輸送機撃墜、、、
輸送機撃墜、、、
ロシア軍の早期警戒管制機撃墜に続き、輸送機撃墜の報が入ってきました。
しかし、今回の撃墜は早期警戒管制機とは全く別の意味で影響が残りそうです。
撃墜された輸送機には捕虜交換のためのウクライナ兵士六十余名が搭乗していた、とロシアが主張しているからです。
輸送機撃墜はともかく、捕虜交換要員を乗せていた、と聞いて、先ず思ったのは
「やりやがったなコイツら、、、」
前稿で触れた様に、早期警戒管制機を撃墜されたのはロシア軍の超大失態なわけです。
ウクライナ軍の手が届かないとこで飛ばすべきものを、その間合いを見誤っていた。
前線付近に突っ込む戦闘機や攻撃機と後方で遊弋する指揮管制機ではミサイルなどの回避能力に大きな差異があるので、キルゾーンの範囲も異なってきます。
ロシア軍は、この指揮管制機が踏み込んではならないキルゾーンを早急に見定めなければ、航空宇宙軍だけでなく、陸上部隊の活動にまで大きな支障をきたす。
これは、皮肉にもロシア軍内で陸空の連携が曲がりなりにも機能してきた裏返しでもあります。
そもそも防空能力は、言うまでもなく軍事機密であり、地対空ミサイルの有効射程距離などはカタログスペックや公称値、即ち表向きの数値に過ぎず、実戦で大きく変わってくるのは当然のこと。
そのため、各国の軍事情報部は(仮想)敵国の防空能力を平時から探りを入れ、作戦立案の基礎としている訳です。
それが先日の指揮管制機撃墜で前提が一気に崩れてしまった。
一連の指揮管制機を攻撃した手段が何なのか、色々と想定は出来ます(地対地ミサイルを空対空ミサイルとして運用した、なんてことも無くは、、、無い)が、正直、ウクライナの防空能力には謎が多い。
老兵ゲパルト対空戦車が活躍している側で新鋭の自立飛行ドローンが飛び回り多層複合防衛網を敷いている。
現在のウクライナのキルゾーンを諜報的手段で把握するのは技術的にも時間的にも難しい。
では、指揮管制機を飛ばさないかマージンを採って現状から更に200km後方に退げるか、、、と言えば、それも厳しい。
先程も言った様に陸上部隊は一定の航空支援を前提に突撃を繰り返している。
チンピラ皇帝が切望する東部攻勢による戦果は、ピナルバタリオンの犠牲「だけ」では到底得られない。
防衛なら200km退げても充分でしょう、しかし、攻勢に出るには可能な限り前線付近に進出し、指揮管制を行わなければ航空支援が物理的に後退します。
ロシアはどう出るか?
この話になったとき、一番簡単なのは「航空機飛ばして撃墜された位置で間合いを測る」旨を述べました。
それに対し「流石のロシアも高価な航空機と貴重なパイロットを犠牲にして、それは無いのでは?」とする意見もあり、或いは冗談と取られたのかも知れません。
どうにもロシア軍というものを未だ民主主義国家の近代的軍隊と同列視する弊から抜け出せていない様に見受けられます。
これまで散々言ってきたように、ロシア軍というのは「近代兵器を持った山賊」です。
「最先端テクノロジーを駆使する三千年前の遊牧民」を日本人が理解し難いように、山賊の論理を通常の視点で推し量ろうとするのは陥穽に陥りかねない。
況してや、トップに立つのが帝王学ではなく詐術を修めたチンピラ皇帝プーチンなのだから、軍隊ではなくマフィアくらいに思っておくのが丁度良い。
確かに航空機は高価な装備です。
パイロットも希少。
しかし、墜とされる事を前提とした人材が、それなりに確保できるのもロシアという国。
ピナルバタリオンは通常陸戦部隊を指しますが、懲罰部隊には航空宇宙軍のパイロットも含まれます。
撃墜された輸送機はイリューシン76。1千機以上生産された傑作輸送機で、当然、退役間近であったり退役済み機体の可能性すらあります。
ほぼ代替の効かない早期警戒管制機ベリエフA-50とは比較するまでも無い。
ロシアがやらない理由が無い、、、訳でも無い。
ロシアがやらないとしたら、それは軍事的理由でも人道的理由でも無い。唯一、プライドの問題だと、そう述べました。
航空機の大将首たる早期警戒管制機を喪失、その一点だけで軍の面目は丸潰れだというのに、続け様に航空機を撃墜される様な醜態を晒すのはチンピラ皇帝としても許容し難いだろう。
そんなふうに考えていた時期が俺にもありました。
捕虜を乗せた輸送機とはね、、、
まるでパルプフィクション映画の様じゃないか。
マフィアの拠点に突っ込んできた自動車を蜂の巣にしたら、転がり出てきたのは敵対組織の構成員じゃなく、自分のファミリー構成員の死体だった、みたいな悪辣さ。
撃墜される無能、から「撃墜した方が悪」に入れ替えてしまった。確かにこれならプライドも傷つかんわなぁ。
まるでハマスの人間の盾+自爆攻撃そのもの。
これを大国側がやるんだから、悪辣に過ぎる。
これがロシアの言うような捕虜交換のための輸送だった、という可能性?無い無い。有り得ない。
先ず、捕虜交換は軍事活動というより外交の分野です。特に今戦争真っ最中の国同士が互いの捕虜を取り引きしようとする訳ですから、第三者的立場の仲介役も必要でしょう。
交渉の場や捕虜交換場所は第三国・中立地帯とする場合もあります。
それを今最も激戦区となっている東部戦場空域に向けて輸送機とは言え歴とした軍用機を飛ばすとか、捕虜交換じゃなく軍事挑発のレベルです。
しかも、早期警戒管制機が撃墜されるという不名誉極まりない史上初の大失態が起きたばかりで緊張が高まる中、お得意の列車輸送ではなくコストの掛かる航空機輸送とか何のため?
更に、その輸送機は先に撃墜されたA-50のベースとなったイリューシン76。この輸送機はレーダードームを背負っていないA-50の様なものです。いや、まぁ、A-50の方がレーダードームを背負ったイリューシン76なんですけどね。
大出力レーダー波を発していない事を除けば、偽装するには最適の機体と言える。
それをご丁寧に、ある意味間合いが知れたと言える東南部アゾフ海側ではなく、東部ベルゴロド側から侵入させるとか、墜として欲しいとしか思えない。
ロシアは、捕虜を乗せていると「15分前に通告した」と主張しています。
ラシアンジョークなのか?
そもそも、通告しているかすら非常に疑わしいのですが、通告の内容は、平たく言えば限定的に停戦を求めるのと同義。
戦闘を停止しろと言ってたった15分で止まるなど有り得ん話。
15分前の通告では、交戦規定に基づき半ば自動的に対空攻撃を行う防空部隊に届くハズもない。
外交プロトコルとして有り得ないし、軍事的に非常識以前の問題で、事実確認を行っている間に全てが終わってしまうでしょう。
輸送機の安全を図る意思が少しでも有ればそんな真似は出来ない。
捕虜の輸送が目的でない事は明らかですし、この撃墜によりロシアが得たものを思えば、最初から撃墜される事が目的と考えない方がおかしいでしょう。
ロシアが得たものとは、
・東部ベルゴロド側のキルゾーンの間合い
・陸上のためミサイル残骸などが回収可能
・ミサイルの射点割り出しに必要なデータ
・ミサイル発射に係る無形のプレッシャー
・ウクライナをテロリストと非難する材料
・A-50の撃墜から幾らか耳目を逸せる
などなどなど。
正直、ウクライナ側に打てる手があった訳ではありませんが、してやられた感は強い。
ロシアが盗っ人猛々しくウクライナを非難したところで、西側諸国は冷めた目で見るだけですが、揺さぶりとして一定の効果はあります。
プーチンなどはA-50が撃墜された事など知らぬ顔で
「ゴチャゴチャ言ったところで輸送機撃ち墜としたのはウクライナに変わりねーだろ」
と、まぁ、嫌味たっぷりの仕草と口調でウクライナを論いました。
チンピラ皇帝まじチンピラ。




