早期警戒機撃墜
早期警戒機撃墜
先日(1/15)、ウクライナメディアは、ロシア航空宇宙軍(空軍)の早期警戒機と空中司令機をアゾフ海上空で撃墜した。と公表しました。
早期警戒機とは、でっかいレーダードームを背負った航空機で、その大出力レーダーによる監視を行う高空の目です。
空中司令機は「空飛ぶ航空管制室」と考えれば良いでしょう。
早期警戒機と空中司令機の機能を併せ持つ機体を早期警戒管制機(AWACS)と呼びます。
撃墜されたとされる早期警戒機はベリエフA-50で、同機は管制機能も有しているのでカテゴリー的には早期警戒管制機にあたります。
今回、A-50に空中司令機であるイリューシン22が随伴していたのは、作戦行動や監視範囲がA-50単体の指揮管制能力を超えており、イリューシン22がサポートに付いていたのではないかと推察いたします。
なんでこんなものが要るかと言うと、地上のレーダーシステムは水平線下の索敵は不可能(以前ちょっとだけ触れた様にレーダー波は湾曲しますが微々たるものです)で、遮蔽物に紛れ低空を侵入する航空機を捕捉するのは困難である外、速度の速い航空機などは早期に発見し、味方航空戦力で効果的に対処する必要があることから、高空から数百km先の飛行物体を検知可能な早期警戒機を可能な限り前線付近に派遣する事で、戦場空域の攻防両面で作戦を有利に進める事、即ち、航空優勢を得る事を企図しています。
この、「可能な限り前線付近に派遣」というのが曲者で、早期警戒機自体には戦闘能力も防御能力も有りません(退役したF14トムキャットにレーダードームを背負わせたミサイル戦対応可能な早期警戒機も造られたりしましたが)。
作戦目的から考えれば早期警戒機は敵地に放り込むのがベストなわけですが、軽快な戦闘機ですら踏み込みのが躊躇われる戦場空域に丸腰で鈍臭い早期警戒機など派遣出来ません。
早期警戒(管制)機の指揮管制は前線指揮官のソレではなく、後方に本陣を構える後方司令部としての役割りなわけです。
兵器というものは基本的に損失を前提としています。
それは、高価な航空機や大型艦艇であっても本質的には変わりません。F15イーグルが対空戦闘で100:0を超える異次元の損害比を示していても、それは結果論に過ぎず、被撃墜を考慮せずに運用している訳ではない。
ただし、幾つかの例外も存在します。例えばそれは原子力空母であったり早期警戒管制機が該当します。
原子力空母は艦艇というより、途轍もなく高価な建造物であり、航空基地であり(下手をすると数千億円分の航空機も同時に失われる)、数千人が居住して働く街であり(将官クラスの高級士官をはじめパイロットなどが多数含まれる)、なにより分かりやすいプレゼンスそのものです。運用には細心の注意が払われ、撃沈などあってはならない。
早期警戒管制機も失われる事を前提としていない兵器です。敵に回せば先にその存在を察知され、指揮管制能力で不利な状況での航空戦闘を強いられる。言うまでもなく高価値目標であり、謂わば、早期警戒管制機は航空機の大将首と言えます(首置いてけ)。
後方司令部とも大将首とも言うべき早期警戒管制機は、当然ながら敵の手の届かないところで運用するのが鉄則中の鉄則。
兵器も兵士も損失上等のロシアと言えど変わりはありません。電子機器の塊で高価なA-50は広大なロシア全土でも10機程度しか配備されておらず、パイロットは元より、指揮管制を行うオペレーターなど十数名は、タダでさえ人員不足のおり、おいそれと代替が効かない。
撃墜はあってはならない事態であり、事実としてこれまで戦時下の作戦行動中に早期警戒管制機が撃墜された実例はありません。この戦争では、ベラルーシに派遣しているA-50が現地のパルチザンに中破させられた事例がありますが、駐機中の破壊工作と作戦行動中の撃墜では以後の運用に与える影響が全く異なります。
そんな早期警戒管制機をウクライナはどうやって撃墜したのか?
戦場において早期警戒管制機が目障りな存在であるのはロシアも同じ、撃墜するための研究に最も力を入れている国の一つでもあります。
ロシアの手法は、敵の航空優勢下の空域を遊弋する早期警戒管制機を自軍勢力下から長距離地対空ミサイルで撃墜する。という、ある意味シンプルなものです。
そのために、ロシアは射程数百kmから千kmにおよぶ地対空ミサイルを開発しようとしています。
同時に、撃墜されない為の運用、敵の射程外での作戦行動についての知見も当然の如く有しているハズ。
早期警戒機撃墜の報に俄かには信じられない思いをもったのは私だけではないでしょう。
開戦初期、ウクライナ軍がネプチューンでロシア海軍黒海艦隊旗艦モスクワを撃沈したのとは訳が違う。無名に近い織田信長が今川義元を討ち取ったのと同じくらいのインパクトがありました。
改めて、撃墜時の状況を検証してみましょう。早期警戒機が墜落し、空中司令機が被弾したのはアゾフ海と言ってもほぼ西岸付近、ウクライナ勢力圏に近いものの、私個人がボーダーと認識していた前線から150km以上の距離はとっています。
流石にロシア軍もそこまでトンチキではない、、、とか思ってたら、ロシアの軍事ブロガーから「撃墜はロシア軍による誤射」という目も当てらんない主張が、、、まぁ、あり得なくも無い話ではあります。無敵のF15イーグルを唯一撃墜したのはフレンドリーファイア、即ち味方からの誤射でした。
とは言え、この誤射という主張は今回の場合かなり無理があると思います。というのも、今回、早期警戒機と空中司令機が被弾したタイミングと位置から状況を再現すると少なくとも二度、攻撃が仕掛けられています。
これは、敵からの波状攻撃と見れば違和感は無いものの、味方からだとすれば、それはもう誤射ではなく故意としか思えません。
しかし、この軍事ブロガー、思いがけないデータを提供してくれました。今回、早期警戒機はアゾフ海に墜落したものの、空中司令機は被弾後RTBに成功し、被弾したイリューシン22の画像がブロガーの手でXに投稿されたのです。
イリューシン22は尾翼部にやや深刻な小破級の被害を受けており、見る限り近接作動した地対空ミサイルによる被害、と判断します。
オープンにされているウクライナへの供与兵器のカタログスペックでは今回の早期警戒機撃墜は困難でした。
しかし、今回の早期警戒機撃墜・空中司令機への打撃は何らかの技術的或いは運用面での転換を示しています。
これにより、ロシア軍は早期警戒機の運用を現状から少なくとも80km、場合によっては200km以上後退させなければならなくなる。
これは、中長期的にかなり大きい。
たった一機の撃墜ではありますが、地上戦にも大きな影響を与える非常に、非常に大きなインシデントであるのは間違いない。
、、、本稿は諸般の事情により色々と端折った内容となっているので、言いたいことが伝わってないかも知れませんが、まぁ、寛恕いただきたい。




