認知
認知
ミュンヘン安全保障会議が終わりました。
まぁ、この会議自体は法的な拘束力を持つものでもなく、意見交換の場に近いのですが、ウクライナ戦争終結を占うものとして注目されていました。
本稿で詳述はしませんが、結論だけ言えば、ウクライナ戦争終結に向けた動きは加速しているが、ウクライナ・ロシアだけでなく欧州各国もそれぞれの立場から落とし所が見つからない、と言ったところでしょう。
ホスト国ドイツなどは間もなく実施される総選挙で与野党逆転が確実視されているので、全くと言って良い程に存在感が有りませんでした。
焦点は、米露が勝手に話を進めようとしているが、これにどう対処して行くか、ですが、欧州各国としてどう結束を示せるか微妙な所。
今、再び活発化しているのが情報戦、それもロシア側の攻勢だ。問題なのは、完全にアメリカがロシアに乗っかってしまった状況にある事。
、、、、、、まぁ、ぶっちゃけ、この状況はトランプが大統領になれば、こうなる可能性が高いとしてきた展開のまんまなんで正直ため息しか出ない。
トランプは大統領選の最中から、戦争の責任をバイデンとウクライナ側にあると、半ばロシアの主張に沿う形で発言してきた。
政権スタッフを見ても親露レベルに収まらない面々が並んでいる。情報長官として承認されたギャバードとか忠露としか呼べない。ギャバードが情報長官とかウクライナどころか日本も危ういマジで。
トランプの行動原理には幾つかの要素があり、中でもバイデン&オバマへの強烈な憎悪・否定は大きい。トランプがノーベル平和賞に拘るのも、中間選挙に向けた巨大な実績以上に、オバマが同賞を受賞している事と無縁ではない。
バイデンがウクライナ戦争でウクライナを正しい、ウクライナが勝たなければならない、とするなら、トランプはロシアが正しく、ロシアが勝つことを是とする。
戦争を起こしたのはロシアである事など明白。
しかし、トランプらにとってファクト、事実など何の価値もなく、幾らでも思うがまま歪められると認識している。
そして、その認識はアメリカ大統領選で事実上肯定された。
トランプとその政権スタッフがロシア寄りなのは、別にロシアが好きなわけではない。ロシア寄りであるメリットがあるだけだ。
個人に対する幾つもの経済的メリット、そして選挙での助力。
以前から度々言及しているように民主主義国家は構造的に情報戦に脆弱だ。兵庫県知事選を見ても分かる様に日本も例外ではなく、情報リテラシーなんてものは残念ながら気休め程度の抑止力しかない。
ロシアに限らないが、他国の選挙に情報戦で介入するのは、既に常套手段と化している。今は亡きハスキー犬ムーブのプリゴジンなど端末の一つでしかない。
侵略した側のロシアが「俺の方が正しい」とちゃんちゃら可笑しい主張をしても限定的だが、世界最強国家の大統領が「ロシアが正しい」と言えば一定の効果がある。
そしてロシアはその効果を増幅させるそれなりのノウハウを有している。ソ連時代から他国の「偉い人」「賢い人」「有名な人」を使って自国の正統性を喧伝し、有利な世論を創り上げる事に莫大な金や利権を注ぎ込んできたからだ。
これまた残念過ぎる結論だが、ロシアにとってアメリカは扱いさえ間違えなければ敵ではない、敵対する必要の無い国、でしかない。これは、ヤクザやマフィアが国家と戦争などせずとも幾らでものさばっていられるのと構造的には大して違いはない。
色々端折るが、トランプが完全にロシア側に付いたと判断して今後を考える他は無い。
未だトランプにウクライナとロシアを天秤にかける意図があるなら、この時点で完全なロシア寄りの発言はディールの妨げにしかならない。
やはり、ウクライナがトランプに差し出せるものはロシアに比して弱い、という事であり、トランプの天秤はロシアに傾き、ゼレンスキーが覆せる可能性は限りなく低い事を示している。
ロシアが差し出すものとは何か?
ぶっちゃけ、新たに差し出すものが無くともトランプとその政権スタッフの多くは、ロシアから得られるものに依存していると言ってもいいだろう。
ロシアは、特にアメリカとドイツでの情報戦注力が観測されている。ライヒスビュルガー事件などもロシアの関与はほぼ間違いない。
トランプとその政権スタッフの多くに犯罪や犯罪紛いの後ろ暗い経歴がある。マスクもセクハラ訴訟など到底身綺麗とは言いがたい。
トランプは大統領選圧勝と誇らしげに語るが、自ら語る程の差が無いことは自覚しているだろう。マスクの有形無形の支援が無ければ、まず間違いなく負けていただろうし、ロシアの助力が無ければ勝利は危うく、ロシアがハリス側に付いていたなら負けていた可能性は高い。
結局のところ、トランプ最大の関心事は選挙での勝利にある。中間選挙は来年11月だが実績作りの期間としては短い。トランプは中間選挙に勝たなければ共和党内の支持すら失ってしまう。
トランプは、引き続きマスクとロシアに依存せざるを得ない。そう判断したのだろう。
ここまで情報戦としてきたが、領域としてはコグニティブウォーフェア、即ち認知戦でしょう。
認知は人の意思決定の根幹。本稿で多くは語れないが、人格そのもを揺るがし得る悪用の危険性・重大性が極めて高い領域だ。
トランプのロシア寄り発言は認知戦の一環と言える。トランプの、ではない、ロシアの認知戦だ。ウクライナ戦争に係る認知戦はウクライナ戦争が始まる前から始まっており、トランプの発言内容はロシアの主張をオブラートに包む事さえしていない。
間もなく始まるドイツ総選挙にはマスクが介入している。ドイツは近年勢いを失っているが、事実上EUの盟主であり、ウクライナ支援の多くを担っている。マスクはドイツ・イギリスなどで政治に介入し、ウクライナ支援に反対する右派政党を支援している。
アメリカ・ドイツはウクライナ支援放棄の方向に向かう。
ウクライナは非常に非常に非常に厳しい状況にある。マスクが「スターリンクの提供止めるわ」と言うだけで前線は混乱するだろう。ウクライナも対応を考えているハズだが、やはり厳しい。
この状況下、ゼレンスキーが継戦か事実上の降伏のどちらを選ぶか?
可能性は低い。低いが、降伏を選ばない、とは言えなくなってきた。




