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人道回廊

人道回廊


マリウポリは、今、どうなっているのか。

戦闘激化する東部域の民間人は?

南部域は戦線が拡大するのか。


状況はアップデートが続いています。

マリウポリについてロシアは完全制圧と発表し、ウクライナやアメリカは否定しています。


アゾフスタリ製鉄所の地下施設には、アゾフ大隊数百名と民間人千名程度が立て籠り、抵抗を続けているようで、「完全」とは言い難いものの、ほぼほぼ制圧された状況です。外部からの救援が無ければ、糧食が尽きるまで立て篭り、その後降伏、という選択肢しか彼らにはありません。


ここで、マリウポリに人道回廊が設定された。

とする報道があり、おお!と一縷の望みを持つと同時に、人道回廊とは名ばかりのアカンやつだろうと考えていました。


結果は、まぁ、嬉しくも無い予想の通り。ウクライナ側の車両はほとんど使用されず、ロシアのZマークを付けた車両が、避難者をロシア側に運んで行ったもよう。

それでも百名弱の避難民がウクライナ側に避難出来たのは不幸中の幸いです。


知人らとウクライナ戦争に関連したディスカッションを行う中で「なぜプーチンは人道回廊の設定を認めないのか」という疑問を提示されました。

戦争遂行に民間人は邪魔で、民兵化されても困るし、人道回廊で退去させた方がトータルで見れば手間が掛からない。

というのが疑問の前提に有ります。現代の通常の戦争であればその通りです。

民間人への無用な加害行為は戦争犯罪として国際的に批難され、やってることを認めれば国内からも反発は避けられません。民間人であっても武器を持てば脅威となりますし、生きている以上は一定の活動を認めねばならず、監視・警戒など様々な負担が生じます。


第10部あたりで書いたように、人道回廊の設定が認められる可能性がほぼないとする理由は幾つか有りますが、結局はウクライナ戦争の目的がウクライナ解体である事に行き着く、そう考えています。


何度も同じ話になって恐縮ですが、開戦時からプーチンの戦争目的はウクライナ解体と考えていました。ただし、それは「民主主義国家」ウクライナの消滅に留まる。とする甘い認識でした。

なぜなら、一般のロシア人にとってウクライナ人は「喧嘩することもあるが隣りに住んでる兄弟」といった存在だからです。ウクライナ人にもそう考える人は一定数いたでしょう。


しかし、ブチャなどの惨状が示すものは、明らかにソレが組織的な意思の下に実行されている。という事であり、偶発的で不幸な結果などでは無く、戦争の目的だと認識を改めさせられました。


プーチンの考えるウクライナ解体は、国家としてのウクライナ消滅などという中途半端なものでは無く、ウクライナ人としてのアイデンティティ破壊まで踏み込んだ民族浄化闘争という事です。


顧みれば、ロシアによるウクライナ解体は、ソ連の時代、スターリンが既に一度実行していた事でした。

百年ほど前、工業化を目指す共産党政権下のソ連において、農民は食糧生産者であり、食糧輸出による外貨獲得手段でもあったが、多分にクレムリンに反抗的で反乱を頻繁に起こしていました。

まぁ、ボリシェビキは内戦ばっかやって国内を疲弊させた挙句、餓死者が出るほど食糧を徴発するのだから当たり前の話です。

反乱に対する弾圧は徹底的でしたが、スターリンが政権を握ると「反乱」に対する弾圧から「農民」に対する弾圧へと変化します。


当然ながら農民側は弾圧に抵抗するのですが、スターリンは更なる弾圧で押さえ込みます。

そのターゲットとなったのが、ソ連最大の穀倉地帯であるウクライナです。

スターリンはウクライナの農民を民族主義的として糾弾し、反革命分子扱いしました。

農民を社会主義国家に組み込む政策としてコルホーズ・ソフホーズ体制が実施された上、食糧の徴発は苛烈を極め、抵抗すれば死刑やシベリア送り。農民からの徴発は戦争である、とされ、共産党員であっても苛烈な徴発に異をとなえることは赦されませんでした。


ウクライナはホロモドールに陥り、数百万から一千万人に達する餓死者が発生したほか、ウクライナの共産党員すら粛清されました。

死刑という名の虐殺、シベリア強制連行、ロシア人の移住、暴行の果ての殺害、強姦、ロシア文化の強制とウクライナ文化の排除、子供には赤化教育などなど、十年余りにわたって民族浄化の定番をやり尽くし、被害の全容は計り知れません。


プーチンを小粒なスターリンと評し、ソシオパス気質と認識していながら、エスニッククレンジング(民族浄化)については、残酷などというレベルを逸脱しており、21世紀にその様な事が起きるハズが無いと、無意識に思考から排除していたように思います。


ウクライナ側が、被害を過大に報じている側面はあるでしょう。しかし、戦域規模を考えれば、ウクライナ側が把握できていない被害の方が多大である事は確実です。

7部でも述べたように、ロシア側に連行された非戦闘員の返還。西側へ人道回廊を設定すること。

この二つを、第三国を交え、世界を味方に付けるなどあらゆる手段を駆使して要求していく。効果が望み薄であろうとも、やらない理由にはなりません。ロシア制圧下地域からの人道回廊設定はほぼ不可能でも、ウクライナ側の前線付近からの人道回廊なら、まだ可能性はある。


東部域の戦線の長さを見るに、当面、一進一退の状態が続き、戦略的に一時放棄せざるを得ない拠点もあるでしょう。民間人は半強制的にでも退去させ、特に女性や子供は優先的にそうすべきです。人道回廊が設定できれば、赤十字なども協力できるでしょう。


また、南部域の戦線がオデーサに及び、隣国モルドバまで侵攻するのでは、とする懸念が広まっています。

ロシアとして、ウクライナから黒海を封鎖するインセンティブは存在しますが、現状のロシア軍にはその能力が無いでしょう。牽制の目的でミサイルなどによる攻撃は続くと思いますが、モスクワ沈没に伴う黒海艦隊の後退により、地上部隊が制圧目的で侵攻する可能性は更に低下しています。


現在、懸念されるべきは、ロシア側に連行された非戦闘員が、何処で、どの様な扱いを受けているか、です。

ロシア側のプロパガンダに利用されるくらいならマシな部類でしょう。

現代のシベリア強制収容所、ロシア版新疆ウイグル自治区強制収容所となる可能性が高い。


繰り返します。非戦闘員の返還、人道回廊の設定。この二つが必要です。

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