イラン
イラン
イランはウクライナ戦争にもハマスとイスラエルの戦いにも関与しています。
現在のイランは1978年にパーレビ朝ペルシャ(イラン)をイラン革命により王政打倒して成立した国家です。
パーレビ朝は王権に基づき欧米型の近代化を進めていましたが、イスラム教とは全く反りが合わず、弾圧で強引に推し進めようとして反発を招き、革命となった結果、イスラム教が国家の規範となる宗教国家イランが出来上がりました。
イランは共和制を採っていますが、最高指導者は同国のイスラム教最高指導者が就くことが憲法で定められています。
イランのイスラム教はシーア派が大多数を占めます。世界的に見るとイスラム教の主流はスンニ派で、シーア派は大きく差が付いた二番手の勢力となります。
シーア派というのは、イスラム教開祖ムハンマドから続く指導者の一人であるアリーとその子孫こそがイスラム教の正統な指導者であるとする勢力です。平たく言うと宗教上の後継者争いに敗れた側の派閥という事。
サウジアラビアなどはスンニ派の国なので、度々血生臭い宗派間トラブルが起きており、現在もイランとサウジアラビアは断交状態にあります。
パーレビ朝は親米・親イスラエルであったため、イランの反米・反イスラエルは筋金入り。
建国の経緯からしてアメリカやイスラエルへの憎悪から誕生した様なものです。
イスラム教は、例えば性の平等や性的マイノリティの尊重、などといった(現在の)欧米の価値観は通用しません。レビ記の時代から同性愛者は死刑と決まっているのです。
欧米型の近代化は信仰が赦さない。自由とは律法で定められた範囲でしか赦されない。
欧米が求める欧米の価値観はイスラム教と相容れない。しかし、「自由の国」アメリカは欧米の価値観こそ「普遍的」で「素晴らしい」ものだと世界中に敷衍しようとしている。
これは、イスラム教的に見れば悪魔の所業なわけです。
サウジアラビアなどは、アメリカらと敵対するのは現実的では無いと判断しているのでしょう。イスラム教の最低限の一線は護りつつ、欧米諸国とも付き合う路線でやって行っている。まぁ、それも中国やロシアなどの専制国家群が覇権を握ればどう転ぶか判りませんが。
イスラム教は本来なら宗教を認めない共産党などとも相容れない存在ですが、アメリカという強大な敵を前に、イランはロシアや中国、北朝鮮やシリアらと結んでアメリカに対抗しようとしています。
イランがアメリカに対抗するパワーの源泉は、やっぱり石油やガスのエネルギーマネーです。経済制裁のため、石油・ガスは闇市場経由で輸出されており、正確な数値は判りませんが、イランのGDPの多くを占めていると考えられます。
長きに渡る欧米諸国からの経済制裁などで苦しんでいるイランにとって、ウクライナ戦争に起因する原油高は大きな助けとなっているハズです。
アメリカやイスラエルを倒そうとするのは、中国が台湾を放置出来ないのと同様、イランの国是です。イラン革命の本質と言っても過言では無い。
当然ながら真正面から戦っては勝てないので、アメリカやイスラエルに敵対する勢力と手を結ぶ事で、やがて来ると信じているイスラムの世界を目指しています。
カスピ海でロシアと結ばれているイランは、ウクライナ戦争への影響も北朝鮮などより遥かに大きい。そもそも、貧乏な北朝鮮とは経済規模が桁違いなのです。
ペルシャ湾に望み、アジアと西欧を結ぶ回廊として古くから栄えたイランは地政学的にも重要性が高く、イスラエル国を包囲するアラブ諸国の外縁に位置している。
今回のハマスの攻撃も、イランの支援が無ければ、これ程大規模なものには成り得なかった。
おそらくは、ウクライナ戦争にアメリカが軍需物資を注ぎ込んでいる現在の状況と無関係のタイミングではない。
ロシアの思惑も絡んでいると見る方が自然です。
不幸中の幸いと言うべきか、イランは直接的にイスラエル国に介入できる位置関係にはありません。
イランがイスラエル国と対峙するための間接的な武力がレバノンに在るヒズボラですが、これもイスラエル軍に対抗しうる規模ではありません。
ハマスとヒズボラの二正面作戦となっても「正面」で打つかれば間違いなくイスラエル軍が勝ちます。
イランにとってヒズボラは失うことのできないピースであり、イスラエルとヒズボラが全面的な戦闘に突入すれば介入は避けられない。謂わば、中東戦争の導火線です。
この導火線はガザ地区まで伸びていて一触即発の状態。
イスラエル軍による空爆はガザ地区で多くの生命を奪っており、ライフラインの供給停止により生活もままならない。
人道上の批難がイスラエルに向かいつつある現状はイランにとって望ましい事態です。
イスラエル国とサウジアラビアの国交正常化交渉が凍結されるなどイランとして得るものが多く、現時点で終息すれば、ハマスの大規模攻撃はイランの一人勝ちと言える状況。
確認できる限りに於いては、イランにしてもヒズボラにしても、全面対決となる中東戦争の準備が出来ている様子は認められていません。
それでなくともイランは、もう一つの「中東の火薬庫」ホルムズ海峡を抱え、常に緊張状態にあります。
これ以上の事態のエスカレーションは、アメリカという虎の尾を踏む事になるとは理解しているハズ。
イスラエル国が一定の譲歩を示せば過剰な反応は出来ないし、しないでしょう。
ガザ地区という導火線に火が付かないよう欧米とアラブ諸国が緊密に連携して事態の鎮静化に努める事、イスラエル国が周辺国の調停・仲介に応じて矛を収める事を望みます。
 




