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北朝鮮

北朝鮮


北朝鮮はソ連が作った国だ。それは紛れもない事実ではある。

北朝鮮では、偉大な金同志が神がかり的な偉業を成し遂げて打ち建てた世界で最も優れた国だと誇らしげにしているが、プーチンはそんな北朝鮮ファンタジーなど歯牙にもかけず、露朝友好を示す場で「ソ連が作った」と言ってのけた。

金王朝の怒りを買うことも承知の上だ。弾薬などで北朝鮮の支援を必要としている立場であるにも関わらずだ。

そして、北の将軍様は発言を華麗にスルーした。

どれだけ言い繕っても露朝関係は対等なものではないことを受け入れさせられたのだ。


露朝接近は様々な波紋を生むが、中国と韓国、ウクライナにとって看過しえない影響がある。日本も他人事ではないが、とりあえず置いておく。というか韓国もトランプ再選の影響でややこしくなり過ぎなので置いとく。


私は北朝鮮がウクライナに派兵することは「ない」と考えていた。過去には北朝鮮が派兵した事例としてベトナムや中東、アフリカなどがあるが、規模としては決して大規模なものではなく、軍事教導や顧問、オブザーバー的な意味合いが強かった。

当時の北朝鮮は、朝鮮戦争でアメリカとも交戦したバリバリの実戦経験国で、冷戦における共産陣営の尖兵とも言うべき存在であり、派兵は共産陣営の意向・方向性に沿ったものと言える。

しかし、現在の北朝鮮の地政学上の立ち位置は「在韓米軍と対峙する中国の緩衝地帯」という位置付け。言い方を変えれば中国の属国だ。

北朝鮮にしてみれば面白くはないが、中国の中華思想や歴史観からすれば有るべきものが有るべきところに収まっている状態と言える。


この状態に至るには紆余曲折がある。

多くは語らないが、北朝鮮も毛沢東の大躍進政策の大失敗にも似た大ポカをやらかして、大惨事を引き起こした。

中国では一時的とは言え毛沢東を失脚させたが、北朝鮮はそうならなかった。

北朝鮮では将軍様は神様で、一言一句言う通りにしなければならない。謂わば将軍様原理主義の国となっており、これが冗談でも誇張された話でもないところが北朝鮮国民の不幸の元凶となっている。

将軍様の映像を見ると、いい歳した爺さん達が孫みたいな歳の将軍様の周りで必死にメモをとっている姿がちょくちょく出てくる。あのメモは神様の「お言葉」を記した「預言の書」な訳で、非科学的であろうとナンセンスであろうと幼稚であろうと「分かっていても実行する」しかない。さもなくば刑死あるのみ。

至極当然の事実だが金さん一族に特段優れた資質があるわけではない。今の将軍様のじいちゃんにも軍事的・政治的な才能があった形跡はない。例によってソ連が適当に決めただけの可能性の方が高い。

大躍進政策による大惨事も、素人が口を挟むべきでないところに口を挟んだ事による大失敗な訳ですが、北朝鮮では失敗を失敗と認める事ができない、それは北朝鮮の権力構造の核心である金一族の無謬性・超越性を損なうものであるからです。

結果として、1990年代に百万人単位の餓死者を出した主要因は、ほぼ取り除かれる事なく残された。将軍様と取り巻き達は茶番と分かっていても滑稽な託宣の儀を続けるしかない。


こんな真似を建国以来延々とやってきた訳なので、様々な不具合が起きるし起きた。

社会主義経済お得意の集約工業化は経済に一定の爆発力をもたらすが、構造的に長続きはしない。

中国の例を筆頭に、社会主義経済は最終的には市場経済を受け入れざるを得なくなるものですが、今の将軍様のとうちゃんは猛反発して断固として受け入れなかった。

これは、市場経済の導入が支配の正統性を損なうものであるという恐怖からくるものでしょう。

集約工業化で一時は地上の楽園とまで喧伝されましたが、工業化の果実も国民にはほとんど還元されないので、国民は貧乏なままです。市場経済が導入され、自由化されると国民は自分達が貧乏で自分の国が他国に大きく劣っている事が誰の目にも明らかとなってしまう。

金さん一族は留学したり外遊するので他国との格差を痛烈に感じています。北朝鮮の支配層が求める嗜好品はほぼ外国から輸入(みつゆ)されたもの。

他国との格差を知った国民がどうなるか、金さん一族は実体験で知っている。

韓国ドラマを見ただけで処刑されるのは、支配の正統性が揺らぐからです。


なので、アイソレーション、エンクロージャー、鎖国、まぁ、他国と関わらせないように「したい」のですが、そうすると自分達が愉しむ嗜好品が手に入らない。ミサイルやロケット開発、軍備を揃えるにも自国だけでは賄いきれない。国民の生活などは本当にどうでもいいと思っているが、最低限の物資が無ければ国体も維持できない。

では、どうするかと言うと、他国で働かせる場合には家族を北朝鮮内に置き、事実上の人質とする。

密告を奨励し、集団にはスパイを紛れ込ませ、それを暗に示して疑心暗鬼に陥らせる事で牽制する。

などなどなど、しかし、どれだけ陰険な努力を重ねても脱北・脱走は完全にはなくならない。

金一族は国民を信用していませんが、それ以上に信用・信頼できないのが他国です。他国とは、アメリカや日本などの自由圏の事ではない。それらは最初から敵に過ぎない。

北朝鮮というか金一族にとって「信用ならない他国」とは共産圏の盟主ソ連、その流れを汲むロシア、そして宗主国とも言える中国です。

事実として、これらの国は北朝鮮を作り上げた立役者であり、当然にして金さん一族などに何の敬意も持たず、邪魔に思えば排除するでしょう。そして実際に、それに近い事件が未遂ながら起こっている。


まぁ、ソ連・ロシア、中国などにしてみれば本気でも何でもなく、精々「したっぱがあんまちょーしのんなよ?」レベルの警告に過ぎないが、金さん一族は激怒し、おそらくはそれ以上に恐怖しただろう。

中露には頼らざるを得ないが、信用できないし、どちらかの傘下に入ればもう一方から睨まれ矢面に立たされる。金王朝のプライドを保ったまま中露から支援を引き出し「少々目障りだが無いよりは有った方がマシか」というラインを綱渡りの様に辿らなければならない。

そりゃーストレスで身体壊すのも仕方ないわ。私ならアウストラロピテクスまで退化する自信(?)がある。

ギリギリの葛藤の末に辿り着いた立ち位置が、地政学的に北朝鮮の価値を最も発揮できる、韓国即ちアメリカからの防波堤即ち中国の緩衝地帯となる道。

中露は信頼できないがロシアは論外、中国なら緩衝地帯としての価値を認めている間は金一族の価値も認めるだろう。位置的にも中露の主戦場となる可能性は高くはない。これは、今の将軍様のとうちゃんの時代に固まった金家の家訓のようなものです。

物凄く端的に換言するなら「絶対にロシアを信用してはならない」これはとうちゃんのトラウマに等しく、将軍様にも叩き込まれている。


そのロシアに万を超える部隊を派兵するのは、異常な事態と言っていい。

北朝鮮にしてみれば「人」も重要な「輸出品」であるには違いないが、兵士となると次元が異なる。

これには先に触れた部分に重なるが二つの理由がある。

一つには、他国に出した人間は信用できなくなる、という事。

解説などで北朝鮮がウクライナに派兵するメリットとして金銭的なものの外に実戦経験を積ませる目的があるとするものも多いが、これには疑問符を付けざるを得ない。

仮に、ウクライナ戦争が終わり、派兵していた部隊が帰って来るとしよう。

将軍様が「よくやった!同志諸君らは英雄だ!」と迎えるだろうか?

表向きはそうするかも知れない。しかし、戻ってきた彼らが実戦経験を活かして北朝鮮で活躍するなどはあり得ない。何と言っても彼らが行ってきた(行かされた)のはロシアだ。買収とハニトラにかけては中国や北朝鮮も真っ青レベルの国。

そんな彼らを金王朝権力基盤の中核であり不安要素でもある軍に置いておけるだろうか?

少なくとも、とうちゃんなら絶対にそんな真似はしない。良くて収容所送り、普通に処刑されて終わり、となるだろう。

金さん一族にとって、ロシアと共に戦って帰ってきた彼らは英雄ではなく、ロシアに汚染された可能性のある危険分子でしかない。北朝鮮でその可能性は即ち死に繋がる。即死。


まぁ、一つ目に関しては、最初からロシア軍に使い潰させる積もりで「見舞金」込みで「輸出」した可能性も無いとは言えない。将軍様にしてみれば、他人の生命で美味い飯を食うのはいつもの事。特殊部隊とは名ばかりの栄養失調で食わすのも大変な軍人一万人がロケットに化けるなら、家訓を破ってでも、、、となったのかも知れない。

しかし、二つ目はそうもいかない。北朝鮮だけでなくロシアにも不利益となりかねない。中国との関係だ。

中国にとって、北朝鮮が韓国やアメリカと対峙している限りは金一族にもそれなりの価値がある。

それも露朝間に目に見えぬ壁、溝、隔意が有ればこそ。

 表向きはともかく、金一族は恐怖とそのプライド故に決して中露に心を開くことはない。有る意味、歴代中露トップはその関係性を地政学的に利用してきた面もある。

中露は長き国境で接しているが、両国ともに国境付近の緊張緩和には細心の注意を払ってきた。

それがいきなり核兵器を保有するロシアの息のかかった国家が中国の隣に出現すればどうなるか。

中国はかねてより北朝鮮の核に懸念を示してきた。

北朝鮮の弾道ミサイル発射施設のある東倉里(トンチャンリ)は北京から700kmしか離れていない。これは東京までの半分程度。

この意味をチンピラ皇帝や将軍様が理解していないと言う方が無理がある。


国連決議違反にはなるが、ロシアが不足している労働力として北朝鮮から人員を派遣することまでは中国も黙認するだろう。弾薬の供与もギリ許容されるだろう。それですら露朝接近に中国は明確な不快感を示していた。謂わば「ここがボーダーだ」とする意思表示。

しかし、派兵は同盟という名のロシア傘下入り、その完全履行と取られて当然の「事実」。

これを中国が看過するなどあり得ない。中国・習近平の反応は抑制されたものではあったが、それだけに明確だった。

てめーは俺を怒らせた

短期的にロシアが中国に牙を剥くなどはあり得ない、とは中国も理解はしている。経済的にも軍事的にも中国なくしてロシアは立ち行かない。北朝鮮も同様。

しかし、派兵により中国は北朝鮮の扱いを変えざるを得ない。北朝鮮がロシアに汚染された可能性が高まった、という事。

少なくとも、そう見られることがどれだけ危険で国益を損なうか理解出来ないのだろうか?

短期的利益のために中国を怒らせるなどチンピラ皇帝も将軍様も頭沸いてるとしか思えない。

まぁ、チンピラ皇帝は北朝鮮が困窮してもいい気味だくらいにしか思わないだろう。将軍様も利用されるだけ利用されていい面の皮。


ロシアは、その短期的利益として一万二千の兵士を得たと見られている。

クルスク奪還に向け、ロシアは五万の兵力を用意し、内、一万が北朝鮮兵との情報もある。

クルスク奪還には最低五万は必要と考えていたため、ロシアは最低ラインは揃えてきたと言える。

北朝鮮からの派兵にしてもそうだが、かなり無理をして捻出した戦力であるのは間違いない。

これは、トランプ再選によりロシア側に短期決戦の圧力が高まった事が大きい。

現状で停戦ラインを引け、となるとクルスクは何としても停戦までに奪還しなければチンピラ皇帝の面目に関わる。

冬季は軍事行動には厳しいが、ロシアは例によって損失上等で仕掛けている。トランプ再選はウクライナ軍に少なからぬ精神的影響を及ぼしているハズだ。正直、色々と厳しい。

ロシア軍にも余裕などはない。しかし、この冬をもたせれば勝ち、と突っ込んでくるのを止める戦力が今のウクライナ軍にも乏しい。


現状、プーチンの勝ち逃げとなる公算が高まっている。

アメリカを除くNATO諸国がどう動くか、が注目される。

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