解禁
解禁
さて、ウクライナへのF16供与に先立ち、欧米が供与した長距離ミサイルなどによるロシア領内への攻撃が解禁されました。
この決断は余りに遅すぎて無念の想いに駆られますが、改めるに及くはなし、歓迎すべきでしょう。
戦争に勝つ第一歩は戦闘における勝利ですが、兵站が機能している限り戦闘は終わりません。
換言するなら、戦争≠戦闘を終わらせるには、政治的・軍事的に相手の兵站を機能不全にする必要がある。
ロシアへの経済制裁は兵站の大元である経済を締め上げ、部品供給を断つ事が目的であり、一定程度、少なくとも巷で思われている以上には、ロシアと戦場に効果を及ぼしていますが、いかんせん抜け穴などが大き過ぎて戦争終結には至らない。
であるなら、ウクライナ軍がすべきは、戦場における勝利以上にロシア軍兵站へ戦略的打撃を加える事です。
そういう意味で、昨年のウクライナ軍の大反攻は、シンボリックな勝利を目指すものではなく、ロシア軍兵站線の分断という戦略性の強いものでした。
まぁ、それ故にウクライナ軍の目標は始まる前からモロバレだった訳ですが。
この戦争の最序盤、ロシア軍の兵站はお粗末極まりないものでした。
60kmにも及ぶ車列が立ち往生する無様さは、泥濘で云々などと言い訳にもなりません。兵站などは現地の気候や道路の状況を基に計画するのが基本以前の話であるからです。
しかし、コレはまぁ、将官の怠慢と断ずるのも少々違うでしょう。結局のところ、FSBの甘過ぎる未来図にうかうかと乗ってしまったチンピラ皇帝の不徳が失敗の根本的原因です。
この兵站の失敗はかなり後々まで尾を引きます。
ベラルーシを介した北部、ドンバス制圧を目指す東部、陸海両面から侵攻する南部、の三方向からの攻勢は兵站的にも無理があり、反撃を食らうと弾薬切れなどで装備を放棄しての壊走、というパターンが数多く確認されています。
ハイマースによる前線に近い弾薬集積所の痛打も、集積地を射程外へ退避させた事により兵站の負担を重くしています。
ロシア軍兵站に改善が見られたのは、ロシア軍が東部に集中するようになり、カホフカ水力発電所を破壊することでドンバスへ更に集中する事が可能となった辺り。
この頃になると、ロシア軍は物資や司令部施設などを前線から距離をとらせる様になり、150km以遠に対する攻撃手段に乏しいウクライナ軍は、若干手詰まり気味になります。
集積地が後退する事には充分以上の意義がありますが、この辺からロシア側の航空戦力が損害前提の攻撃を仕掛けてくる様になります。
ウクライナ軍は相当数のロシア側航空機を撃墜していますが、やはり前線だけでなく後方の航空基地や策源地を叩かなければ事態を好転させるには弱い。
このフェーズになると長距離攻撃手段抜きで航空機相手に出来る事は防戦が中心となり、攻防のイニシアティブを握られた状態。
長距離攻撃手段が無い訳ではない。
しかし、ロシアとて貴重な航空戦力をウクライナの手が易々と届くところに置く様な真似はしない、、、と言い切れないのがラシアンクオリティですが、、、ヘリなど航続距離の都合上、比較的前線付近に置かなければならない装備を除き、航空機や策源地などの重要施設などはウクライナが「手を出せないところ」に置きます。
開戦当初はベラルーシなどにも安全地帯よろしく装備や兵員をこれ見よがしに駐屯させていましたが、戦闘の中心がドンバスに移ってからはアゾフ海東岸域やルハンシクに接するロシア領に拠点を構える様になりました。
こうなると、ロシア領内に対しては、ウクライナ製兵器や特殊部隊によるサボタージュくらいしか攻撃手段のないウクライナ側は、更に打てる手が限られる事となります。
繰り返し言ってきた事ですが、こんな戦争のやり方があるか!馬鹿なのか?(褒め言葉に非ず)
戦争において、相手方領内を攻撃出来ないという事がどれほどの理不尽かは、これまで散々言ってきた通りです。イニシアティブを相手に握らせた上で戦術的勝利を積み上げて戦争に勝てと言っているに等しい。
エスカレーションを防ぐ、という意図は理解できます。しかし、根本的に的外れと言わざるを得ないし、プーチンという政治家にあらぬチンピラの扱いとして間違っている。
残念極まり無い結論ですが、マフィア国家の専横を抑止するのは理解でも譲歩でもなく力、毅然とした行動しかない、、、としか言いようが無い。アメリカはキューバ危機などでそれを証明して見せたではないか。
B52を持ち出せという話ではないし、緊張を高める必要すらない、チンピラの脅しなどには屈しないと示すだけの事です。
まぁ、それがどれだけ難しい事かは、多少なりとは理解しているのですが、、、何はともあれロシア領内への攻撃は解禁となりました。
解禁後に叩くべきポイントは幾つか挙げられますが、エイタクムスなどの数がまだ揃ってない。正直、時間が残されていないと感じます。
フランスの状況を見るに政治的リスクは上昇の一途。イギリスもヤヴァい。アメリカの予算、F16の供与、ロシア領攻撃の解禁が3ヶ月早ければなぁ、と益体もない事ばかり考えてしまう。
日本も他国の事は言えませんが、西側の主要な政権が軒並み倒れそうでコワイ。多分、ゼレンスキーも似たような事を思っているでしょう。
対するロシアは専制国家による枢軸固めに邁進している、、、が、喧伝されているほどの成功には程遠い。
プーチンの北朝鮮訪問は、歴史的レベルの親密さを示すものと北朝鮮などは主張していますが、空港への到着のタイミングから既にプーチン流チンピラマウント術丸出しで「友好」ではなくマウンティングの場と化していました。
結ばれた条約の内容も、踊る言葉とは裏腹に中身のない多分に精神論的なもの。北朝鮮での滞在も「長居は無用」とばかりにさっさと切り上げ、次の訪問地ベトナムに向かっています。
プーチンは、完全に北朝鮮と将軍様を格下扱いしており、昨年見られた様な破格の扱いなど無かったかの如く振る舞っています。
実のところ、訪朝・訪ベトナムの動きには違和感がありますが、それ以外にもイランとの接近・キューバへ艦艇寄港など動いています。
ただし、言っているように、これが専制国家群の結束に繋がるかと言えば、明らかに上手くいっていない、と評価できます。
露朝間の隙間風は酷くなっているし、ベトナムなどもロシアの窮状に利を得ようとする意図が透けています。これも、結局のところチンピラ皇帝から滲み出る「上から目線」感に原因があります。
プーチンは表面上はそれなりの態度で臨むものの、将軍様への扱いを見れば分かる様に他の専制国家群を格下扱いしています。ウクライナ戦争の前までは中国に対してすら同様でした。
旧ソ連が共産圏専制国家群の盟主たり得たのは、イデオロギーの原点であった事以上にソ連による経済的・軍事的支援が無ければ国家として立ち行かない国ばかりだったからです。
北朝鮮も事実上ソ連が立ち上げた国ではありますが、それを訪問の場で言ってのけるのは相手の神経を逆撫でする行為に他ならない。
ロシアは経済力・軍事力、その他もろもろの面で旧ソ連ほどの影響力を持たないにも関わらず、未だ盟主であるかの様に振る舞い、反感と失笑を買っている。
中国などはプーチンの訪朝・訪ベトナムの動きを牽制し、不快感を示してすらいた。
この辺り、ぶっちゃけチンピラ皇帝の増長から来る失策とすら言える。
西側がポリティカルディバイドの危機にあるなら、専制国家群はプーチン自ら結束にヒビを入れている。
どちらも相手の敵失に付け込めていない、なんなんこのグダグダっぷり。
とは言え、政治的リスクは西側の方が厳しい。
ロシア領内攻撃が解禁され、間も無くF16も来る。
戦果を示さねばならない時が来ている。




