全方位戦争その1
全方位戦争その1
ウクライナ戦争は3年目に突入し、色々とややこしくなっています。
この辺で一度、この戦争の現在地についてダラダラ述べていきたいと思います。
その1にしているのは前回ので懲りた(?)からです。その2が出せるのか何時出るのか分からんところがアレなんですけどね。
だっていそがしいんだもん(←キメェおっさんの嘆き)。
お気付きかも知れませんが、内容に結構なタイムラグがあるので、見直しもしてはいるんですけどアレッ?と思っても許していただきたい。
ウクライナ戦争は陸海空、全ての戦域で戦闘が繰り広げられています。
無論、情報戦などの不可視の戦域も激戦の状況が伝わってきています。
しかし、先ずは戦争の原資たる経済の話です。ロシアのマクロ経済の話。
一部には、2023年のロシアGDPが速報値でプラス3.6%との発表から「ロシア経済は欧米の経済制裁にも耐えて堅調」とする見方もありますが、んなこたーない。
ロシアの統計局が発表するお手盛り統計に信憑性が薄い(IMFの数値も基礎データは国家が提供したもの)のは元より、事実上の戦時経済で、生産された財がすぐさま戦場に注ぎ込まれ、スクラップや灰燼となる状態ではGDPの増加など空虚な数字に過ぎない。
これまでのロシアが曲がりなりにも経済成長を遂げられた背景には、大別して三つの要因があります。
これまでの話のお浚いになりますが、ざっと説明していきましょう。
一つには、言うまでもなく石油やガスなどのエネルギーマネー。1960年代から発見・開発が相次いだシベリア油田は、冷戦期にあっても「善きエネルギー資源供給者」としての地位を築き、ソ連そしてロシアを潤してきました。
二つ目は、軍事費の削減。ソ連時代、最大でGDPの6割に達していた軍事費は、ソ連崩壊に伴うソ連軍解体、ロシア軍編成により大きく縮小されています。
ある意味、安全保障を国際社会と共有し、身の丈に合った規模の軍事費となった事で余剰生産兵器を輸出に回し、公共投資に注ぎ込む余裕もできました。
三つ目は自由経済の導入です。日米を含め、西側諸国からの民間投資はソ連崩壊で混乱したロシア経済を立ち直らせる大きな力となりました。
そもそも、西側の技術や投資が無ければ油田やガスの開発すら思うようには行かなかったでしょう。
共産カルトの狂信者がどれほどオカルトじみた論理で否定しようと、自由化が経済に与えるメリットの巨大さは論を俟たない。
自由貿易のメリットは小学生でも理解出来るほどの数理モデルで証明できます。ロシアが20年余りの時間をかけてもWTO加盟を果たしたのは自由貿易のメリットを享受するため。
その自由化への筋道を付けたのはゴルバチョフです。激痛を伴う荒療治となったグラスノスチ・ペレストロイカは西側諸国にソ連の変革を信じさせるに足るものでした。ロシアでの人気は低いとされています(チンピラ皇帝が嫌っているのも大きい)が、ゴルバチョフによる自由化への舵取りが無ければロシアはBRICsどころかデカいだけの北朝鮮だったでしょう。
思えば、ペレストロイカによる自由化の象徴とも言えるマクドナルドのマスクヴァ店開店は1990年。30年余りにわたってロシア国民に親しまれ、溶け込んだマクドナルドもチンピラ皇帝の独りよがりによりロシアから失われました。
マクドナルドの撤退はファストフードチェーンが一つ消えた、という話ではない。
ロシア経済をドライブしてきた柱の一つが危うい状況にある事を端的に象徴しているのです。
残る二つも同様。
エネルギーマネーは禁輸措置と価格制限により高コストを吸収するのに四苦八苦しています。収入額が増えているのは安く買い叩かれているのを量でカバーしているだけで、ウハウハ言ってるのはインドくらいのものです。
何より、西側諸国は、ロシアというマフィア国家にエネルギー資源を依存するリスクから目を逸らすことが許されなくなった。もはや「善きエネルギー資源供給者」の信用は失われ、仮にプーチンが権力の座から退いたとしても回復する可能性は極めて低い。
軍事費は2倍に膨れ上がり、ロシアの予算の1/3を占める規模となった。この2倍という数値も控えめな見積もりで、ロシアという国はソ連の時代から軍事費を他の予算に紛れ込ます手を恒常的にやっているので、実態はもっと膨れ上がるでしょう。ロシア国民福祉基金の流動性低下はその一例です。
ロシアは2倍の軍事費を10年は続けなければ軍事力を回復出来ないと言いましたが、その試算時よりロシアの損失は大幅に増大しています。
特に、この2ヶ月余りの海上艦艇や航空戦力の損失はロシア軍を著しく削り取った。
装備は輸出どころかバイバックまでやってる始末。ここまでウクライナ戦争にのめり込めるのは、皮肉と言うか笑っちまう話ですが、プーチンがある意味で国際社会を信頼しているからです。「NATOとの戦争だ」などと嘯きつつも兵力と装備の大半をウクライナに注ぎ込んでいられるのは「どうせ西側諸国が攻め込んで来たりはしない」とたかを括っているからです。
実際、その通りでしょう。最初からNATO・西側諸国にロシアと戦争するメリットなど無い。ロシアの軍事大国という化けの皮が剥がれ、1/10の経済規模しかないウクライナに苦戦して弱体化しようとも戦国時代じゃないんです。弱ってる時に叩け、なんて時代じゃない。
しかし、普通の「国」はやらなくとも「民族」や「宗教」はそうとは限らない。ロシアという馬鹿でかい国が抱える民族的・宗教的歪みはプーチンの様な強権的支配者の下では根深く進行し、暴発する隙を窺うものです。先日のロシアにおけるイスラミックステートの大規模テロはそういった歪みの顕在化とも考えられます。まぁ、あれはロシアの偽旗作戦である可能性も高いのですが、ロシアが分裂する嚆矢とも囁かれています。
何れにせよ、ロシアは国体を維持するため、今後も長期にわたって莫大な軍事費を費やさなければならなくなった。
これらの全ては、言うまでもなくチンピラ皇帝がぶち壊しにしたものです。そもそも、三つの要因を見れば分かる様に、ソ連崩壊からロシアが立ち上がれたのはプーチンの功績でも何でもない。手前味噌ではありますが、ソ連崩壊時に日本がロシアに送った支援の方がチンピラ皇帝よりずっとロシアを豊かにしたと言っても間違いではないと思います。
「強い支配者」とは単に強い権力を握っているに過ぎず、優れているか否かは関係ない。北の将軍様は国内において無制限とも言える権力を握る「強い支配者」ではありますが、親族を含め拙さや幼稚さの目立つ、親の七光で登極した支配者でしかありません。
それ故に「強い支配者」ほどファンタジーに等しい「選挙」や「血統」を喧伝して支配の正統性を主張するものです。
プーチンは、ロシア経済の強さをアピールして支配の正統性を強化しようとしていますが、ロシア経済は現状においても、中長期的に見ても真っ暗です。
現状、軍事ブロックと建設関連、それも公共部門しか動きが見られない。人材不足が企業の大きな足枷となる上に増税が追い討ちをかける。既に企業倒産の増加がロシアでは顕在化しています。
いみじくも、レーニンが言ったとされる「通貨の堕落」がロシアで現在進行形で起きているのです。
これに対処するには、ナビウリナ総裁が幾ら優秀でもロシアだけでは無理です。というか、大統領選後の新体制でナビウリナが残るかも分からない。プーチンは「強く」慰留するでしょうが、、、
通貨の堕落、即ち、インフレーションに対する圧力は要素的に避けようがない。
ルーブルの下落は、そういったロシア経済の凋落に対する国際社会の評価を示すものです。大統領選後、プーチン再選に花を添える意図でしょう、僅かばかりルーブルが持ち直しましたが、長続きはしません(笑)でした。
結果論ではありますがプーチンは国を損なう無能な皇帝となりました。




