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シリア政変

シリア政変


シリアで親子二代にわたって独裁体制を維持していたアサド政権が倒れ、反政府勢力が首都ダマスカスを掌握、バッシャール・アサドは家族らを連れてロシアに亡命しています。


ナゴルノカラバフ問題でロシア=プーチンから見捨てられ、愛想を尽かしたアルメニアの様に、安全保障をロシアに依存している国家・地域は、ウクライナ戦争の膨大な消耗でロシア軍軍事力に空白が生じた事により不安定化しています。

その辺は以前にも解説した通りですが、投稿していない部分も多いので若干補足しておきましょう。


ロシアが軍事の人・物・金、即ち兵士・装備そして活動資金を他国に注ぎ込むのは、マフィアやヤクザが傘下の下部組織を増やして勢力圏拡大を図るのと同じです。

まぁ、それはロシアに限った話ではありませんが、ロシアのたちが悪いところは、脛に傷のある国家・勢力を積極的に支持・支援することで「綺麗事を吐かす」アメリカと対立する反米同盟に組み込み・依存させるため、独裁政権が助長・固定化されるところにあります。

ロシアに付け込まれ易いのは、往々にして正当性や権力基盤の弱いところとなり、必然的にテロルによる支配が苛烈なものとなる。


ロシアは、ソ連崩壊により失われた勢威を、世界第2位を自認する軍事力で、テロルによる支配領域を拡大する事で、取り戻そうとしてきた。

これはプーチン政権下における顕著な傾向だが、ご存知の通りウクライナ戦争で完全に破綻した。

ウクライナ戦争への傾注は、2022年後半には戦略的に重要視されてきた国々から装備と兵士を引き上げるところまで来ていて、他国どころかロシア国内の治安や国防にすら支障をきたしている。

クルスクを見れば明らかな様に、ロシアは戦争中のウクライナ国境にすら兵士や装備をまわす余裕がない。


アルメニアの離反、その原因となったアゼルバイジャンはCSIの盟主たるロシアを事実上無視した形で戦闘に及んでいる。

カザフスタンのトカエフ大統領はロシアに太いパイプを持つ前大統領とその一族を排除した。

ベラルーシのルカシェンコは元々プーチンの風下に立つ事を良しとしない態度を示していたが、その傾向が強まってきている。

従前より国民感情としてロシアへの反発の強いチェチェンは元より、「ロシア最貧困地域」とも呼ばれるダゲスタンはウクライナ戦争で徴兵率・戦死者率の高さなどから不公平感が強まっており、大きく表面化こそしていないものの内圧は相当なものとなっていると考えられる。


ロシアが、良くも悪くも重しとなって地域の安定に一定程度の貢献をしてきたのは事実だ。

言うまでもないが、その「安定」は弾圧・暗殺・虐殺などなどろくでもない手段でなされたものであり、軍事力という究極の重しが軽減或いは失われれば、その反動も激烈なものとなりかねない。

大きな動きはコーカサス地方が中心であったが、今回、シリアに波及し、顕在化した。

尤も、装備等が引き上げられたのは今に始まった事ではなく、シリアの政変はタイミングの問題でしかなかった。


アサドはイスラムの中でも少数派であるアラウィ派から出ていたが、やりたい放題していた所為で一部のアラウィ派からも忌避されていた。

当然ながら国内は安定せず、所謂アラブの春を契機に2011年に内戦となってISやクルド、トルコや有象無象まで絡んでしっちゃかめっちゃかになったシリアだが、既に欧米からアサドは20万人からを殺した虐殺者と白眼視されており、頼れる者のないアサドの姿はプーチンの目には地中海、そして中東への足掛かりとなるシリアを傘下に収める絶好機に見えただろう。

2015年からロシアはシリア内戦に介入を始め、数千回に及ぶ空爆を反体制派に、被害を何ら考慮する事無く民間人に、病院に、学校に、子供に老人に女性に何ら意に介することなく猛爆を加えた。


年間一千回を超える空爆はアサド政権を長らえさせたが、ウクライナ以降の2023年には年間300回程度まで減少している。それすらもハマスの大規模攻撃に関連したイスラエルによる空爆が相当数カウントされていると見られ、ロシアのプレゼンス低下は明確なものとなっていた。

2024年12月初頭、ロシアはシリア反体制派への、、、と、いうか目標らしい目標も定まらぬまま最後となる空爆を実行したが、アレッポの大学施設を吹き飛ばしただけで終わった。

ロシアが空爆する場合、曲がりなりにもアサド政権の地上部隊と連携して目標設定などを行っていたのですが、この頃には既に連携らしい連携は取れておらず、攻撃というより牽制に近いものと見られる。


大学に反体制派組織の人員や施設があったかは分からない。空爆したロシアは知りもしないし、どうでも良いとすら思っていただろう。

そんなしょうもない空爆でも10人以上死んでいる。

このしょうもない空爆を最後に、ロシアはシリアから手を引き、航空戦力が完全に空白になるとアサド政権の地上部隊は組織的抵抗力、というか抵抗の意思さえ見せずに首都アレッポを反体制派に明け渡した。

繰り返しになるが、ロシアがウクライナに傾注した時点でシリアの政変は既定事項ですらあった。しかし、2011年の内戦当初の経緯などを考慮するとアサド政権が容易に崩れるとも思えなかったが、現実だけを見ると体制側の戦力はほぼ機能しておらず、僅か10日余りで首都が陥落している。

体制側の軍事ブロックに何かが起きていたのだろう。或いはそれはバッシャールとの確執かも知れないし、内戦に倦んだのかも知れない。反体制派やトルコ、イスラエル辺りから切り崩し工作があったかも知れず、コレら全てかも知れない。

何にせよ親子二代、半世紀にわたる独裁政権は幕を閉じた。


ロシアは、バッシャール・アサドの亡命を受け入れたが、それは「人道的な理由」だと主張している。

私は、チンピラ皇帝に限らず、欧米諸国や日本、諸外国、ミニマムな個人に至るまで多種多様・奇妙奇天烈な欺瞞に慣れてきた積もりでしたが、数十万の生命を塵芥の如く踏み躙り、数百万の難民を生み出した政権首魁とその後ろ盾が、選りに選ってバッシャールを受け入れる事を「人道的な理由」?

流石の私もむせましたマジで。チンピラ皇帝は、能力はさておき、ユーモアのセンスは20世紀の三大モンスターに負けていない。


まぁ、ラシアンジョークはさておき、チンピラ皇帝がシリアの元独裁者を飼っておく実利は無いに等しい。

ヤヌコーヴィチで見ればウクライナを占領した後に「大統領解任決議は無効」と主張して返り咲きさせる荒技も有り得る、とまぁ、当時は考えていただろう。

しかし、流石のチンピラ皇帝でもアサドを担いでシリアを取るなどと脳天気になれるハズもない。

とは言え、シリアにはロシアのタルトゥース海軍基地があり、戦時にはダーダネルス・ボスポラス両海峡の航行権をトルコに握られる黒海艦隊にとって同基地の存否は死活問題だ。

現実に、ウクライナ戦争によりトルコが一切の軍用艦艇航行を禁じたことで、締め出されたロシア艦艇はタルトゥースに身を寄せている。


現在、艦艇群は政変から避難するため沖合に停泊しているが、このままタルトゥースを放棄するという選択肢は無い、、、ハズ、、、

タルトゥースは50年以上、バッシャールの親父のハーフィズの時代から租借しており、地中海プレゼンスの要としてロシアの戦略に組み込まれている。

黒海艦隊は旧式もいいところだが、地中海南岸部の、まぁ、言ってみれば弱いものイジメには充分な能力を持っている。

タルトゥースが機能しなければ黒海艦隊の戦略的価値は半減し、運用は非常に困難となる。

政変後のシリアがどう転がるかは全く予想がつかない。反体制派は首都を掌握したがシリア全土を抑えられる戦力には程遠く、シリアの勢力図は入り乱れている。ロシアは新体制となったシリアにおいてもタルトゥースは確保したい。しかし、当然ながら交渉は非常に困難なものとなる。


ロシアはアサドを支援して数千回に及ぶ空爆を実行した。

ロシアの支援が無ければアサド政権はおそらく2020年までは保たなかっただろうし、空爆の被害だけでもウクライナ戦争のソレを遥かに上回る。

シリアの国民感情としてロシアとの共存など考えられないだろう。

ロシアが途轍もない譲歩を強いられるのは間違いない。そのカードの中にバッシャールの身柄が含まれるであろう事は想像するまでもない。

バッシャールはロシアとシリアの関係を凝視し、交渉の決裂を神に祈っているだろう。仮初のものであっても、両国の握手は我が身の死刑執行書サインに等しいからだ。


しかし、、、私がロシアの戦略に携わる立場なら、タルトゥースは放棄を提言する。

ウクライナ戦争以前であれば、放棄など選択肢にもならなかっただろう。ロシアは世界に冠たる軍事大国を目指していたからだ。

現在のロシアは到底軍事大国などど言えるものでは無い。

これまで度々言ってきた様に、ロシアがウクライナ戦争に勝利したとしてもトータルで見れば完全に戦略的敗北だ。

自慢の陸戦戦力は戦車を始め榴弾砲、榴弾といった装備弾薬類をほぼ使い果たし、新造分では補い切れない損失から北朝鮮などの旧式兵器に頼らざるを得ない始末。

死傷兵の数は特に今年に入って急増しており、死者数だけで最低でも8万人、実際には10万人を下ることはないと考えられ、死傷者ではその4倍以上になると推計される。

これは、開戦前の兵員定数100万人、実数90万人の半数以上を失っており、事実上、兵士徴募による自転車操業状態にある。

チンピラ皇帝は定員を段階的に増やして150万人としているが、定数を揃える事は現状不可能に近いし、中身は素人レベルが大半で訓練もままならないだろう。


もはやロシアの軍事力は核兵器しか見るべきところがない。現在、ウクライナが押し込まれているのは、冬季という軍事行動に全く不向きなこの時期に、アメリカのトランプ再登板までに1inでも多くウクライナの土地を占領すべく人的・物的損失を度外視して、無謀としか評しようのない猛攻をひたすら続けているからです。

この猛攻は、補充と損失のバランスが自転車操業すら継続不可能な領域にあり、この冬保てば良い方でしょう。そもそも、イランや北朝鮮からの支援が無ければ、ロシアは2024年春までに弾薬類が払底し、継戦能力を失っていただろう。


戦時になったとして、弾薬類などの生産は平時の3倍まで持って行ければ良い方だ。

では、仮に、ロシアが前線で100万発の弾薬を消費するとしよう。生産能力を100万発に引き上げればOK、とはならない。輸送に伴うロスが発生するからだ。

戦争におけるサプライチェーンは非常に複雑で、充分な物資があったとしても欲しい所に欲しいだけの装備・弾薬を届けるのは非常に非常に非常に困難です。

話が終わらなくなるので端折りますが事務的・物理的な理由で、補給は相当な損失を覚悟しなければならない。

一般に損失率は5%から20%。100万発作っても前線には95万発から80万発しか届かない、という事。


そしてロシアの損失率は一般的な範疇には収まらない。横流しや横領、自分とこの部隊で確保して他部隊に回さないなどのモラルの欠如に起因する損失が伝統的に多いためです。

地獄の独ソ戦においても、前線に届いた補給物資が半減していたなどと言うのは当たり前レベルに起きており、余り話題になりませんが、戦争中の今現在も、ロシアの軍人が不正で逮捕される事件は散発的に起きており、それは氷山の一角でしかない。

ロシアの場合、サプライチェーン全体でみると35%以上の損失を覚悟する必要があり、100万発撃つには160万発は生産しなければならない。

現在のロシアにそれだけの能力は無い。


以前の試算で、ロシアは2倍の軍事費を10年続けなければ戦前の状態に戻らないとしていますが、事実上不可能で、それですらソ連時代から積み上げてきたストックは回復させられないし、航空戦力は技術的に生産困難かつパイロットなどの人的補充は10年では無理筋。

なにより、ロシアは油価低迷とインフレ、ルーブル安に高金利、人手不足と完全に国家として衰退の坂を転がり落ちている。ナビウリナでもこれ以上の高金利政策には国内の不満・反発に抗しきれないだろう。ロシア中銀は半ば機能不全に陥いる。その後は、経済系テクノクラートとは言え影の薄いロシア首相一人に経済の舵取りが託されるが、どう考えても手詰まりです。本当にありがとうございました。


国内すら手が回らないのに黒海艦隊で地中海のプレゼンス?

寝言は寝て言えと言わざるを得ない。

タルトゥース、というか前々から言ってきた様にウクライナとの戦争どころではない、、、のだが、チンピラ皇帝が放棄するかなぁ、、、

亡くなった方を腐すのはアレですが、エリツィンの阿呆め、保身に走ってチンピラを皇帝位に登らせたツケがロシアを退っ引きならないところに追いやってしまった。


ウクライナ戦争はロシアが勝利する可能性が高まってきた。

ウクライナ・ロシア・アメリカの外交はトランプ再登板に向け大きく動いている。

しかし、現在の情勢では、大統領就任後24時間で戦争を終わらせるのは、やはり無理があり過ぎる。NATO諸国も安全保障のかかったこの戦争を、ロシア勝利の形で安易には終わらせられないだろう。

領土は「棚上げ」という落とし所もある。

しかし、安全保障に関してウクライナとプーチンに妥協点は見出せない。自業自得以外の何物でもないが、ロシアの国体を揺るがすところまで来たこの戦争、チンピラ皇帝のくっだらねえ面子が掛かっている。


トランプの大統領就任式まで一ヶ月、ウクライナ戦争は軍事力ではなく政治力で事態が大きく動こうとしている。

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