ガザ一時的停戦
ガザ一時的停戦
ガザではイスラエル軍による攻撃が続いていました。
しかし、地上では戦闘と呼べる程の交戦には至っていません。
当然でしょう。ハマスにはイスラエル軍と真正面から打つかる必要性も理由も無い。
圧倒的に有利な地下を出て、空爆や砲撃に曝される地上戦を挑む馬鹿は居ない。
ハマスによる地上での応戦は極めて限定的なものに留まるハズ。
では、ガザに見られるイスラエル軍の攻撃は何なのか?
ぶっちゃけた事を言うとイスラエルによるパフォーマンスの様なものだと思っています。
ネタニヤフ政権が「イスラエル軍はハマスを圧倒している」そう主張する為の攻撃。
実際には、死傷者の内に1%でもハマス戦闘員がいるかも疑わしい。ハマスの協力者はいるでしょうが、ほぼほぼ民間人だと思われます。
まぁ、その民間人の被害、イスラエルは本当に避ける、少なくとも抑えようとする意思が有るのか、、、疑念が拭えない。
轟音轟く地上から地下に目を転じれば、イスラエル軍による地下トンネル突入の第一報からは既に2週間余りが経過しています。
地下トンネル内での戦闘はイスラエル軍に相当な被害が生じているハズです。
しかし、人質解放などの成果は聞こえてきませんでした。
ネタニヤフ政権は、イスラエル軍が勇戦している事を示さなければなりませんが、主戦場である地下トンネルはハマスのフィールド。
好意的に見積もってもハマス1に対しイスラエル軍3の損害比率なら良い方でしょう。人質にも一定の被害が出ていると見られる。
ハマスからは時折り「イスラエル軍の攻撃の巻き添えで人質が死亡」といったアナウンスが有りますが、イスラエル側はそんな事を言える訳がない。
イスラエルは「イスラエル人1人の生命はアラブ(パレスチナ)人10人の生命で贖わなければならない」と半ば公言している国です。イスラエルの政治的にハマスと同等以上の死傷者を出すことは許されません。
地下トンネルに突入するのは特殊部隊の精兵で、元より人員が大量投入される類いの作戦ではありませんが、投入人数=死者数となる事は覚悟しなければならない。
失われるであろう人質の生命、既に失われた大規模攻撃の被害者を含めるとハマスの戦闘員を殺害するだけでは到底収まりがつかないのは分かりきっています。
そもそも誰がハマスの戦闘員か当のハマスですら碌に把握していない。イスラエルには吊し上げるべき対象がほとんど存在しないのです。
このままではネタニヤフ政権は保たない。目に見える成果、というより生贄を必要としている。
つまり、イスラエル軍の地上攻撃は、イスラエル兵の犠牲の代償をハマスではなく、民間人に負わせているのではないか、、、という疑念。
言うまでもなく、ハマスはパレスチナではないしパレスチナもハマスではない。
ハマスの代わりにパレスチナの民間人を殺傷して政権に支持が集まるハズがない、ナンセンスだ。そう思うかも知れません。
一面的にはその通り、政権の意図を別にしても、パレスチナ民間人への被害に憤り、心を痛めているイスラエル人も多いでしょう。
しかし「イスラエル」という在り方を私達の尺度で捉えようとするのは事態を見誤りかねない。
ご存知かと思いますがイスラエル国は、物理学から半導体からITから兵器産業から何から様々な分野で世界の最先端を突っ走る国家です。
技術立国であるイスラエル国を支えているのが、伝統とすら言える教育に対する高い関心。ユダヤ人は窮乏していようと教育への投資を惜しみません。
宗教は往々にして知識へのアクセス制限や独占に向かうものですが、宗教をその根底に置きながら教育にも注力しているのは、迫害され続けたユダヤ人の歴史と無関係ではないのでしょう。
余談になりますが、キリスト教原理主義とも言える福音派は聖書に反する科学的知見の一切を否定していて、一般の学校で使われる教科書に聖書の記述と異なる記載が有ると改訂を求めて騒ぎを起こしたりします。
宗教が教育を歪める分かり易い一例ですね。
普通に考えると、聖書は著者も記述時代も一律ではないので、聖書内にも矛盾する記述は其処彼処に見られるし、原典はヘブライ語やギリシャ語で翻訳の問題もついて回る。
万歩譲っても、聖書は神とやらが書いたものではなく人が書いたもので、歴史的に見れば(教会の都合で)何度も改訂されています。
一言一句正しい、なんて事はあり得ないんですが、まぁ、そういう集団がアメリカでは力を持っているという事です。
ユダヤ人の宗教と教育への傾倒は、時折りアインシュタインの様に「(ユダヤ教で言う様な)神なんていねーよ」とかぶっちゃけてしまう例も見られますが、一見アンバランスにも見える独特の思考・メンタルを造り上げる。
その在り方を端的に表すなら「最先端テクノロジーを駆使する三千年前の遊牧民」、でしょうか。
苛烈な環境にも折れない忍耐強さと血は血で贖う砂漠の掟を信奉する精神が混在しています。
そして、イスラエル国を成立させたシオニズムを端的に表すなら「神は長いこと不在だしキリストも現れない、しょーがねーから俺らでカナーン解放するか」というもの。
平たく言うと「神がやらないから俺らがやる」の精神。
そのユダヤ教の神は罰する神です。天変地異や艱難辛苦は神が与える罰であり試練。
「汝殺す勿れ」と戒めておきながら他民族を丸ごと滅ぼせと命じたりもする(その時々の為政者の都合だろ、とか言うのは無しでお願いします)。
つまり、罰せられるべきハマスをイスラエル国が罰するのは神罰の代行に過ぎません(イスラエル目線)。
そして、イスラエル人がイメージする神にとって罰する対象となるのは、ハマスだとか戦闘員だとか、そんなみみっちい単位ではない。
分かりやすく言うなら「三千年前の戦争に民間人や非戦闘員なんて区分はない」のです。
言うまでもなく、戦闘に関与していない民間人の殺傷は戦時国際法で禁じられており、意図的に行った場合は戦争犯罪、、、とか言うの何か虚しくなるよね。ウクライナ戦争だけでも何回おんなじ事を言ったか。
神の戦士vs神罰の代行者(そこ!笑わないよーに!)ではどちらも自発的に矛を収める事はあり得ない。そういう意味では「自重」を期待する、のはほぼ無駄でした。
外的圧力が必要です。
イスラエルへの外圧となり得るのはアメリカ政府、そしてその後ろにある世論だけ。
正直、ウクライナの戦争にしろガザの戦闘にしろトランプが大統領でなくて良かった、としみじみ思う(バイデンで良かった、と断言し難いのが何ともはや)。
バイデン政権からの圧力はイスラエルに平和的解決を促すもので、今まさに合意がなされた50人の人質解放と4日間の停戦は、完全な履行が成されれば、和平プロセスの大きな一歩となります。
バイデンは、この一時的な停戦合意に自信を覗かせていますが、個人的には悲観的というか予断を許せる状況ではない、と思っています。
これまで述べてきた様にイスラエル・ハマスの双方に和平プロセスに強く逆行するファクターが有るからです。
私はハマスによる大規模攻撃以降の一ヶ月半、人質解放交渉に注目してきました。
ハマス対イスラエル軍では戦闘関連で番狂わせとなる要因が無く、唯一のワイルドカードが200人以上の人質で、交渉の推移を見ればハマス側のスタンスが凡そ理解できるのではないかと思っていたからです。
観察し評価した結論として、ハマスによる大規模な人質確保は、極めて戦略性の高いシナリオに基づく行動と見られる、というもの。
ハマスの最終目標はイスラエルの破壊です。
よく言って気宇壮大。少なくとも、ハマス単独では非現実的としか言い様の無い目標でしょう。
イスラエルはアラブ諸国を相手に数々の戦争を勝ち抜き、世界的に見ても突出した軍事力を保持しています。
イスラエルがハマスを軽視していたのは無理からぬ面もあるでしょう。10月7日まで、イスラエルが敵と認識していたのはイランであり、ハマスは眼中に無かった。
敵の敵は味方、というロジックは反米陣営に限りません。事実上アラブの盟主であり、イスラエルとは反目していたサウジアラビアでさえも、対イランという当面する脅威を前にイスラエルと結ぶ方向に舵をとっていました。
半ば完成していたアメリカ・サウジアラビア・イスラエルという対イラン陣営が機能していれば、イランは更なる苦境に立たされたでしょう。
それが今やパレスチナ人の危機に「アラブ諸国」の一員としてイランとサウジアラビアまでもが(表向きは)協力・結束しつつある。
この時点で戦略的にはハマス(イラン)の勝ち、イスラエル(アメリカ)の負けです。まるでオセロの様に黒白が裏返ってしまった。
イスラエル(ネタニヤフ政権)はここで引く事は出来ませんが、アメリカ(バイデン政権)はこれ以上の攻撃は国際的立場からもアメリカ国内の分断という面からも容認出来ない。
イスラエルと言えど無視は出来ないアメリカの圧力を見越し、ハマス側は戦略的に人質解放の交渉を進めたでしょう。
その結果は、今後の展開は、解放される人質の人選、4日間の停戦が完全に履行されるか、にかかっています。
もう暫くは中東情勢を注視していく必要があります。




