要人
要人
なんなんもう、、、、、、
不謹慎極まりない話ですが、イランのライシ大統領らの乗ったヘリが墜落、とする一報に接し最初に漏れた言葉がコレ。
スロバキアの首相銃撃に続いてイランの大統領機墜落て、、、インドでは選挙の真っ最中だというのに、、、この時点では生死は未確認でしたが、程なく同乗の外相を含め搭乗者全員の死亡が伝えられました。
requiescat in pace
墜落直後から、イラン国内外を問わず、様々な憶測が飛び交いました。
まぁ、致し方ない話ではあります。世界的関心事であるイスラエルとハマスの争いに関係の深いイランの大統領が生死不明となったのですから。
私も、航空機事故の例から見て生存の可能性は低い、墜落の原因は伝え聞く限りでは悪天候による空間失調、、、と思われる。謀殺などの可能性は低いのではないか。現状、中東情勢に短期的な影響は少ないが中期的には余り好ましくない影響が出そう、と評価しました。
人の生死を評価するなど因果な話ですが、補足を兼ねてブレイクダウンしましょう。
生死は既に伝えられる所のため端折りますが、墜落原因は正直よく分からない。イランという国はロシアと同じく公式発表からしてフェイクニュースじみていて信頼性に欠けるところがある。
イランは早々に墜落を事故と断じました。即ち謀殺などではないとして流言飛語の類いに釘を刺したのでしょう。後述しますが私も謀殺など人為的な墜落とは考え難いと思っています。
では、大統領ら要人を乗せたヘリは何故墜ちたか?
航空機は不安定で流動的な大気に支えられた乗り物であり、天候の影響を非常に強く受けます。
これは航空機自体の話に限らず操縦するパイロットも同様。計器や航法装置が発達しても、基本は有視界飛行、即ち、自機の方向、速度、姿勢、高度と他機との位置関係を地形などから視覚的に把握して機体を操縦する。法律にもそう書いてある。
当然、有視界飛行といえど速度計や水平儀、高度計なども併用しますが、周囲の状況をパイロットが目で見て操縦するのが基本です。逆に言えば、視覚情報量の低下する夜間や雲中、濃霧などでは計器に頼らざるを得ず、計器飛行を行うこととなります。
計器飛行はパイロットには必須に近い技能ですが、情報量が低下するため難度が高くリスクが増加することから、避けられる状況下なら避けるのが基本です。
計器飛行時に増加するリスクの中でもクリティカルなものの一つが空間失調になります。ロクマルの稿で「雲量が少なく視界が確保され、複雑な機動を行っていない」のが空間失調の可能性が低いとした理由ですが、計器飛行時には真逆の状態となる。
人は視覚情報に大きく依存しています。目を閉じた状態では片足立ちも長くは続けられない。三半規管による平衡感覚や身体情報だけでは視覚情報を補いきれないからです。
それでも、目を閉じても上下の感覚は比較的掴みやすい。身体各部に感じる重さから重力の方向を把握できるためです。しかし、それは静止しているなどの一定の条件下でのことです。
航空機を一定の速度で真っ直ぐ飛ばしているだけなら問題となる可能性は低い、が、当然ながらそういう訳にもいきません。加減速に左右旋回、上昇下降、航空機の機動により人体には様々なGが掛かり、Gと重力の合力方向を人体は下方と錯覚します。加えて、航空機は姿勢変化も大きく、上下の感覚を容易に奪ってしまう。
本来なら、人はそこで視覚情報を基に感覚を補正しますが、夜間の暗闇や悪天候のホワイトアウトは視覚情報量を著しく低下させる。
そこで水平儀などのインジケータで自機の状態と感覚を擦り合わせられれば良いのですが、人は想像以上に感覚に引き摺られ易く、混乱して自機の状態を把握できなくなってしまう。
これが空間失調の起きる基本的なメカニズムです。
航空機の操縦において、空間失調は重大事故に繋がりかねない極めて危険な状態です。そんな話は航空関係者には分かりきった事で、悪天候下での航空機運用は慎重に慎重を重ねるもの。
、、、ここが違和感のあるとこですね。
ヘリの飛行目的は公共工事関係の式典出席となっています。イランのNo.2である大統領が、悪天候を押してまで出席しなきゃならんものか?ヘリを使用しているところを見るに交通の便のあまり良くない場所の様で、尚更天候を理由に順延等しても良いように思う。
天候が急変したのかも知れませんが、そもそも中東は乾燥傾向にある地域で、夏場は特に降雨量が減少します。イランもご多分に漏れず乾燥しているハズで、6月というと梅雨など湿潤傾向にある日本などとは状況が大分異なります。
墜落地点周辺の地形等が頭に入っている訳でもないので確かな事は言えませんが、どうにも違和感が仕事し過ぎて気持ち悪い。
まぁ、イランが公的に事故と発表した以上、違和感が妄想以外に変わる可能性はほぼ有りません。
また、乾燥傾向にある地域性から悪天候を軽視してヘリに要人乗せて空間失調で墜落、が可能性として最も高いのも事実ではあるのです。
墜落の事後処理はイランの仕事であり、日本には関係ない。墜落の事実を他山の石とする以上の必要もありません。
さて、ライシ氏が要人(very important person)である事は言うまでもないでしょう。
大統領職は政治家の頂点ではありますが、イランでは、その上に宗教指導者が存在するためNo.2の位置付けになります。憲法にもそう書いてある。
即ち、イランではイスラム教シーア派の最高指導者が国家の頂点にあり、大統領は宗教指導者の意思の執行者であるわけです。
中東の現状に関わるキーマンの一人であるライシ氏の死が憶測を呼ぶのは当然です。
イランが敵対するイスラエル、そしてアメリカの関与が疑われるのも、まぁ、仕方のない話ではありますが、政治的・軍事的に見れば、その可能性はほぼ無い、と断じて良いでしょう。
イランという国はイスラエルやアメリカと敵対しており、それは利害関係などでは無く宗教的なものであり、回避は、まぁ、不可能と言っていい。
だからといってイスラエルやアメリカがイランの要人を謀殺する必要があるかと言えば、少なくとも現状においてそんなものは有りません。
イランは昨年のハマスによる大規模攻撃以降、一貫して同じメッセージを発しています。即ち「中東戦争は望まない」明言こそしていないが、その意図は明らかです。
イランは現状に大いに満足しています。大規模攻撃を受けたイスラエルは赤っ恥をかき、ガザに侵攻して世界中から反感を買い、最大の支援国であるアメリカ国内でも反発する層が増えている。
もはや「可哀想なユダヤ人」ではなく虐殺側としてICCからネタニヤフらに逮捕状まで出ている。イランにとって最大の危機とも言えたイスラエルとサウジアラビアの同盟も立ち消えになった。イスラエルがハマス壊滅を掲げてガザを攻撃しても、現実はハマスを育て、アラブ・イスラム世界に反イスラエル、引いては反アメリカの芽を根付かせる、戦略無き戦闘に過ぎない。
イランはイスラエルの敵失行為を笑って見ていればいい。
表面上、イランが強硬な態度を見せていても、国軍と革命防衛隊に大規模な戦闘の準備が行われている動きは認められない。幾つかの軍事活動も報復のパフォーマンスと強硬勢力のガス抜きに過ぎない。
外交が、笑顔で握手するテーブルの下で互いに蹴り合うものであるのと同様に、牙を剥き唸り声を上げる関係にあっても、水面下では握る手を模索するのが準戦時下の習いというものです。
イランがアメリカと決定的な敵対関係になるにしても、それは今ではない。それがイラン最高指導者ハメネイ師の方針と考えて良い。
これがアメリカとイスラエルの利益に合致する以上、謀殺などという裏技は必要がない。一部の跳ねっ返りの仕業という線も、これまでの経過を見る限り無いと言えるでしょう。
跳ねっ返りという事であれば、、、イスラエル側ではなく、イラン内部からなら無いとも限りません。まぁ、跳ねっ返りというか後継者争いでしょうかね。
現状は妄想でしかありませんが、事実として、後継者争いに絡む謀殺は専制国家では珍しい事ではない。イランにおいても暗殺が明るみとなった実例があります。後継者争いとは少し違いますが、金王朝の第一王子が毒殺されたのも根っこは同じです。
イスラム教のスンニ派とシーア派も後継者争いによって別れたものです。この1300年以上前の宗教的後継者争いでも多くの死者が出ていますが、その影響は延々と続き、今なお流血の争いを生んでいます。
イランの最高権力者であるハメネイ師は大統領職を経て先代のホメイニ師の跡を継ぎました。
ライシ氏も80歳を越えるハメネイ師の有力な後継者候補でしたが、その死により幾つかの事態が流動化するでしょう。イランは一枚岩には程遠い国家ですが、ハメネイ師が健在な内は急激に変化する可能性は低い。
しかし、イランの大統領選挙の結果によっては、後継者争いが顕在化し、中東問題を危険な方向に巻き込む可能性を否定できない。
イランは一応共和制を敷いており、大統領は選挙により選出されますが、大統領選に出るには、事実上、最高指導者であるハメネイ師の承認が必要です。
当面はハメネイ路線が継承されるが、中期的に見ると変化せざるを得ない様に思える。それが現状よりマシかと言われると正直疑わしい。
はぁ、もうマジでなんなん?
インドの選挙はともかく、アメリカ大統領選だけで吐きそうなのにイランの大統領選?
ヘリ墜落の報で気が遠くなって、気がつけば一週間とかあっという間に吹き飛んでたんだが。
違和感に仕事代わってもらいたい、マジで!(泣き言)




