現状は幾分か悪い
現状は幾分か悪い。
ガザは、イスラエルが占領するでしょう。しかし、それは勝利とはかけ離れた茨の道です。
バイデンの自虐とも取れる「アメリカの二の舞を踏むな」という忠告もネタニヤフに届かなかった。
不毛で悲惨、一方的な攻撃が暫くは続くことになった様です。
フーシ派の話もせんといかんかなぁ、、、と思ったところで、この二ヶ月ほど宗教絡みの話ばっかしてる事に嫌気が差しました。
神なんてもんが絡むと人の醜悪な部分に歯止めが効かなくなるから嫌なんだ。
戦争を避けるには、当たり前過ぎる話ですが「抑止力が機能している状態」であれば良い。
宗教は、その抑止力の幾つか、それも根源的で重要なものをアッサリと吹き飛ばしてしまう。うんざりする。
頭を切り替えて久しぶりにウクライナへと視点を戻します。
残念ながらウクライナ軍の大反抗は失敗、という評価になるでしょう。
メリトポリ・マリウポリを経てアゾフ海に打通する攻勢は衝力を失って歩兵による漸進に頼っており、バフムート方面では逆撃に押されている。
東部方面に集結していたロシア軍は、例によって素人と囚人を使い潰すイカれた猛攻をアウディーウカで展開しています。
これは、大反抗開始時に想定していた失敗シチュエーションより幾分か悪い。
攻勢が衝力を失った戦闘面における最大の理由は、諸兵科連合の機能不全。
有り体に言えば制空能力抜きに地上戦力を進めて地雷原を攻めあぐね、ロシア軍の航空戦力に鼻先を叩かれた、という事。
アメリカ軍サイドは、三方向から攻勢を仕掛けるのではなく、メリトポリ方面に集中すべきだったとしています。
確かに、戦力の集中は基本ではありますが、来ると分かって待ち構えているロシア軍を、一本化した戦力で叩こうとしても、制空能力無しに成し遂げられていたかは甚だ疑問に思います。
まぁ、制空能力の欠如は当初から分かっていた話ではあるのですが、対するロシア軍の航空戦力が、限定的とは言え機能してきたのはウクライナ軍サイドの大きな誤算であったのは明らかです。
大反抗失敗時の想定されたシチュエーションは
・大反抗の開始が遅れていた事から、泥濘期到来により時間切れとなったウクライナ軍は衝力を失う。
・ロシア軍も兵站に難があり、ウクライナ軍の停滞に付け込める余力は無い事から、戦線は最長2024年6月まで膠着する。
・東部方面のロシア軍攻勢は論外。
というもの。
現状はこれより幾分か悪い。
先ず、バフムートと東部方面アウディーウカでロシア軍が攻勢を強めている根本的理由はプーチンがドンバスに拘っているからです。
どうやらプーチンは来年の大統領選に出るつもりの様で、その辺は既定路線というか意外性は無いんですが、出馬表明にあたり「ドンバス獲ったどー!」と言いたいのでしょう。
プリゴジンが獲ったバフムートをウクライナに取り返されては大統領の沽券に関わるし、プリゴジンに出来た事をアウディーウカでもやって見せなければ大統領としての力量を疑われるくらいに思っている。
まぁ、ロシア人のマインドだと強ち間違いでも無い。面子を保てなければ生きていけないチンピラとかヤクザの思考回路です。中国に近いとも言う。
問題はプーチンの意思を実現するための作戦遂行能力。
攻勢・逆撃には多くの戦力が要る。東部方面の稿で触れた様に下士官が不足する素人集団のアウディーウカ方面部隊では尚更の事。地勢的にも不利です。
バフムートとアウディーウカでロシア軍がウクライナ軍を押し込んでいるのには複数の要因が考えられます。
明確に言えるのは三つ。
一つ目は先に述べたロシア軍航空戦力による支援。ロシア軍が戦術を転換した理由は判然としませんが、スロヴィキンの更迭と何か関係が有るかも知れません。
何れにせよ戦術的には真っ当な変化であり、これはかなりキツい。ウクライナ軍も工夫を凝らして対処しようとしていますが、F16が来るまでは抜本的な対策は難しいでしょう。
二つ目は北朝鮮などからの火砲弾薬の供与。
北朝鮮は、少なくともコンテナ1千個、弾薬にして数十万発を供給しているとされます。
北朝鮮の生産能力からすると備蓄を相当取り崩しているハズで、恒常的に供与出来る規模とは考え難いですが、兵站線の息が上がっていたロシア軍が一息入れ、短期的には前線が息を吹き返す切っ掛けとなっています。
三つ目、相対的な面も有りますが、ウクライナ軍の火力投射量が低下しています。
これも理由は判然としませんが、アメリカ議会の予算制限が響いているのかも知れません。バイデン政権が共和党主導の議会から掣肘くらっているのは誰の目にも明らかなので、弾薬の消費を抑える意識が働いても不思議ではありません。
そのウクライナ向けの予算が承認されなければ、年内に追加資金は枯渇するとされています。
支援はNATO各国からも送られているし、予算には抜け道も有るので、即、武器弾薬が無くなる訳では有りませんが、6日の予算決議も否決されたのでウクライナは弾薬に不安を抱えている状況です。
これは、兵士の士気に影を落とす事も避けられない。前線の兵士は思っている以上に後方の事情に通じているものです。不安要素は伝播するのも速い。
数値や画像に現れない「士気」が戦闘に与える影響は大きい。
ロシア軍が、素人や囚人といった士気もへったくれも無い集団を使って、曲がりなりにも戦争が出来るのは、彼らを人扱いしていないからです。
人として扱わなければ幾らでもやり方がある事をロシア人はよく知っています。囚人などを督戦隊が後ろから銃で威して従わせるのは、ある意味、犬や馬などの動物以下の扱いと言えます。
ロシアの刑務所は環境が悪く、囚人間にも厳格なカーストが存在し、下層の囚人には戦場の方がまだマシなのかも知れません。尤も、戦場に出てもそういった下層の人間は明確に区別され、真っ先に使い潰される未来しか無いのですが、、、
ちなみに、ウクライナ軍もロシアほど大っぴらではありませんが、囚人などを動員したピナルバタリオンが存在しています。
流石にロシアの様な人権ガン無視部隊では無いと思いますが、苛烈な戦場に送られているであろう事は想像に難くない。
送られる戦場によって兵士の運命は大きく変わる。
ウクライナ軍はロシア軍とは比較にならない程前線兵士の待遇はマシな部類ですが、どうしても行き渡らない部分は出てくるし、当然ながら戦死・戦傷は付いて回る。
戦争である以上、不公平感や不満、不安などのストレスを完全に解消する方法は存在しません。
また、報道などからは、ゼレンスキー政権と軍首脳部の間にも大反抗の失敗を巡って隙間風が吹いている状況が伝わってきます。
これも前線の士気にマイナスとなりこそすれ、少なくともプラスになる事はない。
こういったメンタルやマインドなどは数値化が困難ですが、最終的な戦果や損害の形となって結果(数値)に影響を及ぼす。
これらの要因により、バフムートやアウディーウカではウクライナ軍が押し込まれる状況となっていますが、東部の戦況自体は憂慮すべきものではありません。
ウクライナ軍は防衛側として充分以上ロシア軍に出血を強いている外、東部への攻勢自体が戦略的なものではなくチンピラ皇帝の面子を立てるための一時的な戦術的優位に過ぎないからです。
北朝鮮の物資供給量には少々驚かされましたが、中期的に見ればイラン程の脅威ではない。
結局のところ、現状の問題点はアメリカのウクライナ向け予算が承認されれば解決或いは緩和されるものが大半で、アメリカ議会の動向がウクライナ戦争最大の焦点となっています。
バイデンは、自身の再選のためにもウクライナの勝利を必要としており、議会に強く働きかけています。
自由議連を翻意させるのは事実上不可能ですが、共和党内の一部であれば切り崩す事は充分可能です。
何とか年内に予算が承認される様願っています。




