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ロシア経済と財政

ロシア経済と財政


ウクライナ戦争は政治力で事態が動こうとしていますが、政治力にせよ軍事力にせよベースとなるのは経済力です。

ロシアが曲がりなりにも軍事大国たり得たのはソ連の時代から常軌を逸したレベルの金を軍事ブロックに注ぎ込み続けたからです。


通常、戦時中でもなければ、そんな真似が継続できるハズもありませんが、アメリカからレンドリースというドーピングもあって独ソ戦に勝利できたソ連は戦勝国として共産圏の構築に成功し、捕虜という事実上の奴隷労働力を得た事で戦後復興の原動力とする事ができた。

捕虜の数、ドイツ人310万人超、日本人60万人。これは兵士だけではない。民間人、女性も子供も捕らえられ、奴隷とされ、日本に帰ってきたのは1%に満たない5千人程度。


そして、石油という今なお最強の資源を得た。この僥倖をソ連指導者は極めて穏当に有効活用した。少なくとも表面上は政治や軍事から切り離し、NATOに属する西ドイツやフランス、イタリア、そしてイギリスさえも輸出先とし、外貨を得る事に成功した。

特に、1970年代の中東発オイルショックは、対立する共産圏にエネルギー政策を左右される安全保障リスクを覆い隠してしまった。

冷戦期にあっても「善きエネルギー資源供給者」の仮面・欺瞞により石油と副産物であるガスは共産圏そのものを支え続け、軍事ブロックの膨張を可能とした。

しかし「資源の呪い」とも言われる様に、石油や鉱物資源の豊富な国家は資源の枯渇や価格変動で国家そのものが動揺する陥穽に陥りやすい。

実際、ソ連崩壊は様々な要因によるものではあるが、最大のものは油価低迷と言って差し支えないだろう。


ソ連崩壊時に兵力は1/5に削減され、輸出に回された装備も多かったが、莫大な軍事費を注ぎ込んだレガシーとして膨大な量の装備がロシアに残された。

しかし、ロシアはウクライナ戦争により陸戦装備にかかるレガシーをほぼ使い尽くしている。

ICBMなどの使い所の無い装備を除けば、比較的温存されていた航空戦力も今年に入り異常なペースで損失を重ね、往時の戦力は見る影もない。

ソ連時代、世界の半分と戦うために積み上げた装備をチンピラが3年と経たず食い潰してしまった。


尤も、チンピラ皇帝が失った最大のレガシーは武器弾薬類でも無ければアルメニアやシリアなどとの繋がりでも無い。

「善きエネルギー資源供給者」という半世紀にわたる資源供給でソ連・ロシアが得た西側諸国からの信用そのものだ。このレガシーは、少なくとも炭素社会が続く限りロシアを潤してくれるハズだった。

ソ連崩壊の混乱を乗り越える原動力となったのは、結局のところエネルギーマネーであり、それも、ソ連が「善きエネルギー資源供給者」であった信用に基づくオルタナティブトレードの側面もあったでしょう。

チンピラ皇帝は、BRICSを西側諸国との対抗勢力であるかの様に称していますが、元々の意味で言えば「有望」な「発展途上国」であった5ヶ国であり、西側諸国からの投資を含めた支援を受ける側でした。

、、、まぁ、超大国であったハズのソ連が後進国扱いされて、チンピラ皇帝のプライドが甚く傷ついた事もウクライナ侵攻の遠因の様にも思う。と言っても、ソ連崩壊のゴタゴタが無ければ不良スパイが登極する事も無かったとも思うけどね。


ともあれ、西側諸国はロシアというマフィア国家にエネルギーを握られるリスクを再認識せざるを得ないし、した。

完全な脱却では無いが、リスク分散という極めて真っ当な対応を取った事で、ロシアはインドと中国に依存せざるを得なくなった。欧州市場がシュリンクした所為でインドには買い叩かれ、中国は更に値引きを要求してくる。

石油・ガスの輸出額が増大しているのは買い叩かれている分を量で補おうとしているからだ。

世界最大のガス会社であるガスプロムは2023年、二十数年振りの赤字を出した。その額1兆円超。

2024年も輸出額は増える見込みだが、黒字に転換する可能性は低い。というか赤字が拡大する可能性の方が高いだろう。欧州から振り替えるコストが嵩むからだ。


また、ロシアの石油には重質化という問題もある。

硫黄分が多く粘り気が強いものを重質油と言います。

以前にも、ロシアの石油鉱区は劣化が進んでおり、西側諸国の技術協力が必要である旨の解説をしたが、この重質化が関与している。投稿時に端折っていたので補足しておこう。

至極当然の話だが、石油は掘れば掘るだけ減ってゆき、最終的には枯れてしまう。そのため新たな鉱区へと移るのだが、ロシアの場合、優良鉱区は粗方手が付いており、西シベリアの硫黄分が少ない軽質油は採掘量が減少している事から、ボルガ川流域で採掘される重質油の採掘比率が高まってきている。

重質油は粘っこいので掘りにくく、硫黄や重金属を含むため、輸送や精製にも特別な技術が必要です。即ち、コストが嵩むので安く取り引きされます。また、硫黄は結構厄介な物質で硫化腐食など問題を起こすため、製品化には脱硫と言って硫黄を分離する工程が必要です。

インドは、この脱硫などロシア産原油に一手間加えることで欧州市場などに転売して大儲けウハウハ状態。


通常、ロシアは、ボルガ産重質油を西シベリア産軽質油と混ぜることで硫黄分を希釈したウラル原油と呼ばれる中質油の状態で輸出します。

しかし、西シベリア産軽質油の採掘量が減少するとコレも厳しくなる。

重質油は輸出にもコストが掛かるためロシア国内で脱硫するとなると高濃度硫黄化合物を分離するためのプラントを新たに造らなければならず、造ったとしても高コスト化します。

重質油の輸出に苦慮している実例がベネズエラです。ベネズエラは石油埋蔵量世界一の産油国ですが、大部分がオリノコ川流域で採掘されるオリノコタールと呼ばれる超重質油で、ナフサで希釈しなければパイプすら通らない。

このナフサをベネズエラ現政権と仲の悪いアメリカから止められてしまい、にっちもさっちも行かなくなった。


ロシアにとって石油・ガスは戦略物資として機能しているが、同時に国家財政の命綱でもある。

経済制裁により油価上限を科された事でインドに買い叩かれ、採掘コストは上昇している。おまけにロシア産原油の穴埋めにベネズエラへのナフサ規制まで一部解除している。

アメリカは甘くない。直接交戦していないだけで、本気でロシアを締め上げている。

ガスプロム決算の惨状はロシアの窮状を雄弁に物語っている訳だ。

経済制裁は戦争を止める事は出来ない。事実ではあるが、正しくも無い。

ロシアは戦争なぞやってる場合ではないのだ。


ロシアが石油・ガスを戦略物資とするなら、生かさず殺さずに締め上げる。

ウクライナもガスパイプライン契約を期限の今年末で打ち切り、更新しない方針としている。コレは、正直、ウクライナに取っても相当厳しい手となるが、間違いなくロシアを削る。

加えて、西側諸国の戦略物資は多種多様だ。半導体は言うに及ばず、その製造装置や薬液まで規制が掛かっている。

機械産業の米とも言えるベアリングの規制は高精度の機械製品の生産を困難にし、メンテナンス不良の要因となり、半導体規制に劣らぬダメージを与える。

様々な物資の不足は、大方が想像しているものより深刻だ。


ロシアの政策金利は21%まで上昇している。

年内にもう1段階の引き上げがあると想定されていたが、ナビウリナは利上げを選択しなかった。というより選択させて貰えなかった、と言うべきだろう。

現状でも市中金利は30%台に突入していると考えられ、破綻企業が増加している。

これ以上の利上げは政権側が容認しなかったのだろう。しかし、おそらくこれではインフレは抑え込めない。というか、中国の物資が無ければ、ロシアはインフレで破綻していただろう。

ソ連末期、20%だった金利はハイパーインフレーションに対応するため80%、更には180%まで上昇した。しかし、この異常な高金利でさえ2600%とされるハイパーインフレーションの前では実質金利は極端なマイナスとなり、ルーブルは価値を失ってソ連は崩壊した。

ロシアがソ連の二の舞となる可能性は、これも又、大方が想定しているより高い。


チンピラ皇帝が好調をアピールするGDPも、典型的な戦時経済型の特徴を示しており、戦場で無為に費消される生産財など経済に寄与しないし、インフレの数字を鯖読んでると考えれば、実質マイナス成長の可能性も高い。

、、、問題は、チンピラ皇帝が、好調と「思い込んでいる」事だ。

チンピラが絶対権力者となった事で、再びソ連と同じ状況に陥った。即ち、事実と異なる報告がなされ、事実と異なる報告に基づき判断がくだされる。

御無体な勅命が下されても誰も逆らえない。

半導体の例で言えば、ミクロン社は2030年までに28nmプロセスをものにするらしい。ラシアンジョークとしか思えんが、国=プーチンの意向である以上「制裁解除しないと無理です」とも言えない。チンピラ皇帝の責任を問う事に繋がるからだ。


経済と財政が危機的状況にある中、ロシアは皇帝を抑える事ができず機能不全に陥りかけている。

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