電子も放出せず、生成物・燃料共にほぼ安全と言える。

この核融合技術が実用化されればノーベル物理学賞モノとはいえ、これも木星に行くよりは、、、でしょう。


木星圏の探査は今現在も複数のプロジェクトが進行しているが、何れもロマンの塊だ。

人類がヘリウム3を求めて木星に行く事はないだろうと言っておきながら恐縮だが、私も童の頃はガンダムやザクのプラモでブンドドしてた世代である。


フィクションとはいえガンダムには木星で頑張っていただきたい。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
イラン-イスラエルが… 対露にも絡んでくるでしょうし 第三次まったなし!なんでしょうか
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ