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もうちょいブレイクダウン

もうちょいブレイクダウン


中東関連の質問が多いので、もうちょいブレイクダウンします。

民族と宗教の問題には関わりたくないんですけどね、、、


問:ロシアとハマスは繋がってんの?

ハマスはイスラム教スンニ派の原理主義者集団で、例によって敵の敵は味方、という事で反米のロシアとは同盟に近い関係があります。

ロシアと北朝鮮の関係が近いと言えばイメージし易いかも知れません。表立っては支援できないが、FSBやSVR(ロシア対外情報庁)などを通じて繋がっている。

流石にロシアが戦時下にある現在は装備面の支援が有るとは考え難いですが、何らかの支援或いは使嗾があるのは確かかと思います。

一方、ハマスに近いロシアとイスラエルは反目しているか、というと必ずしもそうではありません。

イスラエルは割りかし民主主義的な国(民主主義指数ではアメリカより上)で議会の影響力がそれなりにあるのですが、イスラエルには建国以来ロシア系ユダヤ人が多く移り住んでいるほか、ロシア系ユダヤ人に混じってロシアから移住してきた「なんちゃってユダヤ人(似非ユダヤ教徒)」が結構な規模となっており、親露的な政党が一定の議席を占めています。

このため、イスラエルはロシアに対する経済制裁に参加しておらず、ロシアは、技術立国でもあるイスラエルとの関係も重視しています。


問:ハマスの位置付けがよく分からない

エゲレス(イギリス)がチラつかせていたパレスチナ地方のアラブ人独立は、紆余曲折あって1988年にパレスチナ解放機構(PLO)のアラファト議長により、パレスチナ国の名で一応の独立宣言に至っています。

尤も、当時のアラファトは良く言ってゲリラの親分みたいなもので、到底、国家の態を成していませんでした。

その後、オスロ合意などを経て、数年がかりで所謂ヨルダン川西岸地区とガザ地区にアラブ人による実効支配をもたらします。

これは、イスラエル国とPLO双方の和平プロセスに拠るところも大きかったのですが、、、まぁ、反発する層も多かった訳です。

当然でしょう。迫害とテロルは既に無数の死者を、孤児を、寡婦を、イスラエルとパレスチナ双方に拭い難い憎悪を拡大生産していた。

パレスチナを解放する、というPLOがエルサレムを明け渡したままイスラエルと共存するなど許されない、という宗教的反発も激しい。

オスロ合意に関与した人の多くが暗殺されているし、アラファトの死にも暗殺説は根強い。

PLOへのパレスチナ国民の反発などを吸収する形で伸長した勢力がハマスです。

元々はボランティア団体みたいな活動をしていた記憶があるんですが、イスラエルへの憎悪とPLOへの不満の受け皿になった事で先鋭化し、イスラエルに対して自爆攻撃を繰り返すテロ組織となっていきます。 

勢いを得たハマスはパレスチナ国の議会選に勝利し、首相を選出するまでになったのですが、この時既にハマスはテロ組織として認識されていたため西側を中心に拒否反応が起き、議会選で議席を失ったPLO(政党としてはファタハ)とも対立します。

ハマスとPLOは武力衝突に至り、最終的にガザをハマス、ヨルダン川西岸をPLOが支配する現在の状況に繋がっていく訳です。

え〜、じゃあ、結局ハマスの位置付けって何なん?と言われると「ガザ地区を武力で実効支配しているイスラム教スンニ派の原理主義者集団」としか評しようはありません。

パレスチナ国・パレスチナ人を代表している訳では無い(国際的にパレスチナを代表している、とされるのはPLO)し、ガザ地区を代表している訳でも無い。

イスラエルを攻撃するハマスを、ガザ地区のパレスチナ人は英雄の様に支持しているやも知れませんが、巻き添えにされたり盾扱いされることに怒りも感じているでしょうし、はた迷惑だと思っているかも知れない。

一つだけ言えるのは、ハマスが重要視しているのはイスラム教だけです。

パレスチナ国もパレスチナ(民間)人もイスラム教の礎となるなら、ハマスは嬉々として火に焚べるでしょう。

ハマスの「パレスチナの解放」とはパレスチナに住むアラブ人のためのものではない。

これを頭から外してはいけない。


問:宗教の原理主義は何でこんな過激になるわけ?

原理主義って言っても色々あるからなぁ、、、

原理主義は宗教の教義を「無謬のもの」とするとこにキモがあって、教義や宗教的使命を無条件に正しい、とする思考は信者には物凄く楽なんだよ。

「考えない思考」と言っても良い。この状態は本来なら何重にも存在する道徳心やプリミティブな正義心、共感性といった心理的ブレーキをあっさり取っ払ってしまう。

反対に、異教徒にも親兄弟、妻子が居て普通の人として暮らしている。そこに宗教での違いなんか無いし、宗教が異なる事は罪でも何でもない、、、なんて考えが頭の隅に在ると、殺伐とした世界で生きるのは物凄く辛い。

この世界に完全に正しいものなどない。けれど宗教は神と称する絶対者の名を以て肯定するのです。民間人を攻撃する事も民間人を盾にする事も、世界からテロリストと批難されようと「神の戦士」だと「聖戦」だと肯定してくれるのです。

聖戦だなんだと嗾け、自爆攻撃で死ねば天国で毎日処女とむにゃむにゃし放題、とか言ってテロリストを生み出すのは、神とやらの意思ではなく人の利害に過ぎない。

原理主義だから過激になるのではなく、宗教によって人の心理的ブレーキを取っ払い、都合の良いように使おうとする連中がいるだけのこと。

原理主義と言う意味では、ユダヤ教にはウルトラオーソドックスとも呼ばれるユダヤ教の原理に忠実に生きようとする宗派があります。

以前にも説明しましたが、ユダヤ教で言うところのキリスト(油を注がれた者、メサイア)はダビデ王の子孫の中から現れ、ユダヤ人を約束の地カナーン(パレスチナ地方)に導き、ユダヤ王となる人物です。

逆に言うとカナーンの(ユダヤ人への)解放はキリスト(ナザレのイエスはユダヤ教的にはキリストと認められていません)によりもたらされなければならない。

現在のイスラエルがパレスチナ地方を占拠している状況は、シオニズム即ち「人間による」エルサレム回帰活動の結果としてもたらされたものであり、ウルトラオーソドックス的には認められるものではありません。

このため、パレスチナ地方は元から住んでたアラブ人に返すべきだ、と考え、実際にアンチシオニズムを標榜して活動し、イスラエル議会にウルトラオーソドックスの議席を拡大しているところです。

面白いのは、このウルトラオーソドックスはイスラエルの中で一定の権威というか敬意を以て扱われている事です。普通に考えれば建国の理念であるシオニズムに反対するなどソ連で言うなら反革命分子でシベリア送りか処刑の対象ですが、ユダヤ教が根底にあるイスラエルでは、ウルトラオーソドックスは宗教的に軽視できないし、ある意味、人種的にも民族的ユダヤ人に近い面もあってか、ウルトラオーソドックスに対しては兵役義務も免除されています。

もう一つ、原理主義という意味で無視できない、というかイスラエルとハマスの戦闘、ウクライナ戦争、そして日本は元より世界に多大な影響を及ぼす原理主義者集団がイヴァンジェリカル、即ちキリスト教プロテスタント福音派です。

繰り返しになりますが、原理主義は宗教の教義を「無謬のもの」としています。

聖書は一言一句正しい、というのが福音派、正に原理主義と言えるでしょう。

これが何で世界に影響を与えるかというとアメリカ人口の二十数%を占めているからです。

この数値は議会選、大統領選に大きな影響を及ぼします。福音派は非常に保守的なので共和党を支持しています。

共和党のトランプがイスラエルの強烈な反撃に、すぐさま「全面的に支持する」と声明を出したのも、福音派を取り込むためです。

アメリカは、人口に占めるユダヤ人比率がイスラエルを除いて最も高い国で、ユダヤ人票・選挙資金はアメリカ政治に欠かせないファクターではありますが、現実的に見ればユダヤ人は人口の2%に届きません。

返り咲きを狙うトランプ最大の狙いは福音派の支持獲得にあります。

なぜ、イスラエルを支援することがキリスト教の一派である福音派取り込みに繋がるのか?

それは、先程のユダヤ教ウルトラオーソドックスの「カナーンの解放はキリストによりもたらされなければならない」という原理主義の裏返しです。

即ち、ユダヤ人がエルサレムを含むパレスチナ地方に戻る事ができた=聖書にある約束は果たされた=(福音派など)キリスト教徒がユダヤ人をパレスチナ地方に戻す力となったのはイエスがキリストである証拠。という論理。

これはねぇ、二千年に亘ってユダヤ教にイエスの神性を否定され続けてきたキリスト教にとって痛快この上無い話なわけ。

原理主義の福音派はイスラエルやユダヤ人を支持しているわけじゃないんです。キリスト教の正しさを示し、ユダヤ教の言ってる事は間違いだ、とユダヤ人に、キリスト教徒に、世界に、知らしめたいのです。

まるで子供の喧嘩の様ですか?


問:イスラエルはやっぱ核兵器持ってんの?

前にも説明したけど、核兵器は設計にも製造にも独特なノウハウが必要。ウランを高濃度に濃縮する工程一つとっても機密の塊です。

特に、イスラエルが必要とする核兵器は極短時間に効率よく核分裂反応を起こす必要があるため、製造には高い精度が求められます。

これは、イスラエルが周りを敵に囲まれ、自領内での起爆も想定する必要があるからです。

自領或いは自領付近で核兵器を使用する事態になった時、不充分な核分裂に終わり、核兵器としての威力より放射性物質を撒き散らす被害が大きくなっては自滅に等しい。

こういう「汚い核」はイスラエルは使えません、、、が、アインシュタインもオッペンハイマーもソ連核開発の立役者ランダウも皆ユダヤ人です。

少数の低出力核兵器を製造するだけなら、おそらくイスラエルはアメリカより高い製造能力を持っているでしょう。

「自衛」に必要とイスラエルが想定しているだけの数は保有していると考えるべきで、イスラエルが大きな危険を感じたなら、使用を躊躇うことはない。

尤も、イスラエルの何ちゃらって閣僚が「ハマスに核ぶっ込んだるぞ」などと発言した(←そこまでは言ってない)のは、脅しですら無く、頭に血が昇った暴走行為でしょう。現状のハマスに核兵器を使う意味は100%無い。

やはり問題はイランの核武装化かと思います。イランの方もエルサレムを擁するパレスチナ地方で「汚い核」は使えない、、、、、、と思いたい。ので、核兵器の製造には慎重になる、、、ハズ。

元々、イランの核開発にはロシアが原子力発電関連で協力しており、ウクライナ戦争でイランの協力が不可欠な今、ロシアが北朝鮮にすら頭を下げている事に鑑みれば、核兵器製造の技術供与もロシアでは無くイラン側が主導権を握っているでしょう。

既に技術供与が行われていても不思議ではない。

イスラエルの自制が効かなければイランが核武装化を公然と進める事も充分に有り得る。

現状、イスラエルには自制がほとんど効いていない。イスラエルが核兵器を持っているか、では無く、イランが核武装化するか否か、という段階にあります。


問:イスラエルはどこまでやる積もり?どんな落とし所が考えられる?

この戦闘の烈度は人質交渉の内容に左右されます。

ハマスが重要度の低い人質を人質交換などで解放し、緊張緩和・鎮静化に動けば、アメリカを含めた周辺各国の仲介により、事態終息に向けた比較的穏健な落とし所、停戦、という展開も充分考えられましたが、案の定というか残念ながら、ハマスは最後まで突っ走る気満々に見えます。

即ち、人質・パレスチナ民間人諸共に「イスラエルに討たれる」事で戦略的目的を果たす自爆攻撃・人間の盾、という戦略。

自爆による直接的な攻撃も人質や民間人を盾にする抑止も、近年はイスラエル側に手の内が知り尽くされ、戦術レベルでの勝利すら覚束なくなっていますが、戦闘に勝とうという発想を転換し、戦闘に負けることで戦略的勝利を得ようとするなら、怖ろしく簡単で極めて有効。

例えば、人質は人質交換など何か対価を得ようとするなら「人質を生かしておかなければならない」というジレンマが生じます。◯す、と脅しながら人質を護らなければならない非常に困難なオペレーションです。

発想を変えれば、人質を人間の盾とし、人質の死により得られるイスラエルに対する国際的批難やイスラエル国内の怨嗟はイスラエルを戦略的に追い詰めます。アメリカはアフガンなどでこの戦略的敗北の結末を嫌というほど思い知らされました。

人質の死の発端はハマス?言うまでもない話です。しかし、批難の矛先の何割かがイスラエルに向かうのも当然の事でしょう。元よりハマスはテロルであると同時に「神の戦士」、テロリストと批難されても何の痛痒も感じる事は無い。

今回の大規模攻撃はイスラエルのネタニヤフ政権にとって致命的とも思える失点です。

人質交換を含めた平和的プロセスによる解決は政権側・ハマス側の動向を見る限りほぼ無い。

ネタニヤフ政権は戦闘で失点を挽回するしかありませんが、最も望ましい鮮やかな人質救出劇は、 ハマスが人間の盾を戦略としている以上、おそらくは凄惨なバッドエンドしか見えてこない。

人質救出作戦の失敗はネタニヤフ政権に大規模攻撃以上の打撃となります。←勝手に失敗扱いすんなし

そうなるとネタニヤフには国家としての威信をかけてハマスを殲滅するしか選択肢が無くなる。

このハマスによる大規模攻撃は、イスラエルが拳を振り上げた時点でイスラエルの戦略的敗北です。

落とし所?

誰も幸せにならない未来しか見えない。

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