越境攻撃
越境攻撃
ウクライナによるロシア領クルスク方面への侵攻は概ね驚きを以て受け止められています。
クルスク方面などでウクライナ軍による幾つかの奇妙な動きは観測されていたので、何らかの軍事的アクションは予想されていたのですが、私としてもここまで大きなアクションになるとは正直想定の範囲外でした。
理由は一つ、分の悪い賭けであると思えるからです。
この越境攻撃については、現状、目的と目標が明確ではありません。おそらく、目的は幾つかあると考えられますが、その内の一つに「この戦争の構造的不利の軽減」があるのは間違いないでしょう。
前稿などでも触れましたが、ロシア領攻撃を禁じられている限り、ロシア側は自領防衛に人員を割く必要がないため攻撃に集中でき、ウクライナが領土を取り返せば取り返すほど戦線を縮小して、長い前線を支えなければならないウクライナ軍には不利となる。
この構造的不利はかなりキツい。このタワーディフェンスにも似た一方的な不利はロシアが強いたものではなく、NATO、もっと言えばアメリカ、バイデンの優柔不断、厳しく言えば怯懦に起因するところに救いの無さがあります。
このため、ウクライナはロシア自由軍によるベルゴロド侵入といった裏技で不利の軽減を狙っていましたが、ロシア自由軍の活動は思っていた程の効果をもたらしませんでした。規模的に大きな影響はないと足許を見られたところもあるかと思いますが、ロシア政権上層部が面倒を嫌ってチンピラ皇帝への報告を軽いものにした可能性も高いでしょう。
ウクライナは、構造的不利を覆すことは出来ずとも、軽減することを戦略的な目的の一つとしてクルスク侵攻を遂行しています。そして、この目的においては既に一定の効果が上がっている。
つまり、プーチン激おこという事。
自分とこのシマを荒らされたチンピラ皇帝として当然ではありますが、ロシア領に攻め込んで来る事はないだろうとたかを括り、一方的に攻める積もりが逆に領土を侵された訳で、ゲラシモフらウクライナ戦争の司令部には「シマ荒らしはケジメ付けとけ、2度目はないからな?」と厳命が下っています。
ここまではウクライナ側の狙いどおりと言えるでしょう。
ロシア軍は北朝鮮などからの供給で弾は足りている様ですが、兵員に関してはかなりカツカツです。
先ず、ノーマークだったクルスク方面でウクライナ軍の侵攻を止め、占領された地域を奪還し、手薄だった国境線の防備を硬めねばなりませんが、最低でも5万の兵員が必要ですし、何よりその兵員に通例どおり行われている徴募兵を充てる事が出来ない。
プーチンは徴募兵を前線には送り込まない事を約束しており、表面上、その約束は守る体を取っているため、徴募兵の戦争参加には職業軍人への転換が必要で、軍全体で転換を推し進めている様ですが、余り捗ってはいない。
そもそも、徴集兵は軍事教練などまともにやってる訳でもないので、兵士と言ってもALS◯K(伏字になってないのだが)の警備員と大差なく、数合わせの配置ならともかく即応戦力として国境付近の戦線には置き難い。
畢竟、クルスク方面への対応はウクライナ戦線から少なからぬ兵員を引っこ抜くこととなり、ロシア軍のウクライナ戦線における攻勢は圧力を大きく低下させます。というか実際に低下しています。
問題はこの先です。
クルスク方面への侵攻部隊はチンピラ皇帝の面子をかけた反撃に曝されます。
ウクライナ側は増派と陣地構築を急いでいますが、ロシアが本気で潰しにかかると厳しい。
ウクライナにしてみれば、クルスク方面への侵攻はハルキウの電撃戦再演を図ったものであり、昨年の大反攻でやりたかった事を場所を変えて実現するものでもある訳ですが、その時とは変わらぬ不利と変わった事による不利がある。
変わらぬ不利とは、依然として航空優勢が得られていないこと。F16は届きましたが6機では足りない。侵攻を支えるには20機、後述の不利を加味するならもっと必要です。
その、変わった事による不利とは、場所がロシア領というところ。
ロシア領での戦闘は補給線の有利不利もかなり厳しいのですが、やはり航空機の自由度・航空優勢の取り易さでロシア軍が圧倒的に有利です。
ロシア領内で陣地を構築しても500kg級の滑空爆弾が相手では塹壕がクレーターに変わるだけ。下手をすると無誘導爆弾で蹂躙される可能性すらあります。
繰り返しになりますが、正直、分の悪い賭けに思えます。
侵攻による占領を維持できるなら、占領地・比較的価値の高い捕虜・チンピラ皇帝の威信失墜・ウクライナ軍作戦遂行能力の信頼度向上・国家全体の士気向上、何より構造的不利は大きく軽減され或いはクリミア奪還の目すら出てくるかも知れない。
、、、あくまで維持できるなら、です。侵攻部隊がロシア領に孤立し、捕虜となるなど現在の勝ちが一気に大負けに変わる目など幾らでも有ります。
現状オープンになっているカードでウクライナがこの賭けに勝つのは非常に困難です。
構造的不利を軽減させる火の手としてクルスク一箇所では苦しい。ロシアが全く思いもよらない所から新たな火の手が上がる、といったクリティカルな打撃が無ければ、、、
クルスクに目が向いている間にクリミアを攻撃?
無いとは言いませんが、ロシアもクリミアを留守にする程愚かではない、、、と思うし、逆に警戒を強める可能性の方が高いでしょう。知らんけど。
それに、クリミア奪還に使われると見ていた空挺部隊がクルスク方面で確認されており、ウクライナの伏せられたカードは限られています。
何か驚くように隠し玉があるのだろうか?
PS:南海トラフ地震の注意は解除されましたが、日常からの備えを怠らないように、くれぐれも。




