周辺事態概観
周辺事態概観
ウクライナ向けのアメリカ国家予算は議会の承認が降りず、後1回、追加支援が実施されると原資が尽きるとのこと。
現状、手続き的に見ても年内の予算承認は無い、と見るべきです。
事実上、ウクライナへの支援が滞る事態が現実となりました。
アメリカ議会は「ウクライナより南米との国境問題を優先しろ」という趣旨で予算に反対しており、まぁ、丸っ切りの嘘でもありませんが、親露議員のロシア援護という面、そしてバイデンが肩入れしているウクライナの勝利は共和党として非常に具合が悪い、、、という面が強い。
大統領選の共和党候補は今のところトランプとなりそう(コロラド州の判決がどう影響するか判断が付きませんが)で、様々な、、、というか何というか、トラブルの塊みたいなトランプを担がなくてはならない共和党議員は、来年の大統領選を見据え、バイデンのポイントを少しでも削っておきたいのが本音かと思います。
予想されていた事態ではありますが、アメリカ大統領選がウクライナの戦争を直撃する状況となってきました。
ウクライナ向け支援は金額ベースではEUから送られて来る支援額が増加しており、構成比ではアメリカのウェイトは1/3程度と見られますが、軍需物資の重要度で考えるとやはりアメリカの支援停滞はかなりキツい。
イギリスやドイツなどが頑張っているので、アメリカの支援のウェイトは低下していますが、アメリカからの支援無しでウクライナが勝利するのは非常に非常に非常に困難です。
仮に、現状の支配地域で停戦ラインを引いた場合、ウクライナが開戦前の国境を回復する可能性は、ロシアがロシアである限りゼロです。
事実上、ロシアは戦争で領土を拡大し、アメリカはそれを阻止出来なかった現実だけが残る。
これは、アメリカの能力の問題では無く、安全保障に対する意思の欠如を示すものとして扱われるでしょう。
何故なら、アメリカ(&イギリスとロシア)は核放棄の代償にウクライナの安全をブダペスト覚書にて保障しているが、支援停止はその約束を反故にするもので、安全保障対象の領土への侵略を国内問題を理由に黙認する行為に他ならないからです。
ただでさえアメリカは国際的な安全保障関連で失点を繰り返している。
バイデン政権だけの責任ではありませんが、ウクライナを見捨てたとなれば決定的な事態になります。
アメリカに安全保障を依存している国家はアメリカを信用出来なくなり、依存からの脱却と核武装を真剣に検討せざるを得なくなる。
結局のところ核を保有する国家が戦争を起こした場合、それを掣肘する術は核以外に存在しないし、国際社会などというものは何の助けにならないと明らかとなってしまう。
反アメリカ陣営は勢いづくでしょうし、ただでさえアメリカの安全保障に疑念を抱いている台湾などは、中国からの侵攻に対抗する意思と自信を減ずるでしょう。
日本とて他人事ではありません。冷戦時代から日本の防衛は、短期的には自国の防衛力で賄うが中長期的にはアメリカなどの西側の協力を得る事を前提としています。
アメリカのウクライナ支援予算の承認はウクライナ一国の問題では断じてない。
アメリカのシンクタンクISW(戦争研究所)は「支援の継続が金銭的にもアメリカの利益に適う」としており、まぁ、ISWは兵器産業と紐付いてるんで鵜呑みにはしない方が良いんですが、言ってることは正しい。
端的に言えば、ロシアが2014年、クリミアに侵攻した際に手を打っていれば事態も損失も費用も、トータルで見れば比較にならないレベルで軽かったハズです。
仮に、ウクライナ支援が打ち切られないとしても、支援が停滞した事により生じる影響を取り戻そうとするなら、停滞期間にも寄りますが費用だけでもトータルで1.7倍から4倍、ロシアに押し込まれたならもっとかかるし、勿論のこと人的損失は取り返しがつかない。
アメリカは民主主義国家であり、アメリカ議会として、ウクライナより国境の壁が大事だと判断するなら、もう他国がとやかく言う事ではない。
しかし、それは民主主義は専制国家を掣肘する事能わずと自ら認める自死に等しいと私は考えます。
先日、プーチンは昨年開催を控えた年末恒例の記者会見を開きました。
会見の内容自体に特段目を引くものはありませんが、感じられたのは「自信」です。
半ば以上茶番に過ぎない会見ですが、プーチンは際どい質問をスクリーンに表示して見せる余裕さえ有りました。
今年の6月頃まで、プーチンは明らかに自信を喪失していました。
ウクライナ戦争終結の一端をプーチンが握っている事を思えば、国境問題などによりアメリカ議会が結束を示せず、プーチンに自信を取り戻す切っ掛けを与えてしまったのは取り返しのつかない後退であり、アメリカだけでなくNATO諸国や戦場に立つウクライナの懸命の努力と犠牲、支援を台無しするものだと断じざるを得ない。
付け加えるなら、アメリカを弱腰と判断したプーチンが現状で満足する事もあり得ない。
プーチンが再びキーウに侵攻したなら、NATO諸国とウクライナがアメリカを信じて戦うことなど出来るハズがない。
アメリカは二重・三重の意味で自らを貶めている。
思い返すまでもなく、潮目が変わったのはハマスの大攻勢以降。
アメリカに限らず世界中の耳目が中東に向き、バイデン政権はウクライナに集中できず、予算審議もウクライナから目を逸らしていました。
西側諸国に対するロシアの工作と思しき動きはウクライナ侵攻以前から顕在化していましたが、このところその活動が顕著である様に見受けられます。
これは別に、ハマスの大攻勢がロシアの仕業などという積もりはありません。
ハマスによる攻撃は、どの様な形であれ、遅かれ早かれ、避けようの無かった惨劇でした。イスラエルによるパレスチナ人迫害は大攻勢に関係なく延々と繰り返されてきたものだからです。
ロシアが煽り唆した面があったにせよ、イスラエルとパレスチナの対立から目を背ける事は適切ではない。
必要なのは事実と向き合いつつ専制国家が得意とする分断工作に惑わされない事です。って、まぁ、それが簡単に出来るなら苦労など無いですね。
正直、ウクライナを取り巻く周辺事態はかなり悪い。
物心両面に直撃したアメリカのそれは既に戦場で表面化してきている。
アメリカ大統領選の意義は充分に理解している積もりだ。それでも目の前の安全保障問題は切り離して行動すべきではないのか?
とは言え、日本のザマを目の当たりにするとアメリカの事を責める気にはなれない。
溜め息しか出ない。




