外交的戦争終結案
外交的戦争終結案
ゼレンスキーは、バイデン、ハリスそしてトランプにウクライナ戦争の終結に向けたグランドデザインを示す、と発表した。
現状、その中身は明らかでないが、外交と経済に係る措置を含むとされている。
提示する相手がアメリカなのは、まぁ、理解出来ます。ロシアに対する圧力の中心がアメリカなのは言うまでもない話で、そのトップに決断を迫る提示内容である事は想像に難くない。
違和感を感じるのは、このタイミングでハリスとトランプにも提示するという事。両者については、来年以降どちらかが47代目アメリカ大統領となるので、一見、自然な流れに見えるかも知れないが、トランプという存在を考慮に入れると意味が違ってくるように思う。
熾烈な選挙戦が繰り広げられている現在、ハリス(バイデン)とトランプ双方から受け入れられる戦争終結案は存在しないと言っていい。というかハリス(バイデン)が受け入れ、選択する戦争終結案をトランプが散々に扱き下ろすのは確定的に明らか。
これは、ウクライナ戦争のグランドデザインをアメリカ大統領選挙の争点にしようとする試みに外ならないのではないか。
トランプは自身が大統領になれば1日でウクライナ戦争を終結させる、と豪語しています。
これは、まぁ、いつものトランプなので何の根拠も腹案も無い話でしょうが、その終結の結果を口にしないところがトランプの強かなところです。
ヴァンスなんかだと「ウクライナは勝てねーよ」とあっさり言っちゃってるんですが、トランプは選挙への影響を考えて不利になる様な事は言わない。
実のところ、ハリス陣営もウクライナ戦争に関しては明確にグランドデザインを描けていないのがウィークポイントなので、選挙戦で具体的な争点とし難い。
結果として、大統領選でウクライナ戦争は置き去りに近い状態にある。
ゼレンスキーの戦争終結案は、まさにこの事態を動かすための一手なのではないか?
このところウクライナ筋から聞こえてくる弱気な発言から「ウクライナは早々に降伏するのではないか」という懸念の声もあります。
実際、弱気になっている面は間違いなくありますが、クルスクへの越境攻撃などを見てもウクライナの戦意が折れている状態には程遠い。
よく引き合いに出される「領土割譲も無くはないよ」とかいうゼレンスキーの発言も、前提として「国民がいいって言うなら」という条件付きです。
これは即ち、「民主的手続きを経て」国民が選択したら、という意味で、まずもってそんな国民投票的なまねをするとは思えないし、そもそも、比率は上昇したもののウクライナ国民の領土割譲を許容する割合は3割程度でしかない。
私的にゼレンスキーの言葉を解釈するなら、
「国民が許してくれないから降伏できねーわ。すまんな、まだ暫くは支援よろしく」
くらいの弱気発言(?)だと思っています。
ウクライナが苦しいのは事実ですが、ロシアも国が崩壊するレベルで苦しく、兵士も足りていない事が越境攻撃で明確になりました。
ウクライナ最大のリスクは外でもなく、アメリカの政治的リスクです。これをウクライナは座して見守るしかなかった。
しかし、クルスク方面越境攻撃、そしてアメリカ大統領選挙での争点化、軍事と政治の二つの活動が相互に作用することで、事態を駆動せしめるパワーに変わるのではないか。
希望的観測である事は否定しませんが、そう考えています。




