冬季展望
冬季展望
気候変動の所為なのかウクライナでは秋雨の気配が薄い。
軍事行動が困難になる泥濘期まで1ヶ月程度はある、との見方も出ています。
大反攻で成果を求められているウクライナには僥倖と言えるでしょう。
ウクライナの前線は完全に砲撃戦の形になっており、火力勝負となったロシアはジリープアーの状態で徐々に押し返されています。
今のロシア軍は人員・物資の両面で息切れを起こしている。
特に、オレホフを発したウクライナ軍の攻勢は要衝トクマクを窺える位置に迫り、ロシア軍は精兵を防衛に当てているものの、ウクライナ軍に劣後した火力・兵力では前線を維持する事ができません。
この戦線におけるロシア軍の行動は防衛というよりは遅滞戦術です。
劣勢の中、防衛線の破断を防ぎつつ、後退と引き換えにウクライナ軍の出血を強い、自軍の兵站回復と敵軍の息切れ、或いは泥濘期の到来を待っている。
謂わば、春先にウクライナ軍がロシア軍の大攻勢をバフムートで防衛していた時の戦術です。
あの時のウクライナ軍との違いは、ウクライナ軍は明らかに、ロシアのバフムートに対する政治的執着を見透かして、戦略的に遅滞戦術を「選択」していました。
しかし、今のロシア軍に選択の余地があるわけではなく、防衛は不可能であるが撤退も許されず、結果的に遅滞戦術の形をとっているだけです。
ウクライナ軍が後退時、トラップを仕掛けるなど一定の秩序ある動きを見せていたのと比べ、ロシア軍では潰走が目立ち、部分的な防衛線の破断も見受けられます。
ウクライナ軍は今、押しの一手、攻勢を緩めることはロシア軍の火力・兵力の回復を意味し、アゾフ海への打通に繋がる千載一遇の好機を逃すこととなります。
当然、そんな事ウクライナ軍には言うまでもない。
このところ、ゼレンスキーを始め、ウクライナ政府・軍の首脳部から、冬季まで攻勢を続ける旨の発言が相次いでいるのは、ウクライナ軍は泥濘期から冬季の過酷な戦闘条件下での戦闘継続を視野に活動しているという事です。
正直言って、10月以降の天候が戦況にどう影響するか全く予想が付かない。
泥濘期が何時からどの位続くのか。冬季の気温は?去年の様にカチカチに凍るまで行かない?
そもそも泥濘期が来るのか、、、例年の状況と違っている可能性は高いし、当然、局地的にも状況は変わってくる。
それでも、装甲を押し立てての戦闘が全面的に展開する状況は想定し難い。
暖冬であれ厳冬であれ、一定の降雨が無いとは思えない(、、、と言い切れないのが何ともはや、、、)からです。
戦車が沈む程のぬかるみは地雷限より厄介です。爆破する事も除去する事もできない。局所的なものならまだしも、広範囲のぬかるみは事実上通過不能。
現在の主戦力たる榴弾砲の運用にも支障を来たすでしょう。砲撃戦は反撃を喰らわないよう、数発撃つ毎に移動を繰り返します。
地面の状況は、実見しなければ気象データだけでは分からないので射座の確保には難儀する。砲撃戦というより、ハイマースなどを使った榴弾砲射程外からの支援射撃が中心となるかも知れません。
結局のところ、戦車でも榴弾砲でも無く、ぬかるみの条件下でも活動できる歩兵戦力に頼るしかない。
ぬかるみや寒さの中、非装甲の歩兵で防衛線を攻略するのは相当な被害を覚悟する必要がある。個人的には躊躇する選択肢です。
作戦の概要は夜間行動を含む浸透戦術に近いものとなるのではないかと考えています。
その成否は、作戦を理解し、訓練を積んだ歩兵部隊を用意できるか。兵站線へ更なる打撃を加えられる長距離攻撃手段を確保できるか。敵陣を混乱させる特殊部隊などの活動にかかっています。
正面からの攻略は防衛側のロシアが余りにも有利なので、後方を扼する手段は極めて重要です。
攻勢を続けているウクライナ軍の疲労も無視できないので、兵力のローテーションができているかも懸念されます。
困難な作戦となるのは間違いない。
一旦、大反攻を中断し、改めてF16などの装備を受領してから、再度の反攻に賭けるのとどちらが良いか、判断は難しいところです。
ウクライナは、継続という選択肢を選んだ。
で、あるなら可及的速やかにアゾフ海打通が成るよう祈るだけです。




