コストカッター
コストカッター
ショイグの後任となる新国防相に前第一副首相のベロウソフが指名されています。
ショイグの安全保障会議書記への異動には、先月、側近である国防次官が収賄容疑で逮捕された事が影響しているのではないかとする見方があります。
しかし、おそらくは順序が違う。
側近が逮捕されたからショイグが異動或いは更迭されたのではなく、国防相にベロウソフが就任するに当たり国防省幹部が逮捕されたのでしょう。
どういう事か説明する前に、ロシアで収賄などは罪であって罪ではない事を理解していただく必要があります。
親玉のプーチンからして、どれだけの国富がそのポッケに流れ込んでいるのか計り知れない。賄賂や横領などやってて当たり前の世界で、公然の秘密どころか公然の事実でしかない。当然、ショイグもベロウソフも多かれ少なかれ無縁ではない。
この様な世界では、収賄で逮捕されるのではなく、全く別の理由で収賄を口実に逮捕される。
では、逮捕された理由とは何か?
端的に言えば警告と見せしめと考えられます。
今回、ベロウソフが国防相に選ばれた理由は割と明確で、国防費のコストカットにあります。
ロシアはウクライナ戦争で膨大な量の装備を失い、今後も損失拡大は避けられません。従前の2倍に膨れ上がった国防費は一時的なものではなく、最低でも10年は続きます。
ロシアは、チンピラ皇帝が景気よくブチ上げたウクライナ戦争の死傷兵やその家族などに対する保障その他諸々で大増税が避けられません。
そこで必要となるのが国防費のコストカットで、しかし単に国防費をケチったのでは戦力の低下に繋がりますが、良いのか悪いのか、ロシアにはカットしても直接的には戦力に影響しないコストが相当な額にのぼる。
例えば、榴弾砲を製造するのに係るコストが100としましょう。
通常の調達価格が110のところ、150とし、軍の高官が30、武器商人が20と利益を水増しして山分けする。これがロシアでは当たり前に行われていて高コスト化します。
ロシアは、戦時経済となった事で武器の調達価格を国側が自由に決められる法律が制定されています。しかし、こういう時ほど賄賂が横行するのがロシア、というか、まぁ、ソ連時代からの伝統というものです。
先程の例では通常の調達価格110を102くらいまで減額しようとするのが本来の法律制定の目的なのですが、減額すべき国側の軍の高官がグルになっているのだから上手く行くハズがない。
精々、価格150の榴弾砲を140まで下げさせました、として利益の大半は温存したことでしょう。
この2年余りの戦争は軍事ブロックを大いに潤したと考えられます。
繰り返しになりますが、コレは隠そうとする意思が有るのか疑問に思うほど公然の事実です。GDPの4割をマフィア経済が占めると言われる所以でもあります。国富を私物化するマフィアに支配されているのがロシアという国。
(オリガルヒは)皆んなやってる収賄や横領なので、お咎めなどあるハズがない。逮捕されたティムール君もそう思っていたでしょう。
チンピラ皇帝としても、一旦切り分けた肉、即ち与えた利権を取り上げたうえに逮捕までするのは沽券に関わるというものですが、そうも言ってられなくなったという事です。
2倍の国防費は現状のロシアでは限界に近い、しかし、損失は膨らむばかりで、このままでは戦力の低下に直結する。ならば削れるところを削るしかない、というのは至極真っ当な話ではありますが、軍という暴力機構、それも戦争やってる真っ最中に利権構造を破壊しなければならない。想像以上の難事であることは間違いありません。或いは、この人事はチンピラ皇帝の5期どころか6期目までも見据えた長期的改革と見るべきかも知れません。
そのための経済系テクノクラートの登用、そして表向きはともかく裏では激しく抵抗するであろう軍閥系赤い貴族に対し、抵抗するなという警告と抵抗すればこうなるという見せしめとして、ティムール君は逮捕されちゃったんでしょう。
穿った見方をするなら、ティムール君はショイグに生贄として差し出された可能性すらある。安全保障会議書記は名誉職に近いとは言え有形無形の影響力を有するため、側近から逮捕者を出し、戦争で成果を示すことができなかったショイグには破格とも言えます。何より、プーチンのショイグに対する態度は、更迭される無能へのソレではなく、苦労をかけた子分への労いが見て取れます。
ロシアは戦争に対応するため、山賊集団から近代的軍団への転換を図ろうとしている。
実際問題として、ベロウソフにはコストカッターとしての実績と知見があります。或いは、リベートに留まらずコスト部分にも切り込んで100のコストを70までカットする事すら可能かも知れません。
成功すれば、ロシア軍は生産能力はさておき調達コストを大きく下げる事ができます。短期的な戦闘能力に直結するものでは無いが、中長期的継戦能力という意味ではかなりの効果があると考えられる。
しかし、、、そう上手く行くかなぁ、というのが個人の感想です。
実のところ、ロシア軍の近代化はプーチンが色々と手を付けていて、ほぼ失敗に終わっている。
ソ連どころか帝政ロシア時代からの伝統とも言える山賊集団に等しい軍隊構成とマフィア利権の塊と化した装備調達は、権力者プーチンでも改革がならなかったのです。
まぁ、ロシア軍が山賊集団なのは人件費の都合にしろ、利権構造を切り崩せないのはボス自身がマフィアなんだから仕方ねーだろ、とおもいますまる
兵站の標準化なども山賊集団が相手では容易にできる事でもないし、少なくとも数ヶ月程度の短いスパンではベロウソフ登用による大きな変化は無い、そう判断します。




